農林業問題研究
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個別報告論文
若年無業者支援における農業の導入実態と課題
中本 英里胡 柏
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2015 年 51 巻 2 号 p. 116-121

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1. はじめに

農業の有する医療的・福祉的機能を活用した取組は,作業療法の一部門あるいは「園芸療法」として普及してきた経緯があり,主に医療・福祉分野において有効性が検証されてきた1.しかし,近年では農業分野においても注目が高く,2010年3月策定の「食料・農業・農村基本計画」以降,「食料・農業・農村白書」では関連する取組が継続的に取り上げられるようにもなっている2

農業が有する療法やリハビリ等としての側面のみならず,経済活動や生産財としての側面を活用した取組は,高齢者や障害者の就労支援の一手段,農業振興,農村活性化の手法としても期待されており,2013年度以降の農林水産省予算にも反映されている.片倉他(2007)は,農業経営における障害者雇用が,農業者にとって安価な労働力の確保や経営意欲の向上に繋がることを示唆し,飯田他(2011)は,社会福祉法人等による農業分野への進出が,耕作放棄地の活用に結びついている実態を明らかにした.

これに対して本研究では,若年無業者支援を対象領域とする.支援現場における農業の導入は,既に一定の蓄積があり3,農作業の効果として,心身の健康回復や就労意欲の向上等が認められている他,農業活動の遂行が,地域農業における労働力不足の補填あるいは耕作放棄地の削減に寄与している実態が事例分析により実証されている(笹井他,2010).しかし,このような若年無業者支援に関する実証的研究の蓄積は少ない4.まずは,農業活動に焦点を絞った支援実態の解明が必要である.

2. 対象と方法

若年無業者は「15~34歳の非労働力人口のうち,家事も通学もしていない者」と定義され(内閣府,2014:p. 39),現在,約59万人にも上ると推計されている.大別して,就業希望を表明しつつも求職活動を行っていない「非求職型」と,就職希望を表明していない「非希望型」に分けられ,求職活動や就業希望を阻害する要因の多くは「病気やけが」とされている.また,工藤他(2014:p. 27)によると,「必ずしも怠惰の帰結ではなく」,1990年代後半以降の不景気に伴う雇用環境の悪化や就業構造の変化等にも由来する.様々な事象が混在しており,単一的な就労支援のみならず,医療・福祉等関連機関との連携を踏まえた支援が求められている.

国による支援は2003年の「若者自立・挑戦プラン」5策定から始まり,その一環として2006年に通所型支援として「地域若者サポートステーション(以下「サポステ」)事業」が開始された.現在,全国に160箇所設置され,NPO法人等により運営されている.サポステでは,相談事業や職業体験事業等を通して就労意欲の向上や職業意識の啓発が目指され,必要に応じてハローワーク等就職斡旋機関による支援へ移行する取組もある.2013年度の進路決定者数は1万9,702人で,その内,83.3%が就職を果たした.農業活動は,主に職業体験事業の一つとして位置づけられており,毎年発行される支援事例集でもその実態が報告されている(日本生産性本部,2013).

本研究では,サポステ事業に対象を限定し,支援現場における農業活動の導入実態と課題を明らかにする.全体の導入状況の把握についてはアンケート調査を実施した.調査票は2013年9月~11月の間,郵送により全国すべてのサポステに配布し,スタッフによる回答返信方式とした6.その結果,96件の回答を得た(回答率60%).また,事例分析として,Sサポステを対象に現地調査を実施した.Sサポステでは積極的な農業活動が見られる他,利用者の進路決定率が高く,運営法人として「若者自立支援功労団体厚生労働大臣賞」を受賞した経歴もあることから,先駆的な事例として他の取組に示唆を与えるものがあると考えられる.

3. 若年無業者支援における農業活動の導入実態

(1) アンケート結果の概要

回答のあった96件のサポステのうち,農業活動の「導入歴がある」と回答したのは71件である.活動場所は「借用農地」(35件)と「農家等の訪問先」(34件)のいずれかで多い.作業内容は8割以上が「除草」と「収穫」,6割以上が「苗の植え付け」と「種まき」を実施しており,収穫後の「袋詰め」や「販売」の実施は2割程度である.実施頻度は「単発的・不定期的」,実施期間は「1日間」で最も多いが,「1か月以上」も2割程度ある.現場指導者は「サポステスタッフ」が40件,「訪問・連携先農家等」が33件で,「運営法人の家族」も数件ある.

得られた効果として,半数以上が「就労意欲の向上」と「生活態度の改善」があったと回答し,「就農」が17件ある.参加者から得られた感想として,農作業に対する楽しさや大変さの他,「心身症状の改善」や「スタッフとの距離が縮まった」等も挙げられている.また,期待する効果として6割以上が「コミュニケーションスキルの向上」を挙げている.

一方,取組課題は,「現場スタッフの確保」が16件,「資金の確保」が15件,「活動場所確保」が13件,「農業サイドとの連携」が10件,「特にない」が8件である.農業サイドとの連携については,「サポステサイドから依頼する」が44件,「農業サイドから依頼を受ける」が10件,「連携がない」が13件である.

以上より,支援現場における農業活動の効果に対する認識と期待の高さは確認されたが,取組形態は様々で,実施環境の整備や農業サイドとの連携が不十分な施設が存在することも明らかとなった.

(2) 連携のメリットと課題

農業の医療的・福祉的活動における課題として,医療・福祉サイドと農業サイドとの連携が挙げられる7.以下ではアンケート結果を基に,サポステと農業サイドとの連携の特徴や利点,課題に焦点を当て,実態を具体的に把握していく.

関連項目をクロス集計した結果,活動場所が「借用農地」の場合では「連携なし」が多く,約8割が現場指導者を「サポステスタッフ」とし,「農家等の訪問先」では「サポステから依頼する」が多く,約7割が現場指導者を「訪問・連携先農家等」としていたことから8,「農家等の訪問先」を活動場所とするサポステの方が農業サイドとの積極的な連携が図られる傾向があると考えられる.連携のメリットとして,「農家等の訪問先」の方が得られた効果で「就農」が多かったこと,指導者が「訪問・連携先農家等」の方が作業内容で「農産物販売」と「袋詰め」が多かったこと,「借用農地」の方が取組課題で「現場スタッフの確保」が多かったことから,就農への円滑化,作業内容の多様化,農業サイドからの人的資源の支援に対する期待が高いことが考えられる.しかし,活動場所が「農家等の訪問先」の方が,取組課題で「農業サイドとの連携」と「利用者の希望」が多かったことから,現状では,連携時のノウハウが不十分であると考えられる.

次節では,農業サイドとの円滑な連携が図られているSサポステへの調査を基に,サポステにおける農業活動の具体的内容を明らかにし,先進的取組から示唆される今後の展開の可能性についてみる.

4. Sサポステにおける農業活動

(1) 運営団体の概要

Sサポステの開所は2007年4月である.20年前から若年層の支援に携わってきたNPO法人により運営されている.2013年度の登録者数は266名,うち進路決定者数は158名で,年々増加傾向にある.

運営団体の設立は,高校教師であった前理事長が,不登校や高校中退者等の受け皿の少なさを痛感して,学校を退職し,若者層の支援を開始したことが発端である.1989年にカウンセリングの事業所を立ち上げ,教育支援,障害者就労支援事業を併設し,2000年にNPO法人の設立に至った.

1に現在の事業の仕組を示す.事業内容は相談事業,教育事業,就労支援事業に大別される.障害者支援事業は2006年にNPO法人として独立させ,就労継続支援A型事業所を開設している.教育事業と就労支援事業には自主事業と委託事業があり,サポステ事業は委託事業として2014年まで毎年受託している.自主事業にはカウンセリング,学習支援,ジョブトレーニング等があり,利用料は全て有料であるが,初回から1か月間は無料にするなど,利用者の負担を軽減する等の工夫がなされている.また,具体的な就労体験・訓練の場の整備として,2005年に「NPOカフェ」をフランチャイズ加盟店としてオープンし,2011年に地産地消の店,2012年には自主農園を順次開設している.

図1.

Sサポステを運営するNPO法人の事業概要

資料:聞き取り調査及びSサポステからの提供資料を基に作成.

1)●はSサポステの位置,太字矢印は「具体的な就労体験・訓練の場」が活用される事業を指している.

(2) 経営状況と運営体制

2012年度の事業収入は約1億円で,うち委託事業収入が52%,自主事業収入が30%,その他にNPO会費収入や寄付金収入が含まれている.事業費は人件費が60%,商品や材料の仕入れ高が15%,その他に事務所や各運営店舗の賃借料5%等が含まれている.事業収支のみでは黒字だが,その他管理費等を含めると赤字になる年もある.

運営団体のスタッフは35名,うち9名がサポステ事業に従事している.委託事業専従により期限付きで雇用されている者もいるが,各種保険等を含め待遇面で正規社員との違いはない.採用に当たっては心理士等の資格の有無や経験は特に問わず,支援者としての熱意や責任感を重視しており,ボランティアは採用していない.

(3) 農業活動の実施方法

Sサポステにおける農業活動は,「農家等の訪問先」と「借用農地」を活動場所とし,以下で述べる「ジョブトレーニング事業」を活用している.そのため,サポステスタッフの中には農業専従の者はおらず,基本的には「ジョブトレーニング事業」専従スタッフとの連携により実施されている.

「ジョブトレーニング事業」とは,厚生労働省の「緊急雇用創出事業臨時特例交付金」9を財源とする県の「緊急雇用創出事業」を活用した委託事業の一つで,2010年から2014年現在まで継続的に受託している.農業分野の他に清掃,製造,木工,喫茶がある.指導役として業務にあたるスタッフは「ジョブコーチ」と呼ばれる.「求職者からコーチを募る」という同法人独自の仕組みによりハローワークを通じて採用され,約1か月間の研修を経て指導業務にあたる.現在,農業部門には4名のスタッフが採用されており,利用者の送迎,栽培,加工,袋詰め,販売活動,作業計画作成等を主な業務としている.スタッフの中には農業経験者と未経験者がおり,スタッフ間での情報共有および近隣農家からの指導により,活動内容の充実化が図られている.

Sサポステにおける支援の基本的な流れは,1か月目に主に心理カウンセリングや各種検査,保護者を加えた面談が実施される.2か月目以降にジョブトレーニング等を活用し,希望や状況に応じて農業活動を含む各部門の作業が実施される.その後は,就労等への移行措置が図られる.農業活動は他の活動と比較して利用者からの人気が高く,「一歩を踏み出したい若年無業者には参加に対する心理的抵抗が少ない」,「コミュニケーションが自然な形で取りやすい」と考えられており,支援の導入段階,実質的な活動段階の双方で取り入れられている.

(4) 活動効果と課題
表1. Sサポステ利用期間中に農業活動に参加した利用者の経過と農業活動に対する感想
利用者/
支援期間
経過・農業活動の内容 目標・課題 結果 農業活動の感想
A氏
/約9か月
専門学校中退
↓母親の勧めで利用開始
↓自主農園で馬鈴薯栽培等(約1か月間)
↓連携農家でアルバイト(一時中断あり)
↓自主農園で馬鈴薯収穫・土地整備(3週間)
終了
・就農希望
・運転免許取得
・体力づくり
・運転免許取得
・農業関連会社に正社員として就職
・直接土に触れる楽しさ
・持久力
・コミュニケーション能力の向上
・農業への関心
B氏
/約3か月
在職中にうつ病発症,休職
↓自らサポステを訪れ支援が開始
↓農家でお茶の収穫,自主農園で馬鈴薯栽培,
JAでスイカ選別作業等(計34日間)
終了
・復職
・体力づくり
・気持ちの整理
・決断力の強化
・復職(パートタイムから) ・充実感
・規則正しい生活
・達成感
C氏
/約1年半
在職中に統合失調症を発症,退職
↓障害者手帳取得,サポステ利用開始
↓農業活動に参加(自主農園開設前より)
↓利用者のリーダー的存在となる
就労継続支援A型へ支援移行(関連法人)
・障害者雇用枠での就労 ・関連法人と雇用契約 ・顔なじみの仲間との共同作業が良かった
D氏
/約3年
大学在学中に統合失調症を発症,休学
↓法人内の教育事業支援を受け,大学卒業
↓サポステ利用開始,料理,清掃,
除草ボランティア,解体作業を経験(一時中断)
↓障害者手帳取得,農業活動にも参加
就労継続支援A型へ支援移行(関連法人)
・障害者雇用枠での就労 ・関連法人と雇用契約 ・達成感
・気心が知れた仲間と作業ができ安心感があった

資料:Sサポステスタッフ及び各利用者へのインタビュー調査を基に作成.

1は農業活動に参加した利用者への支援経過と活動参加への感想を示している.A氏とB氏は一般(外部)就労,C氏とD氏は関連法人が運営する就労継続支援A型事業所での福祉的就労を果たしている.支援期間,経過,目標,抱えている課題,支援の方向性等はそれぞれ異なり,農業活動についても同様のことが言える.例えば,「就農」が最終目標であったA氏にとって,自主農園での活動や農家での短期アルバイトは就職に向けての具体的な訓練となり,不足していた体力を補う機会にもなった.B氏は支援終結後に復職を果たしたが,休職に至った経緯では希望職種と従事していた業務内容とのミスマッチがあり,「気持ちの整理」や「決断力の養成」が支援全体の課題であった.農業活動に対する感想では,定期的な農業活動への参加により規則的な生活が取り戻され,充実感や達成感が得られたと述べている.復職への移行段階で必要な心身の健康回復や活動意欲全般の向上が見られたと言える.

また,C氏とD氏は,農業活動における「仲間との共同作業」にプラスの印象を持っていたとの感想を述べた.自閉的傾向があり,他者との関わりが困難である両者にとって,農業活動は無理なく参加できる集団活動として位置づけられていたと見て取れ,今後も実施可能な活動の一つとなっている.両氏は今後,一般就労を目指している.

以上より,農業活動による効果は,各人が抱えている課題によって微妙に異なり,多様な場面で発揮されている.その理由として,まず,上述の通り,利用者が参加する際の心理的抵抗が少ないことが挙げられる.また,Sサポステスタッフによれば,職場体験における農業活動では,製造業と比較して受け入れ先から時間的制約が求められにくいといった特徴も挙げられている.このような特徴を有する点も,多様な場面で適用可能な理由として考えられる.

しかし,就労,復職等の決定的な成果は,決して農業活動のみによるものではない.繰り返し行われた面談やスタッフ間の連携,スタッフの技量,家族の理解が支援過程の根底にあり,さらに農業活動に必要な環境が整備されていたことが,就労支援としての効果獲得に繋がったと見るべきであろう.

Sサポステ運営法人における農業関連事業は,当初は小規模で実施され,農家での体験活動と,地域の農家から無償で借り受けた約1 aの農地(遊休農地)での栽培活動のみであったが,2010年に「ジョブトレーニング事業」が導入された事を機に,農業活動の環境は,以下のように急速に整備されてきた.

先ず,「農家等の訪問先」の確保である.2010年4月時点では受け入れ先農家は2件であったが,2011年3月には17にまで拡大し,2014年5月の調査時点では20以上となった.また,専任コーチが知人農家を通じてJAに作業委託を依頼し,JAの出荷・集荷作業や高齢農家の荷卸しの手伝い等も活動に組み込まれるようになった.JA担当者は「定期的に仕事は依頼できないが,農家の高齢化が進むこの地域では力仕事は人手不足で,必要な時にスポット的な労働力となってくれて大変助かっている」と話しており,同取組は地域貢献にも繋がりつつある.連携先の農家やJAからは1件につき5千円から1万円程度の報酬が支払われ,今後の活動資金としている.

次に,「借用農地」の確保として,自主農園の開設が挙げられる.自主農園は市内中心部から車で20分程離れた山間部にある.地域の農家やJAの協力,市農業委員会の承認を経て休耕地1,104 m2の賃貸契約が成立し,2012年2月中旬より開墾が開始された.同年3月に約5 aに馬鈴薯が植え付けられ,6月下旬に約1 tを収穫した.同法人が運営する地産地消の店で販売された他,10 kgは市内の小中学校へ給食用として寄贈した.生産規模は徐々に拡大し,翌2013年は10 aで約2 t,2014年は20 aで約4 tを収穫した.馬鈴薯の他にニンジン,ダイコン,ブロッコリー等も栽培し,加工品も生産している.収穫物全体の売上高は2012年で約59万円,2013年で約113万円に達しており,自主事業収入の一部となっている.

「ジョブトレーニング事業」に農業分野を設定した理由は二つあり,一つは就労支援としての有効性に対する期待であり,もう一つは,「地域農業の活力創出」のためである.小規模ながらも農業活動を実施していく過程で,遊休農地の活用や農業分野における若い労働力に対する需要の高まりを実感し,就労支援活動を通した農業振興への貢献が期待され,導入に至った.

以上のように,農業関連事業は「ジョブトレーニング事業」の導入に伴い具現化に至り,地域農業への貢献を意識した取組が,結果として農業サイドとの有機的な連携を実現させ,農の持つ就労支援としての効果を発揮させていると言える.その環境整備にあたっては,「ジョブコーチ」の果たす役割は大きい.Sサポステ運営法人では,行政への積極的な働きかけによって人材を確保し,さらに,組織内連携により,農業活動におけるサポステスタッフの負担を軽減させ,支援活動と農業活動の充実化が図られている.しかし,全てのサポステでこれが実現されるとは言い難い.農業の有する医療的・福祉的側面と経済的側面とを上手く融合させた支援を遂行させるためには,両者の中間点に位置するコーディネーターの確保とその育成は必要不可欠であり,今後は,その具体的方策の検討が必要であると考える.

(5) 今後の課題

サポステ利用者の中には諸々の理由により一般就労への移行が困難で,且つ福祉的就労枠に該当しにくい若者や,支援が終結し就労等を果たした場合でも一定期間就業した後に再び離職し,サポステ利用者となる者も少なくない.Sサポステでは6か月以内の離職率は平均で20%程度と把握されている.このような状況に鑑み,Sサポステ運営法人では,現在,「外部就労」が極めて難しいと考えられる対象者の受け皿として,農業を活用した雇用の場が一定の役割を果たしている.自主農園で野菜を生産し地産地消の店で販売する過程で,あるいは高齢農家やJAからの作業請負を通して想定され得る様々な活動を,利用者の訓練や体験と並行させて実際の労働活動とする仕組みである.同活動をより実効性の高い事業へと結び付けるための努力として,2012年にエコファーマーの認定を受け,自主農園の拡大,地域農家との連携による自社加工製品の販売等を試みている.今後は新たに農業法人を設立する意向もある.

5. おわりに

若年無業者支援における支援対象拡充の必要性は,多くの支援現場で認識されており,2014年度よりサポステ事業の中にもフォローアップを目的とした「サポステ卒業者ステップアップ事業」が組み込まれるようになった.職業的自立に際して他者による何らかの援助を必要とする若者への対応については,一概に一般就労が目指すべきゴールとは言えず,訓練や体験を経て就労を実現させ,自立を体現させることが必要である.その環境整備として「中間的就労の場」を各地域の状況に即した労働市場の中で確立させることが方法論として挙げられている(宮本,2012労働政策研究・研修機構,2011).

支援の場を実際の就労の場として運営させるメリットは,法人の存続や事業の継続可能性にも影響すると考えられ,単年度の委託事業に財源を依存する不安定な財務状況を打開する上でも「自主事業」の新たな展開は重要であると言える.今後求められる若年無業者問題の解決策の一つとしても,農業活動の活用は有効であると考えられる.

1  特に精神疾患者に有効であるとされており,日本作業療法士協会(2012)によれば,66%の医療機関で園芸活動が導入されている.

2  平成23年度版はひきこもり者の社会復帰,24年度版は園芸療法士の取組,25年度版はニート等を対象とした農業研修の事例を掲載している.

3  民間の支援機関では政策的支援整備以前から導入されている(プラットフォームプロジェクト,2003

4  株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所(2013:p. 30)の報告では,農業の福祉的取組への注目が高齢者領域に偏っていること,今後は一般勤労世代に注目が必要と指摘されている.

5  経済産業省,厚生労働省,文部科学省,内閣府による施策の一つである.2004年に合宿型支援の「若者自立塾」事業が創設されたが,事業仕分けにより2010年に廃止された.

6  「導入歴の有無」以外の項目は複数回答可とした.

7  片倉他(2007)は「取組継続条件」,飯田他(2011)は「農地有効活用」の条件として位置づけている.

8  χ2検定の結果,「サポステから依頼」,「連携なし」で活動場所の類型間に5%の有意差が認められた.

9  詳細は厚生労働省ホームページ「雇用創出の基金による事業」を参照されたい.

引用文献
  • 飯田恭子・香月敏孝・吉田行郷・小林茂典・出田安利・松島浩道(2011)「福祉施設における農業分野の障害者就労の実態と課題」『2011年度日本農業経済学会論文集』,64–71.
  •  片倉 和人・ 山下  仁・ 工藤 清光(2007)「農業経営における障害者雇用のマネジメント」『農林業問題研究』43(1),78–83.
  • 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所(2013)『平成24年度農林水産省委託調査―農作業と健康についてのエビデンス把握手法等調査報告書』.
  • 工藤 啓・西田亮介(2014)『無業社会―働くことができない若者たちの未来』朝日新聞出版.
  • 笹井美希・川手督也(2010)「日本におけるグリーン・ケアの可能性と課題」『2010年度日本農業経済学会論文集』,220–227.
  • 内閣府(2014)『平成26年版子ども・若者白書』.
  • 日本作業療法士協会(2012)『作業療法白書2010』.
  • 日本生産性本部(2013)『平成24年度版地域若者サポートステーション事業事例集』.
  • プラットフォームプロジェクト(2003)『全国ひきこもり・不登校援助団体レポート,合宿型施設編』ポケット出版.
  • 宮本みち子(2012)『若者が無縁化する―仕事・福祉・コミュニティでつなぐ』筑摩書房.
  • 労働政策研究・研修機構(2011)「「若者統合型社会的企業」の可能性と課題」(http://www.jil.go.jp/institute/reports/2011/0129.htm)[2015年3月3日参照].
 
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