年報カルチュラル・スタディーズ
Online ISSN : 2434-6268
Print ISSN : 2187-9222
投稿論文
韓国人の夫との会話における在韓日本人女性の日韓問題との関わり方
――語ることで示されるアイデンティティについての考察を 通して――
竹村 博恵
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2022 年 10 巻 p. 57-81

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抄録

 本稿の目的は、在韓日本人の中でも韓国人男性と恋愛結婚をして韓国に移住し現地で日韓にルーツをもつ子供を養育している日本人女性たちに焦点を当て、日韓の政治的・歴史的問題の影響と共存しながら生活している彼女たちが、日常生活に介入してくるそれらの問題をどのように受け止め関わっているのか、またその際にどのような社会状況に身を置いているのかについて明らかにすることである。彼女たちを対象にした先行研究では、日韓の国際結婚は日韓の政治的・歴史的問題に起因する葛藤と緊張が生活の中に内在化している点で独特な挑戦であるとされ、その影響が彼女たちの生活・精神面に様々な悪影響を及ぼしていると報告されている。しかしながら、現段階ではその問題と彼女たちの関わりあいに注目し詳細に調査した研究は日韓両国ともに大変少ない状況である。本稿では在韓日本人女性が韓国人の夫と日韓の政治的・歴史的問題に関する話題を話し合う語りと話し合わない語りという2種類のデータを分析対象として取り上げる。そして、バトラーの思想に基づきインタビューを対談という相互行為の場として捉え、そこに現れたスモール・ストーリーをポジショニング分析の手法に従って分析・考察し、彼女たちが夫との会話の中で日韓の政治的・歴史的問題に関する話題をどう受け止め関わっているのかを調査した。その結果、両データの語り手がともに日韓の政治的・歴史的問題に関する話題を夫婦関係を悪化させる要因として認識していることがわかったが、その対処法には話し合う事例と話し合わない事例において異なりが存在した。話し合わない事例では家庭の平穏のため夫婦がその話題を会話から切り離そうと試みていることがわかった。話し合う事例では、話し合うことは継続しているがその際には、日韓の国家的戦略に惑わされないよう日韓以外の国の情報に基づいて話をするなどの工夫が行われていることが明らかになった。

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