年報カルチュラル・スタディーズ
Online ISSN : 2434-6268
Print ISSN : 2187-9222
「ハーフ」の技芸と社会的身体
SNSを介した「出会い」の場を事例に
ケイン 樹里安
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2017 年 5 巻 p. 163-

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抄録
近年、着実に多文化社会へと移行しつつある日本社会において、「ハーフ」と呼ばれる 人々への社会的関心が増大している。呼応するように、特定のルーツおよびルートをもつ 「ハーフ」が直面する諸問題や支配的なメディア表象の変遷に着目した研究が登場しつつあ る。だが、いずれも端緒についたばかりであり、より経験的な水準で、「ハーフ」が直面す る問題状況やメディア表象と関係を切り結ぶ日常的な実践に照準した研究が求められてい る。そこで、本稿では、すぐれて現代的な現象であるSNS を介した「ハーフ」たちの「出 会い」の場に着目し、多様なルーツ/ルートをもつ「ハーフ」たちが織り上げる相互行為 秩序の様態に迫ることで、上述の課題に部分的に応えることを目的とする。具体的には、 SNS を介した「出会い」の場において、しばしば見受けられる「生きづらさ」を「笑い飛ばす」 実践とその実践をめぐって生起する成員の序列化と排除という出来事を中心的に取り上げ、 M. セルトーの「技芸をなすことArt de Faire」概念を手がかりとして考察を行う。一見する と、相互行為秩序の規範をめぐる普遍的な出来事であり、いかにも現代的な若者文化らし い特徴を備えた振る舞いだとして素朴に解釈され、見過ごされかねないほどきわめて「平凡」 な振る舞いが、実際にはマイノリティの社会的身体に密接に関連した緊張をはらんだ技芸 にほかならないことを示す。現代日本社会において生起する多文化状況における、コンヴィ ヴィアリティのありようを批判的に探索するためには、マイノリティの技芸とそれがもた らす序列化と排除の機制に照準した経験的研究の蓄積が必要であることを、本稿を通して 示唆したい。
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© 2017 カルチュラル・スタディーズ学会
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