2011 年 47 巻 1 号 p. 132-137
パキスタン北部では,乾期における用水の不足が,農業生産上の深刻な障害となっており,伝統的な灌漑水路の利用によって発生する漏水や蒸散等の水の損失を防ぐために,灌漑施設の改良が緊急の課題となっている.本論文では,伝統型・改良型水路を利用している農家の比較分析を行い,灌漑水路改良プロジェクトの意義について評価を行った.
分析の結果,改良型水路を利用する農家と伝統型水路を利用する農家には,特に乾期の面積当たり収量や収入で統計的に有意な差が確認された.また,水路の改良により水の利用が容易になった農家は,高収量品種や肥料,農薬等の投入財の利用を増やそうとすること,水路を改良するための費用は少額であり,小規模農家であっても十分に投資が可能な金額であることを明らかにした.