失語症研究
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8 巻 , 4 号
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原著
  • 浅野 紀美子, 滝沢 透, 波多野 和夫, 浜中 淑彦
    1988 年 8 巻 4 号 p. 267-273
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    慢性期の重度の失語症患者四例に対して, 本邦唯一のセマントグラフィである「LoCoS」を使用した visual communication therapy を実施した. セラピイの第一段階として「LoCoS」より六十語を選択し語彙学習を行ったが, 四例のうち二例はこれを完全に学習した. 一例は不十分ながら一定の語彙の習得が可能であった. 残る一例は保続の頻出のため訓練の継続が困難となった. しかし, この訓練中止例と学習完成例二例において, 自ら何らかのシンボルを作り出すという行動が訓練途中より出現した. visual communication therapy の一つの大きな意味はこのような患者の自発的なシンボルの生成能力を引き出すところに見いだされるのかもしれない.
  • 三村 将, 加藤 元一郎, 横山 尚洋, 鹿島 晴雄, 佐久間 啓
    1988 年 8 巻 4 号 p. 274-282
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    Landau-Kleffner 症候群 (LKS) の 8歳男児例を報告した.言語的には語音認知以外に楽音や環境音認知の障害も見られ、広義の聴覚失認の病像と考えられた.言語機能低下と多動との間に相関が認められ,両者ともメチルフェニデートにより改善し、ジアゼパムにより増悪した.これらの薬剤は vigilance の変動に左右して症状に影響していると椎測される. LKS の病因については従来、てんかん性異常による言語機能の選択的抑制説と限局性脳炎説という 2つの仮説が提示されてきた.本症例では言語機能の変動と脳波上の変化が相関せず、てんかん性異常波により直接的に言語機能が抑制されるという仮説は支持されなかった.一方,画像診断上,限局性脳炎を示唆する所見は得られず、むしろ聴覚機能に変動を認めることや脳波上多焦点性の異常を認めることからは側頭葉に限局しない,より広い系の機能異常が想定される.ひとつの系として皮質—皮質下—網様体系の障害を考えることも可能である.
  • 大江 康雄, 加藤 元一郎, 鹿島 晴雄, 半田 貴士, 鶴岡 はつ
    1988 年 8 巻 4 号 p. 283-290
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    左半側空間無視を伴い, 右手に道具の強迫的使用現象を呈した症例を報告した. 患者は脳梗塞で発症した 74 歳, 右利きの男性. CT では両側前頭薬内側面, 脳梁膝部および右中大脳動脈領域に病変を認めた. 左片麻痺, 右手の把握反射, 本能性把握反応のほか道具の強迫的使用現象が認められた. 失行は認められなかった. 本症例では, これまで報告のなかった二つの顕著な特徴を認めた (1) 対象を認知している場合でも, 閉眼では道具を強迫的に使用することがなかった. (2) 対象から視線がそれると強迫的使用が一時中断した. これらの事実から本症例では, 視覚を介した対象認知が症状発現にとって必要不可欠であると考えられる. さらに, 道具の強迫的使用現象が左半側空間無視と平行して推移したことで, 左半側空間無視によって右視野に過注意状態が惹起されていたことが道具の強迫的使用現象の発現に何らかの関連を特っていたとも解釈できる.
  • 大野 恭子, 浦上 郁子, 神取 由美子, 朝田 真理, 西川 隆, 田伏 薫, 柏木 敏宏
    1988 年 8 巻 4 号 p. 291-298
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    失語症者 40名に対し, 直接には言語を用いずに, 線画に色を塗る色塗り検査と, 正しい色塗りを選ぶ検査を行い, これらと SLTA の各項目, 色名と線画の対象名の呼称・聴覚理解, 及び対象の形態の想起 (描画検査) との関係を調べた. 色塗り検査で失語症者の半数が健常群の最低得点を下回る成績を示し, 全失語, 後方領域にも損傷が及ぶ重度の Broca 失語, 意味理解障害が重篤な Wernicke 失語, 超皮質性感覚失語, 及び, 約半数の健忘失語で障害が見られた. 色塗り検査と正しい色塗りを選ぶ検査の成績の間には高い相関が認められた. 色塗り検査の成績は, 復唱や音読の成績とは相関せず, 語の想起や意味理解の成績と有意に相関していた. なお, 色塗り検査と描画検査の間には相関が見られなかった. これらの結果より, 失語症者の色塗り課題の障害には, 音韻を処理し操作する過程は関わらず, 対象の属性を分離・認知する概念操作過程の障害が関与していると考えた.
  • 大塚 晃, 波多野 和夫, 重松 一生, 加茂 久樹
    1988 年 8 巻 4 号 p. 299-304
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    特異な言語症状の経過を示した老年痴呆の一例を報告した. その特徴は反復言語と反響言語の症状変化である. 観察当初, 検者の質問を受けると, 患者はまず質問をそのまま一度繰り返し (反響言語) , それから答えるべきことがらを発話し, さらに引きつづいて, その答えをかなり長間隔で何回も繰り返した (長間隔反復言語 LIP).その後経過と共に反復言語の間隔が短くなり, 通常の短間隔反復言語 SIP になると共に, 患者自身の答えの部分がなくなり, 質問をそのまま反響し, 引きつづいて反響した言葉を反復するという反響反復言語の形式に移行した. このような現象の理解には「意図と自動症の戦い」という概念が重要な意味を与えると思われた. また, 性格変化から始まり, P. E. M. A. 症状群, 前頭葉の萎縮や血流低下が認められる点から, Pick 型痴呆, またはその近縁疾患の可能性が考えられた.
  • 加藤 正弘, 佐野 洋子, 宇野 彰
    1988 年 8 巻 4 号 p. 305-319
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        構成行為障害におよぼす局在性およびび慢性脳病変の影響を検討した. 対象は右半球損傷47例, 左半球損傷54例, び慢性脳損傷43例の計144例である. 構成行為は立方体透視図模写をもって判定した. 脳病変はCTの面積計による測定によった.
        結果は以下の如くである.
         a) 局在性病変のみの群では, 1) 右半球とくに後部損傷では左半側視空間無視と関連する描画障害が高度である. 左半球損傷では構成障害は軽度であるが, 右下方での誤りが多い. 2) 立方体模写の線分数には左右半球損傷例内に明らかな差異は認めない.
         b) び慢性病変のみの群でも構成障害は高度となる. 1) とくに頭頂部萎縮群では左側無視傾向と, 保続と関連すると思われる線分増加がみられる. 2) 脳室拡大群では無為によると思われる行為の中断と注意力散浸か特徴的である.
         c) び慢性脳病変の構成行為障害におよぼす影響を強調したい.
  • 田川 皓一, 宍戸 文男, 塚原 ユキ, 沓沢 尚之
    1988 年 8 巻 4 号 p. 320-327
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    脳梗塞による失語症者 44 例を対象として,ポジトロン CT により定量的に脳循環代謝量を測定し, 失語症のタイプや重症度との関連性について検討した.失語症のタイプでみると,運動失語群では側頭葉後部に比し前頭葉後部での, 感覚失語群では前頭葉後部に比し側頭葉後部での脳循環代謝の障害が著明であった.運動失語群では感覚失語群に比し Broca 領を反映する前頭葉後部で脳血流代謝量が有意に低下していた.失語症の重症度を軽—中等症群と重症群に分け検討すると,失語症各群はコントロール群に比し, 左半球の平均,ならびに言語領での局所脳血流代謝量の有意の低下を示した.また失語症の重症群は軽—中等症群に対し,全く同様の傾向を示した.一方, 右半球では失語症両群間で半球平均や局所の脳血流代謝量に有意の差は認められず, 失語症両群でコントロール群に比し言語領の対称部位での局所脳血流量に有意の低下を認めるのみであった.
  • 国立 淳子, 田中 薫, 波多野 和夫
    1988 年 8 巻 4 号 p. 328-334
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        特異な再帰性発話 (RU) を一例の脳梗塞の症例に観察した.本例の言語症状の特徴は, (a) 非流暢な意図的・命題的発話と, (b) 「こあてこあて…」という流暢な自動的・常同的発話との混在であり, これを主として以下の観点から考察した.
        (1) RU の経過を論じた Alaiouanine (1956)の四段階説を本例に適用するならば, 本例の発話構造は RU と随意的な発話とが混在する「浮動的発話の段階」に相当する.
        (2) 本例の失語型に関しては, (a) の失構音と失文法を中心とする Broca 失語の要素と, (b) の流暢な RU を呈する「非標準的流暢性全失語」 (Poeckら, 1984)の要素との, 「混合失語」 (mixed aphasia) と評価することが適切であろう.また本例の発話には, 言語の意図的要素と自動的要素が同時に混在するとも考えうる.
        (3) 本例の RU の出現頻度は場面や状況によって異なっていたが,これには課題の難易度との関係が示唆され, またストレスを回避しようとする目的論的解釈 (Weinsteinら, 1974) が可能であった.
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