水産増殖
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ニジマスの貯蔵精子の賦活について-予報
橋本 進
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1961 年 9 巻 3 号 p. 133-142

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抄録

1 ニジマスの貯蔵精子は適当な環境下では相当長期にわたり活力を保持し, 本実験では5日間生存した。
2 貯蔵精子の活力はその終局部において急激に減退し, あたかも2次反応的である。
3 精子は, 空気から隔離された場所で貯蔵された場合には, 速かに活力が低下する。
4 採精直後の精子では用いたすべての媒精剤で賦活され, 特にD-果糖を含む生理的食塩水中で長く活動した。
5 貯蔵時間の経過にともない精子の活動力は減少し, 特に蒸溜水による賦活反応が特異的である。
6 活力の低下した貯蔵精子は空気にさらすことにより活力を回復する。 しかし貯蔵時間の経過にともない回復は不充分となる。
7 空気中放置による精子の活力回復は, 媒精剤に蒸溜水を用いても認めることができるが, そのさいの賦活反応は果糖を含む等調媒精剤を用いた場合に比べて特異である。
8 精子の活動のエネルギーは一般的には呼吸によると考えられるが, 解糖作用の存在を示唆するような実験結果もあった。
9 酸素と隔離された場所での貯蔵精子の活力減退は, CO2の蓄積のほかに, 精子自身の内在基質の減少にもよるものと思われる。
10 空気中放置による精子の活力回復効果は, 果糖を含む媒精剤を用いた場合特に顕著であり, この事実は, 空気中にさらすことにより貯蔵精液中のCO2が除去されること, および曝気中に果糖利用のための制限因子が形成されることを示唆する。
11 親魚の飼育条件の相違により精子の活力は異なる。 これは精子の内在基質の蓄積量に差があるためと思われる。
12 貯蔵精子の活力減少はアセチルコリンと特別な関係はなく, 精子自身に充分な量のアセチルコリンが保有されていると思われる。
13 ニジマスの精漿は精子の活動を阻害する作用を有する。

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