農林業問題研究
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個別報告論文
食用油脂企業の中国国内販売戦略
―江蘇省FC社の事例―
金子 あき子大島 一二
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2015 年 51 巻 2 号 p. 140-145

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1. はじめに

日系食品加工企業の中国進出は,1990年代に,改革開放政策に基づく外資企業への優遇政策の推進により増加した.当時の日系食品加工企業の中国進出の主要な目的は,安価で豊富な労働力を活用し,低コスト製品を生産し,日本および欧米地域への輸出を拡大することであったが,2000年代に入り,人件費・原材料費高騰等のコスト増大,人民元高などの影響により,輸出拠点としての中国進出のメリットはほぼ失われたと考えられる.それにたいして,中国国民の所得増大による消費力の向上が顕著となったことから,多くの日系食品加工企業は,日本・欧米への輸出から中国国内向けの販売に経営をシフトさせ,中国国内販売を活発化させている.

しかし,中国国内販売を推進するにあたって解決しなければならない課題も多い.たとえば中国日本商会(2013: p.20)では,日系食品企業の中国国内販売の課題として,人件費・原材料費等のコスト上昇問題に加え,中国系企業への販路拡大のための販路問題(販売ルートの拡大,取引先の選定),そして代金回収の遅延などの中国独特の商慣習への対応問題をあげている.

なかでも代金回収問題の対応にかんして,石塚他(2012)は,日系食品企業は代金回収等が容易な理由から日系・外資系企業との取引を中心に行っているとし,今後更なる販路拡大のためには中国系企業へ販路を開拓することの必要性を指摘している.

佐藤他(2011)が事例としてあげる日系食肉加工企業NI社は,中国国内販売を拡大する上で,合弁企業の中国系R社に代金回収を委託することにより対応していると指摘している.

また,菊地(2011)がとりあげる日系野菜製造企業VE社は,中国系企業に販路を拡大する上で,主に資本力のある顧客を選定し,前金制での取引を採用することで代金回収のリスクを回避していると指摘している.

齋藤他(2013)は,代金回収問題の対応として,取引先の事前調査や契約書の内容整備といった狭義の債権管理だけではなく,日常の回収管理を通じた未回収のシグナルを察知する仕組みの構築が重要であり,その上で与信限度額の見直しと販売停止処置を行うといった総合的な管理体制を構築する必要性を指摘している.

しかしながら,日系食品企業の中国国内販売における代金回収の課題にかんする研究は決して十分とはいえないのが現状である.

そこで本論文では,販路拡大や中国独特の商慣習などの問題を解決するために,興味深い取り組みを行うFC社(日系F社が中国江蘇省に設立した子会社)を研究事例として取り上げる.FC社は油脂および製菓・製パン素材を生産・販売する企業であるが,台湾系企業との提携により,代金回収問題等の中国特有の問題に対応し,中国国内販売を加速させている.

ここでは,FC社が台湾系企業と提携することになった経緯と,中国の油脂および製菓・製パン素材業界の特徴について整理する.同時に,FC社の現在に至るまでの中国国内事業の展開に着目する.その上で現在のFC社の中国国内販売戦略に注目し,台湾系企業との連携等,具体的な取り組みを明らかにする.最終的に,FC社の事例をもとに,日系食品企業の販路獲得戦略や中国特有の商慣習への対処等の具体的な戦略を確立する基礎条件を明らかにすることを目的にする.

2. FC社および中国における油脂,製菓・製パン業界の概要

(1) FC社の概要

FC社の親会社である日系企業F社は1950年に設立し,大阪府南部に本社を置く,食用油脂と大豆タンパク素材1等の食品素材を取り扱う食品企業である.F社は,オイルパーム,ヤシ,大豆等から抽出した油脂を,機能性油脂や製菓材料,大豆タンパク食品に加工し販売を行っている.F社は,日本国内計8ヶ所に工場を保有すると同時に,積極的に海外市場を拡大し,現在,中国7社,東南アジア8社,ヨーロッパ1社,南北アメリカ2社,アフリカ1社と世界各地に事業拠点を配置する.全グループ従業員数は4,034人である(2014年3月時点).

F社は中国におけるチョコレート油脂や製菓・製パン素材の消費拡大を見込み,中国現地販売を目的に1995年7月にFC社を設立し,1997年12月に創業を開始した.敷地面積は,およそ5万平方メートルである.1995年設立当時の出資比率は,日本のF社が74.2%,同F社グループが7.1%,その他日系商社,中国系企業が18.7%である.現在,FC社の従業員は日本人社員6名,台湾人社員7名(総経理,営業部長を含む),現地従業員は工場300名,営業100名である.

FC社は,中国国内を中心に原材料の調達をしている.主原料のパーム油も同様に,マレーシア等から輸入されたものを現地調達している.設立当初はマレーシアから独自に輸入していたが,保税等の優遇制度の変化で大量にパーム油を仕入れるFC社にとってメリットが減少してきたことと,安価なパーム油が大量に輸入され,現地調達の方が安く仕入れられるためである.

輸送されたパーム油等の油脂原料は,港に隣接する約1万トンの油脂を保管できるオイルタンクに保管された後,精製工場に運ばれ,不純物の除去等が行われる.精製された油脂は,そのままフライ用,チョコレート用油脂などの機能性をもつ油脂として出荷されるか,分別工場で独自の技術で油脂を機能別・用途別にわけ,さらに加工をすすめた製品として出荷される.

分別工場で機能別にわけられた油脂は,マーガリン工場,チョコレート工場,フィリング工場に運ばれる.マーガリン工場では,マーガリンとショートニングが生産され,チョコレート工場では,高品質・多機能な性質を持つチョコレート2が生産されている.また,FC社では,フィリング工場を中国ではじめて設立し,そこで主にカスタードクリームが生産されている.

生産量はマーガリンが16,000トン/年,チョコレートは10,000トン/年,フィリング(カスタード等)が3,500トン/年,その他,精製された油脂を含めると67,000トン/年にのぼる.これら工場ではすべての製品の品質を保つため,冷凍庫,冷蔵庫等を備えており,製品の原料の保管を行っている.現在のFC社の製品別売上構成比は,油脂が約5割,チョコレートが約3割,マーガリン・フィリング等が約2割である.販売先別売上構成比は,流通菓子企業が約6割,製菓・製パン店は約4割を占める.今後は,製菓・製パン店への販売を強化し,3年後には約6割に増加させる予定である.以下では,FC社をとりまく中国の油脂業界と製菓・製パン業界の特徴についてみてみよう.

(2) 中国における油脂業界

中国では,近年,経済成長に伴い食生活の欧米化が進み,油脂需要は増加の一途をたどっている.特にパーム油は,中国へ輸入される全植物油脂の約7割を占める.パーム油輸入量は2000年約140万トンであったが,急激に増加を続け,2012年には日本の約十倍にあたる約630万トンであり,中国は世界第二位の輸入国となった.輸出国は主にマレーシアおよびインドネシアで9割以上を占める(越他,2012: pp.39-43).

政府の優遇もあり,現在,マレーシア系,欧米系,日系(3社)などの外資系油脂企業が中国に参入し,生産・販売を展開している.特に,マレーシア系の大手油脂企業(南海油脂,東海糧油)は沿岸部各地に工場を保有し,大量生産した安価な油脂を販売しており,中国油脂業界に大きな影響を与えている.

このような状況から中国国内における油脂企業は激しい価格競争を繰り広げている.また,取引先の中国系食品企業は,油脂の分別工場を自社内に設置し,油脂企業から油脂を購入しない傾向にあり,FC社の主力商品である油脂の販売が難しくなってきているという.

(3) 中国における製菓・製パン業界

中国における製菓・製パン市場は,近年,年率約120%/年の伸びを示している.上海においては約4,000店の製菓・製パン店があり,現在も増加し続けている.

中国大陸にパン製品が普及したきっかけは,沖縄の日系製パン企業であるG社が台湾系企業M社に製パンの技術指導を行い,台湾系M社が上海に製パン店を出店したことにはじまる.言語・嗜好が近似する台湾系企業数社が中国において製菓・製パン店の進出を加速させたため,現在,中国で展開する製パン店の多くは台湾系である.そのため,マーガリン等の製菓・製パン原料は台湾系油脂企業の商品が好まれている.そのなかで日系製パン企業は現在,4社が進出しており,中国市場に日本技術を用いた高品質な製菓・製パンを普及させている.その他,韓国系・中国系企業が参入している.

現在,中国国民にとってパンの価格は4~7元と高価なため,一般的に食事として定着しておらず,菓子パン等の間食として食べられている.中国全土では未だ多くの人々が中国系ファーストフード店で朝食を購入している状況であるが,今後の経済発展による所得向上により製パン市場は更なる拡大が見込まれている.また,中国では基本的に製パン店がケーキ等の洋菓子をつくる形態が主であるため,製菓市場も同時に拡大する見込みである.

3. FC社の中国国内展開

ここでは,FC社の中国展開について見てみよう.FC社は「現地でつくって現地で売り切る」という方針から中国国内販売を目的に設立された.1995年の進出当初,代金回収が容易な点から日系・外資系大手流通菓子3企業を中心に油脂を販売した.FC社の油脂はマレーシア系油脂企業等よりも品質の面で優位に立ち,FC社は油脂の販売を拡大してきた.しかしながら,近年,中国における油脂企業の価格競争の激化により,高度な加工を必要とするチョコレート,クリーム,マーガリンの製菓3品を主とする油脂加工製品の生産・販売に力を入れている.

FC社の主な販売先は,(1)流通菓子を中心とする食品企業,そして現在,急速に増加している(2)製菓・製パン店があげられる.それでは,個々の販売先の取り組みについて見てみよう(図1).

図1.

FC社の販売構成および品目

資料:調査結果から筆者作成.

(1) 流通菓子を中心とする食品企業への販売

FC社は設立当初から現在に至るまで,流通菓子業界での販売を強化している.製菓・製パン素材の販売は利益率が高いものの取引量は多いとはいえない.流通菓子企業との取引は,利益率は低いが,取引量が多いため,FC社にとって工場の回転率を上げる意味で必要不可欠である.

取引先は設立当初,日系・欧米系企業が主であったが,現在は,数量ベースで,欧米系が約5割,中国系が約3割,日系は約2割ほどであり,欧米系・中国系で約8割を占める.これは流通菓子市場における日系の割合は高いとはいえず,FC社は日系企業との取引にこだわっていないためである.販売品目も,当初は流通菓子の原料となる油脂(チョコレート用,フライ用等)を主に販売していたが,現在,業務用チョコレートの販売を強化している.これは中国の流通菓子市場の特徴として,ブランド力をつけた企業が勝ち残る構造となっていることと関係する.特にチョコレート部門の流通菓子企業の競争は,欧米系企業1社が市場の約6割を占めており,日系,欧米系等が2位争いを激化している.個々の流通菓子企業は少しでも知名度が上がるよう,特色のある独自商品の開発に取り組む必要に迫られている.そのためFC社は日本で蓄積した商品開発技術を応用し,個々の取引先企業の要望に応じた業務用チョコレートの開発・生産を行っているのである.

(2) 製菓・製パン店への販売

進出当初,中国に製菓・製パン店が十分に普及していなかったことと,マーガリン等のフレーバーが中国人の口に合わなかった等の理由により,製菓・製パン素材はほとんど売れなかった.しかしながら,現在,FC社は拡大する製菓・製パン市場を背景にマーガリンを中心とする製菓・製パン素材の販売を強化している.商品はすべて江蘇省の工場で生産され,冷蔵または冷凍により出荷され,販売代理店を仲介し,各地の製菓・製パン店へ販売されている.

以下では,2(3)で述べたように,中国の特殊な製菓・製パン市場へ,FC社は具体的にどのような戦略をとることで参入を図っているのか見てみよう.

4. FC社の中国国内販売戦略

(1) 台湾企業との協力

現在,中国大陸の製菓・製パン市場において台湾系企業が中心であるため,台湾系油脂メーカーの製菓・製パン素材が好まれる傾向にある.FC社は台湾系油脂企業との競争に参入するため,2008年にF社が6割,台湾系大手食品企業が4割出資する形で戦略的提携を結んだ.そして2012年に台湾人を総経理に任命し,製菓・製パン素材の販売強化に力を入れている.台湾系企業との連携により,主に以下の点を実施した.

1) 大幅な人事改革

営業職に台湾人社員6人を採用すると同時に販売担当の25人の現地従業員を100人に増員させ,製菓・製パン店および代理店への営業活動を強化した.営業担当の従業員教育は台湾人社員が行うことにより,販路拡大及び代金回収等の問題に対応している.

代金回収の対応として,中国の商慣習を理解している台湾人社員が現地従業員に教育し,従業員を頻繁に取引先企業に通わせる方法をとっている.この取引先との交流を通じて,相手企業の経営状況や従業員の入替わり等を観察することにより独自に与信管理を進め,見極めを行っているという.

2) 商品規格およびパンフレット等の変更

競合する台湾系油脂企業の製菓・製パン素材企業に対抗すべく,台湾人社員の指示に従い,商品の規格,嗜好,価格,パンフレットの改良を全面的に行った.具体的に,競合する台湾系製菓・製パン素材企業の商品企画およびパンフレットを分析し,主要商品の品質を保ちながら価格を下げる,FC社製品の強みである商品を更にアピールする等の取り組みをした.このことは,製菓・製パン店の好みに対応することにつながった.

(2) 日本の開発技術の活用

FC社は日本のF社の開発研究技術を最大限に利用し,中国市場においても食用油脂関連製品なら何でも揃うというワンストップ・サービスを全面に打ち出している.

また,FC社は特にチョコレートの開発技術を強みにしている.これは,日本におけるF社の業務用チョコレートのシェアが70%にのぼり,チョコレートだけでも数千種類もの商品を開発していることによる.この日本での技術およびノウハウにより,FC社では個々の企業の要望にあった製品をカスタマイズすることが可能となった.中国において,FC社は日本で蓄積したノウハウおよび独自の開発技術により,品揃え,製品知識等の点で商品の差別化を図っている4

(3) 販売代理店および提案営業のアンテナショップ設立

FC社は,2012年5ヵ所であった販売代理店を,現在30ヵ所にまで増加させ,販売拠点の拡大と知名度の向上を図っている.また,アンテナショップであるショールームを上海につづき広州,北京に設立した.ここでは,製菓・製パン技術に精通した専門スタッフが,製品の応用開発や,顧客への製菓・製パン製造技術の指導を通じ交流を図っている.つまり,このショールームは顧客の嗜好やニーズを図る場としての役割を果たしているといえる.

(4) 製菓・製パン職人不足に対応した商品開発

現在,製菓・製パン店の急激な増加の一方で,製菓・製パン職人の不足が深刻化している.そのためFC社は,職人不足を補う製菓・製パン素材商品の販売に力を入れている.例えば,代表的なものにカスタードがあげられる.FC社はカスタードの生産設備を中国ではじめて導入し,製菓・製パン業者向けに販売を開始した.その販売形態は,カスタードが封入された袋の先端がとがっている形状の製品を製造し,袋の先端を切ることで,簡単に絞ることができるように工夫されたものである.そのため素人でもパンやケーキのデコレーションが可能である.FC社カスタードの販売量は約125%/年と増加傾向にあるという.

(5) 製菓・製パン店のチェーン展開に対応した販売経路の確保

中国において,製菓・製パン店がチェーン展開する場合,各店舗の従業員の技術レベルが均一ではない等の理由により,商品の味や規格が各店舗によって不均一になってしまう問題が頻発している.中国全土に幅広い販売経路を持つFC社の商品は,チェーン展開する製菓・製パン店における商品の味を均一化するための材料として求められている.

5. 今後のFC社の経営展開

今後のFC社の経営展開について見てみよう.

(1) 内陸部への進出

FC社の販売拠点は沿岸部が中心であったが,今後は内陸を中心とする主要省での代理店設置を積極的に行い,知名度を高める予定である.

近年,FC社は四川省の成都に販売代理店を設けた.それに加え,ショールームを成都,重慶に設立し,販売体制を整えていく方針である5

(2) 育児粉乳用油脂市場への参入

中国における出生人口は2013年約1,500万人であり,乳幼児市場に一定の需要があるといえる.加えて,中国の夫婦は共働きが基本のため,母親は出産後2~3週間ほどで職場へ復帰し,乳幼児は粉ミルクで育てられる場合が多い.母乳成分に近づけるために,牛乳成分に加え,ヤシ油,パーム油等の油脂が粉ミルクの脂肪酸組織を整えるために添加される.中国では2008年のメラミン事件以降,粉ミルクの安心・安全に対する消費者意識が高く,中国産粉ミルクに対する不信感が未だに強い.高価でも外国産が良いとされるため,FC社は日本で蓄積した安全・安心な技術をもとに高品質な育児粉乳用植物性油脂を生産し,粉ミルク業界へ参入しようと試みている.

6. まとめ

中国では近年,経済成長に伴い食生活の欧米化が進んでいる.FC社は油脂業界の厳しい生存競争を勝ち抜き,拡大する中国の製菓・製パン市場への販売を強化するために,油脂から,付加価値を付けた製菓・製パン素材の生産・販売に力を入れている.製菓・製パン店への販路拡大には,代金回収問題がリスクとしてあげられるが,以下に,FC社が実施した代金回収対応の戦略についてまとめてみよう.

①台湾系企業との連携による代金回収問題の対応

現在,中国で展開する製パン店の多くは台湾系であるため,マーガリン等の製菓・製パン原料は台湾系の商品が好まれる傾向にある.FC社は,その業界に強みがある台湾系企業と提携することによって,日系食品企業の課題とする販路拡大および代金回収問題に対応している.中国の商慣習を深く理解する台湾人社員が増員した現地従業員を教育し,取引先への営業および代金回収を担当することにより,日々の観察による優良顧客の選定と回収管理を行っている.FC社は以上のことにより,取引先企業の与信管理を進め見極めをはかることに成功した.

このように,代金回収の中国独特の商慣習などの問題を解決するために,台湾系企業との連携は中国特有の問題における一つの打開策として検討すべきであろう6

また,FC社の日本技術および顧客対応のノウハウの活用も中国国内販売を拡大するうえで重要な視点である.

②日本技術の活用と顧客対応

生産や品質管理面にかんして,FC社は日本でのノウハウおよび日本技術を応用し,高品質・多品目商品の開発に取り組んでいる.特に,中国においても製菓・製パン用油脂製品が全て揃うワンストップ・サービスを手がける企業はFC社のみであるという.また,FC社は各顧客の要望に応じた商品の開発・生産も手がけている.個々の顧客対応のための方法の一つに,日本でのノウハウの蓄積があるショールームによる提案営業があげられる.中国での製菓・製パン市場は急激に拡大しつつある一方で,製菓・製パン職人不足等の理由によりFC社の高付加価値がついた加工製品は更に販売を拡大できる可能性を持つ.経営の現地化および日本技術の応用,さらに中国市場の顧客ニーズをいち早くキャッチできるショールームのような場を持つことは広大な中国で販路開拓をする上で重要な視点であろう.

FC社の事例から,以上のことが一つの戦略条件として明らかとなった.この調査結果が一般化できるかは,今後一層の調査が必要である.

1  冷凍豆腐・油揚げ・湯葉等の大豆タンパク食品および大豆タンパク素材・機能剤(ペプチド等).

2  油脂の性質を生かした,コーティングやフィリングなどに用いられる業務用チョコレート.

3  小売流通チャネルにて販売される菓子類.中国の場合,賞味期限は8ヶ月~1年.

4  F社の食料品分野における特許出願数は設立から2013年までに2400件を超える.

5  江蘇省工場で生産した後,製品を成都まで輸送する予定である.原油を内陸部へ輸送するよりも,沿岸部で加工したほうが,コストが安いためである.

6  90年代前半,合弁比率が過半数を超えていたが,90年代後半以降は独自の意志決定を戦略に反映できる点から独資による進出企業の比率が高まっている(高楊2010).現在は中国国内販売という目的を達成するために改めて合弁による企業戦略が見直される.

引用文献
  •  石塚 哉史・ 相良 百合子・ 大島 一二(2012)「日系食品企業における中国国内販売事業の今日的展開―山東省の事例を中心に―」『農林業問題研究』186,136–137.
  •  菊地 昌弥(2011)「上海市における日系野菜製造企業の販売戦略」『農業市場研究』19(4),68–74.
  • 越  剛・孫 鳴風(2013)『中国農産品貿易発展報告』中国農業出版社.
  •  高   楊(2010)「中国における日系加工食品企業の展開:山東省の事例を中心に」『龍谷大学経済学論集』50,47–48.
  •  齋藤 幸則・ 大島 一二(2013)「中国進出日系企業における債権回収問題にかんする事例分析―江蘇省N社の事例を中心に―」『桃山学院大学経済経営論集』54(3),1–28.
  •  佐藤 敦信・ 大島 一二(2012)「中国の日系食肉加工企業における販売戦略の転換:対日輸出から内販へのシフトを中心に」『中国経済研究』9(1),33–43.
  • 中国日本商会(2013)『中国経済と日本企業2013年白書』中国日本商会.
 
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