フードサービス業と産地の関係を巡る研究は,生産者側がフードサービス業のニーズに積極的に対応する事例の増加に伴い蓄積が進んでいる.青果物調達を巡る生産者とフードサービス業との連携に関する研究として,調達時の産地ネットワーク形成について論じた小田(2004)や斎藤(1999)がある.産地への提言を含むものとして,榊田(2008)は外食・中食企業による野菜に対するニーズを紹介している.そして斎藤(2008)は,単なる青果物の取引関係からJAなど産地側の営業(商談)強化策として,メニュー提案まで踏み込んだ営業を行うことを求めるなど,フードサービス業との連携を一層強める戦略を指摘している.
このような産地とフードサービス業の関係に関する研究の蓄積は進んではきているものの,産地にとって具体的な交渉・提案(商談)相手となるバイヤーやメニュー開発の実態については十分に明らかにされていない.バイヤーを対象にした研究には,小川(1993)や石田ら(2012)などがあるが,いずれも小売業のバイヤーを対象にバイヤーの活動と商品政策との関係や,バイヤーが企業の中心人物であることを指摘したものである.また堤ら(2011)では外食を含む食品バイヤーを対象に,特産品の仕入れに関わるバイヤーの意識を分析しているが,バイヤーのニーズを指摘するに止まっている.そしてフードサービス業バイヤーを主な分析対象とした数少ない先行研究として齋藤ら(2014)があるが,そこではチェーン化を図るフードサービス業において,メニュー開発やバイヤー,調理といった機能(役割)は部署別となり,職名と機能が一致しないケースがあることを明らかにしている.具体的には,メニュー開発部署と連携し新たな食材の探索やメニュー開発に関与するバイヤーが確認された一方で,食材の探索をせず,メニュー開発には関与しないで調理部署への食材供給のみを行うバイヤーが確認された.それを受けて産地から商談を行う際には,バイヤーの機能面に着目することの重要性を指摘している.さらにこのようなバイヤーが果たす機能が異なる要因や,調理部署などとの一体化や連携関係の違いが何によって規定されるのかを,中食とファストフードという業態の違いと,直営とフランチャイズ方式といった店舗展開方法の違いから考察した.しかしその結果,同一業態でのチェーン規模の違いや調理場所の集中化,メニュー開発の担い手といった規定要因も示唆され,更なる分析が課題として残された.
そこで本稿では,同一業態での比較分析としてフードサービス業の中でも中食企業を対象に,分析を進める.まず,事例とした中食企業におけるフードサービス業を構成する「メニュー開発」「バイヤー」「調理」の3つの主要機能の関係1を整理する.そのうえで,チェーン規模と調理機能の中でもセントラルキッチン(集中調理施設,以下CK)の有無に着目し,「バイヤー」機能と「調理」「メニュー開発」の両機能の一体化や連携関係の違いをもたらす要因を明らかにする.そして産地がフードサービス業と商談を行い,関係を構築する際の留意点を整理する.
なお中食企業に着目した理由としては,前述の齋藤ら(2014)で,中食企業はメニュー数が多く,産地から多様な食材提案が行いやすい業態であることによる.また,縮小傾向にあるフードサービス市場にあっても,中食市場は一定の成長を続けている2.したがって生産者側からすると,中食企業は今後の取引相手としても有望視されているためである.
チェーン展開を図る中食企業3社を対象に,事例分析を行う.3社はいずれも直営方式で店舗を展開する中食企業である.そして青果物の調達方法は3社とも生産者からの直接調達と,仲卸業者などの中間業者からの調達を併用している.また,2社はナショナルチェーンで1社はローカルチェーンとそのチェーン規模は異なるが,各社とも出店先を百貨店の地下食品売場(以下デパ地下)や駅ビルを中心としており,店舗展開方法も共通するため,この3社を事例分析の対象とした.
そして,前述の齋藤ら(2014)で残された課題となっている,チェーン規模と調理機能としてのCKの有無を,本稿での分析視角として設定する.事例3社を,両指標をもとに分類すると図1のようになり,性格の異なる企業を対象とした.チェーン規模が小さくCKを持たない企業は,生業店が中心となることから,本稿では分析対象として設定しない.

チェーン規模とCKの有無による事例企業の位置づけ
資料:ヒアリング調査により作成.
1)A社の海外店舗とジュースバー業態は店舗数に含まない(2014年4月期).
2)B社の店舗数は総菜・弁当の計3業態の店舗数(2014年3月期).
3)C社の店舗数は総菜・弁当の販売店のみで福祉施設内の食堂除く(2013年3月期).
3社に対するヒアリング調査を2013~14年にかけて複数回実施し,その結果をもとに分析を行う.なお,本稿では食材調達のうち青果物に対象を限定した.
各社における青果物調達とバイヤー数の概況は表1の通りである.調達を担当するバイヤー数をみると,A社では11名のバイヤーのうち4名が青果物を専門に担当している.B社では10名のバイヤーのうち2名が青果物を専門に担当している.C社は3名のバイヤーがいるが,品目別の担当とはなっていない.年間の調達品目数は,A社が約200品目,B社が約150品目で,C社が最も少なく50品目程度である.A社,B社の調達品目数が多い要因は,和洋中華など複数の総菜ブランドを持つためである.そしてA社とC社については,CKを持つことから本社一括調達を行っている.これに対してB社は,CKを持たず各店舗において,本社が地域別に選定する納入業者からカット野菜(一部の果菜類は除く)を調達している.
| A社 | B社 | C社 | |
|---|---|---|---|
| 調達品目数(年間) | 約200品目(ソース原料含) | 約150品目 | 約50品目 |
| バイヤー数 | 全11名うち青果物担当4名 | 全10名うち青果物担当2名 | 全3名 品目別担当無し |
| 調理場所 | 自社CK(3か所)で集中調理,店舗で盛り付けなど | 各店舗の調理施設(厨房)でカット野菜を利用し調理. | 自社CK(1ヵ所)で集中調理,店舗で盛り付けなど |
| メニュー数 | 月間約400アイテム提供.一部店舗に限定メニュー(本社開発)を設定 | 月間300アイテム程度提供.一部に地区・店舗限定メニュー | 月間110~120アイテム提供.20%は日・週・月替わり |
| メニュー開発担当者数 | 本社開発担当者7名とバイヤー提案(本社のみ) | 本社開発担当者6名とバイヤー提案,地区責任者・各店舗担当者(本社+店舗) | 本社調理部門など3名を基本に役員による提案(本社のみ) |
資料:ヒアリング調査より作成.
1)A社の海外店舗分とジュースバー業態分はメニュー数に含まない(2014年4月期).
本項では,先行研究である齋藤ら(2014)に依拠する形で,フードサービス業を構成する主要機能を概観し,事例企業のバイヤー機能とメニュー開発機能,調理機能の関係を整理する.この3機能に着目する理由は,前述したとおりフードサービス業を構成する主要機能であり,それぞれが極めて密接な関係にあるためである.
主要3機能の概要は次のとおりである.まず本稿で主な分析対象とするバイヤー機能は,中核的機能と周辺的機能がある.まず中核的機能3には「調達購買・供給」機能(産地など外部の取引先との取引を行い調理部署に供給する),「食材探索・提案機能」(メニュー開発部署からの依頼でその条件に合致する食材の探索や,産地訪問などで発見した食材をメニュー開発部署に提案する)がある.なお,この「食材探索・提案」機能はメニュー開発部署においては「食材探索」機能となる.そして周辺的機能には「数量調整」「食材原価管理」機能があるが,本稿では分析対象としない.次にメニュー開発機能の内容は,メニューや商品開発,マーケット・食材分析,食材原価管理などである.そして調理機能は文字通り食材の調理と加工である.

A社における部署間の関係からみたバイヤー機能とメニュー開発・調理機能
資料:ヒアリング調査により作成.
1)点線で囲まてた部分は部署を示す.
2)フードサービス業の主要3機能のうち,バイヤー機能は
で示し,「 」内にその具体的な機能内容を示す.
は他の主要機能を示す.
A社における部署間の関係からみた「バイヤー」機能と「メニュー開発」,「調理機能」を図2に示す.A社では,「メニュー開発」,「バイヤー」,「調理」の3つの機能は部署ごとに分担し本社に集約されている.バイヤーは購買部に所属し,「食材探索・提案」機能と「調達購買・供給」機能を持ち,開発部からの調達依頼への対応や開発部に対するメニュー提案,調理機能を担う製造部(CK)に食材を供給する機能を持っている.また,開発部の商品開発担当者も「食材探索」機能持ち,「バイヤー」機能の一部を開発部が担っている.なお,基本的に開発部の担当者が産地に出向くことはない(開発部は産地と直接の接点を持たない).製造部では「調理」機能のみを担い調理に専念し店舗へ商品を供給している.これは,同社が300店舗を超える店舗運営への対応として,効率的な企業運営のために部署化を図っている.そしてA社のメニュー開発方法であるが,大きく2つある.まずメニュー開発担当者が検討を行い,使用する青果物を決定(絞り込み)し,バイヤーに調達を依頼する方法(以下,メニュー開発起点型).次に,バイヤーがメニュー開発担当者に食材を提案しメニュー開発に関わる方法である(以下,バイヤー提案型).具体的には,バイヤーが産地訪問などで発見した特産野菜などを使ったメニューを考案して,メニュー開発担当者に提案しメニュー開発を図るケースである.一例として産地訪問したバイヤーにより,雪中貯蔵のニンジンを使ったメニューが開発されたケースがある.このようなバイヤーによるメニュー開発の割合はメニュー開発全体の15%程度と低いものの,バイヤーも商品開発を行っている.
採用が決定された食材についてはバイヤーが調達を図り,産地や中間業者等がCKに納入し調理が行われる.そして300店舗超で提供する商品をCKで集中調理することから,1店舗当たりでは少量でもCKでの調達ロットは大きくなる.例えばトッピングに使われる「紅たて」は1店舗当たりでは1~2パック程度でもCKでの調達ロットは300パックを超えるロットとなる.A社のバイヤーは1アイテムあたり最低でも50 kg程度の量が確保されないと,メニュー化は難しいと述べている.

B社における部署間の関係からみたバイヤー機能とメニュー開発,調理機能の関係を図3に示す.B社では商品部にバイヤーが所属しており,食材を調達し,調理機能を持つ各店舗(例えば旗艦店の都内デパ地下内店舗では,2か所の厨房に計12~14名前後の調理担当者が配置されている)へ供給する,「調達購買・供給」機能,「食材探索・提案」機能を担っている.A社と同様に開発部も「バイヤー」機能の一部の担うほか,後述するように店舗でもメニュー開発を行うため「バイヤー」機能の一部を店舗でも担っている.メニュー開発は本社開発部のメニュー開発担当者6名を中心に行うほか,同図に示すようにバイヤーや各地区の責任者・店舗担当者によるメニュー開発も行われており,次の3つのパターンに整理される.まずA社と同様にメニュー開発起点型とバイヤー提案型があり,さらに地区・店舗提案型によるメニュー開発がある.この地区・店舗開発型は,地区責任者と店舗担当者(店長や調理責任者)によるメニュー開発である.この方式は地区責任者や店舗担当者がメニューを開発し商品開発部の了承を得て地区・店舗独自メニューとして提供するものである.なお食材の最終的な調達は商品部が行い,食材は産地や中間業者(必要に応じてカット業者)から店舗に納品される(店舗担当者は調達購買機能を持たない).なおB社もA社と同様に,基本的に開発部の担当者が産地に出向くことはない(開発部は産地と直接の接点を持たない).そして,調達するロットについてみると,全店舗で使用するものでは1日2t程度になるものがある一方で,店舗独自開発メニューでは,1日2ケース(果菜類16玉)程度の小ロットの調達品目がある.チェーン規模は大きいが店舗開発メニューがあることから,調達ロットは非常に幅広い点がB社の特徴である.
C社における部署間の関係からにみたバイヤー機能とメニュー開発,調理機能は図4のとおりである.C社では,総務部にバイヤーが所属し仲卸業者や産地などと取引し,CKへの食材供給を行い「調達購買・供給」機能を担っている.A,B両社と異なり,C社のバイヤーは「メニュー開発」,「食材探索」機能は担っていないという特徴がある.つまりC社のバイヤーは発注業務など購買の事務処理的な業務と,CKへの供給という「調達購買・供給」機能のみを担う.バイヤー機能の「食材探索」機能は,製造部が担っている.またC社のメニュー開発は,同図で示すように本社製造部の担当者を中心とするメニュー開発起点型のみである.バイヤーや店舗はメニュー開発を行っていない.製造部がメニュー開発を行い,調達する品目がバイヤーに指示され,調達された食材はCKで調理される.したがって,C社では「調理」機能と「メニュー開発」機能は一体化し,そこに「食材探索」機能も併せ持つ形態となり,CKの担当者も産地との接点を持つ.そして調達する食材のロットについては,全店舗分を担う量とは言わないまでも,CKの効率的な利用を考慮し,最低でも5店舗分の量が必要となっている.

前項で述べたように,中食企業という同一業態のA,B,C社であるが,バイヤーの「食材探索・提案」機能と「調理」,「メニュー開発」の各機能を主として担う部署との連携(一体化)の状況には違いがみられた.これら3機能の連携状況の違いがどのような要因によってもたらされているのか,CKの有無とチェーン規模の違いから考察する.なおチェーン規模の違いからの考察に際しては,「チェーン化の節目」4とされる10,30,100,300店という店舗数を踏まえることとする.
まず,CKの有無といった視点からみると,A,C両社はCKを有している.A社のCKは単純計算で1ヵ所あたり100店舗分の調理を行っている.またCKから400 kmを超える店舗分の調理も担うことから,そこでは安定した調理が求められ,「調理」機能に特化したCKとなる.そのため,「バイヤー」「メニュー開発」機能の中心は部署化された購買部,開発部が担う.そしてA社と同様にCKを持つC社は,製造部に「調理」と「メニュー開発」「食材探索」の各機能が一体化しているが,これは生業店の調理人が自らメニュー開発や食材の探索を行うものに近い.その理由の1つには,「調理」機能に「メニュー開発」や「食材探索」の機能が一体化している方が,効率的に業務を行えることがある.これに対しCKを持たないB社では,店舗での調理によって出来立て感の強い商品の提供を行い,CKを持つ他社との差別化要因としている.さらにメニュー開発の一部と食材探索を店舗で行い,地元密着商品の開発などより柔軟な商品の提供を図るため,店舗の「調理機能」に「メニュー開発」「食材探索・提案」の両機能を連携させている.
次に,チェーン規模からみると,A社は300店を超える店舗展開をしている.統一性を持った店舗展開を図るため,1977年の多店舗化戦略とほぼ同時に「調理」「メニュー開発」「バイヤー」の各機能を部署化し,本社・工場に集約している.各店舗では接客・販売に専念することで100,300店を超える出店を図ってきた.B社はデパ地下を中心とする中食業界ではA社と双璧をなすと言われているが,A社と比較すればチェーン規模はA社の30%弱の約80店である.チェーン化のために各店舗に一定水準以上の調理技術を持った多くの社員を配し,10,30店を超える出店を図ってきた.しかし100店舗を超えることは当面ない5.つまり各店舗に「調理機能」と一定の比率で「メニュー開発」「食材探索」の両機能を店舗に残し機能連携を図ることで,A社とは差別化を図る戦略を採用していると言える.そしてC社は約40店舗を展開するローカルチェーンで,A,B両社と比較すると小規模でバイヤー数も少なく青果物の専任担当はいない.また調達やメニュー開発は独立した部署にはなっていない.つまりチェーン規模が小さいため,チェーン化に伴う部署化が進んでおらず6機能の分担も行われていない. その結果,C社では「バイヤー」と「メニュー開発」,「調理」の各機能は本社にあり,製造部に「調理機能」と「メニュー開発」,「食材探索」の各機能が一体化しているのである.
本稿が分析対象とした中食企業は,一般的にフードサービス業の中でも調達品目が多く,主に店頭に陳列したものを販売しメニューブックを持たないことから,外食と比べて産地は取引に向けた提案(以下,取引提案)を容易にできるとされている.しかし分析の結果,取引提案を容易にできるかは,バイヤーの持つ機能やバイヤー機能と他の主要機能の分担・連携状況により異なることが明らかとなった.
CKを持ちチェーン規模の大きいA社では,主要機能が本社に集約された上で,機能分担が図られている.バイヤー機能のうち食材探索機能は購買部のバイヤーと開発部のメニュー開発担当者の両方に備わっている.さらに,産地との接点となるバイヤーにも「メニュー開発」機能があるため,産地からは新規食材を含めた取引提案が可能である.しかし,産地側では大きな取引ロットでの提案が必要となる.CKを持たずチェーン規模の大きいB社では,本社の開発部と購買部に「バイヤー」機能の「食材探索」機能と「メニュー開発」機能があり,機能の分担を行う一方店舗でも「食材探索」機能と「メニュー開発」機能を備える.従って新規食材の提案はもちろん,取引ロットに規定される可能性が低いため,産地側は取引提案が行いやすいと言える.そして,CKを持ちチェーン規模の小さいローカルチェーンであるC社では,機能の分担がA・C社ほど進んでおらず,調理部署に「バイヤー」機能の「食材探索」機能と「メニュー開発」機能が一体化している.つまり,生業店と同様に産地側は取引提案を行いやすく,ロット面ではCKを持つことから生業店よりも大ロットでの取引が可能である.
このようなことから,産地が中食企業への取引提案を行う際には,単に中食という業態で判断するのではなく,CKの有無やチェーン規模によりバイヤーの持つ機能が異なること,機能間の関係が異なることを踏まえた品目やロットの提案が必要になる.
なお本稿で行った事例分析では,新たな課題も示唆された.例えば,メニュー改廃頻度が長期安定取引に及ぼす影響なども取引提案時の要点として示唆されており,この点についての分析は今後の課題である.
本稿は文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C)番号24580334)による成果の一部である.