年報カルチュラル・スタディーズ
Online ISSN : 2434-6268
Print ISSN : 2187-9222
投稿論文
生贄を作り出す器官
「ラメラ」の神話の分析に基づくラカン的主体理論の再構成
客本 敦成
著者情報
ジャーナル フリー

2025 年 13 巻 p. 43-63

詳細
抄録
神分析の四基本概念』に登場する「ラメラ」(lamella)の神話の内容を分析することを通じて、「生贄」(sacrifice)をモデルとしたラカン的主体理論を提示することである。先行研究においてラメラの神話はラカンにおいて重要な議論だと考えられていなかったが、本論文はラメラの神話を、器官の水準で作用する欲動の運動を語るものとして解釈することによって、積極的に評価する。そして同時に、この解釈を通じて、ラメラの神話に基づくラカン的主体理論を、ラカンの記述から再構成する。
具体的な作業としては、まず基礎作業として、ラカン的主体理論の基本的な構成要素である「シニフィアン」、「疎外」および「分離」の理論を概観し、ラカン的主体理論の基本的なアイデアを示す。次に、ラカンの欲動論と「欲動と欲動運命」におけるフロイトの欲動論を比較し、ラカンがフロイトにおける対象aの不在を批判していることを示す。そのうえで、ラメラの神話が、このフロイトの欠点を補いつつ、フロイトの欲動論同様に、各器官に内在する欲動の運動を語るものであることを示す。最後に、ヘーゲル『精神現象学』における「奴隷」モデルの主体理論と対照するかたちで、「生贄」をモデルとするラカン的主体理論を提示する。
ただし、ラカン自身は精神分析家の立場を堅持し、あくまでこの「生贄」の主体とは批判的に対峙した。そこで斎藤環の「おたく」論と比較することによって、この理論の文化研究における応用可能性を示す。
著者関連情報
前の記事 次の記事
feedback
Top