農林業問題研究
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個別報告論文
ガーナ北部における小規模ため池を利用した稲作の社会経済条件
小出 淳司岡 直子藤本 直也
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2015 年 51 巻 2 号 p. 92-97

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1. はじめに

サブサハラアフリカの国々では,都市部を中心としたコメ消費の急増に伴いコメの需給ギャップが拡大しており,コメの増産が望まれている.特に,主要なコメ栽培環境の一つである天水低湿地では,生産性の低迷や変動が課題となっており,現地の地域資源,環境を有効活用しながら安定収量を得る持続的な稲作技術の導入が期待されている(坂上,2012).

ガーナでは,国内の稲作地帯の8割近くを天水低湿地が占め(Seck et al., 2010),コメ収量の改善が期待されている.また,国内には小規模なため池が数多く分布しており(Namara et al., 2010),こうした既存の水資源を地域住民が有効活用し,用水供給の安定化を図ることが,天水低湿地のコメ収量を改善するための一つの対策となる可能性がある.一方,ため池を稲作に利用する場合には,水利条件などに加え,対象地域におけるため池の利用や稲作を取り巻く社会経済条件を解明する必要がある.

ガーナやその周辺国におけるため池の利用に関して,これまでに社会経済的な観点から調査・分析を試みた例は少ない.その中で,Venot et al.(2011)は,ガーナ北東部において,ため池の水利用組合が抱える問題点や,地域の伝統的権威,行政職員などため池の管理をめぐる多様なアクターの役割と意思決定について明らかにしている.また,ブルキナファソ中部のため池の水利用傾向を分析したde Fraiture et al.(2013)は,揚水ポンプを利用した無計画な菜園の灌漑・拡大など,持続的な貯水利用を阻害する主要な要因を明らかにしている.

ただし,これらの研究はいずれも地域住民による管理に限界があるダムなどの比較的大きなため池を対象としているほか,稲作向けの水利用のあり方にはほとんど言及していない.従って,小規模なため池の利用・管理実態に関しては,稲作との関連性を含め,ほとんど解明されていないのが現状である.

また,ため池を稲作に利用する場合,稲作を行っている住民の経営実態やため池の利用に対する認識などにも注意する必要があるが,これらを明らかにした事例も今のところほとんど存在しない.

そこで本稿では,ガーナにおける小規模ため池の利用・管理実態,稲作を行っている住民の経営実態,認識などを事例的に明らかにし,同国の天水低湿地においてため池を稲作に利用する場合の社会経済条件を探る.

2. 方法

(1) 対象地域

対象地域は,ガーナ北部に位置するノーザン州の州都タマレの近郊である.同州はコメ生産量が国内で最も多い州であるが,天水稲作(雨季の1期作)が主流で収量が低く,コメの収量改善が必要とされている.また,タマレ近郊には,ダッグアウトと呼ばれる掘り込み式の小規模ため池(以下,ため池)が多数存在する.そこで,タマレ近郊において,低湿地の稲作およびため池の存在が確認されたNwogu村(人口:1352人,以下,N村),Sanga村(人口:807人,以下,S村),Dalong Yili村(人口:760人,以下,D村)の計3村にて2014年2月に調査を行った.3村はいずれもタマレの中心地から10~15 km圏内に位置し,幹線道路から5 km程度離れている.

(2) 分析の視点

対象地域の特徴やため池灌漑の特徴を踏まえると,ため池を利用した稲作の社会経済条件を探る際,以下の点に着目することが特に重要と考えられる.

まず,対象地域のため池は,小規模ながらも,貯水の用途は多岐に亘り,稲作への水利用は他の水利用と競合する可能性がある.また,ため池灌漑では,河川灌漑と異なり,水路などの維持管理だけでなくため池の維持管理が重要になる.従って,対象地域におけるため池の役割や住民による既存の利用・管理方法に着目し,稲作への水利用のあり方を探ることが第一に重要となる.

次に,対象地域では稲作よりも畑作中心の農業を営む住民が多い.そのため,ため池を利用して稲作に灌漑を導入する際,畑作との整合性に注意する必要がある.対象地域の営農概況を踏まえた上で,住民の経営資源や稲作の位置づけに着目し,灌漑導入の経営合理性について検討する必要がある.

また,そもそも住民の多くが灌漑による追加的な水手当を志向しているとは限らない.更に,多目的利用が一般的な対象地域のため池において,住民が稲作に優先的に貯水を利用するとも限らない.従って,住民が認識するコメの生産阻害要因や収量変動要因,ため池の水需要などに着目することも重要となる.

(3) 調査の内容

上記の視点のもと,以下の内容で調査を行った.まず,各村の首長などへの聞き取りをもとに,各村におけるため池の役割や住民による利用・管理方法,および営農概況を把握した.次に,各村において稲作を行っている住民5名を対象に,半構造的な質問票調査を行った.質問票調査では,各住民(以下,対象者)の経営概況,稲作の位置づけ,コメの生産阻害要因,収量変動要因,ため池の追加的水需要などについて質問した.

3. 調査村におけるため池の利用・管理実態

(1) ため池の役割

いずれの村にも年間を通して利用できる河川や湧水は無く,飲料や調理,洗濯,レンガ作りなどに使用する水(以下,生活用水),家畜の飲み水は主にため池でまかなう.ため池は数十年前に政府の援助などで築造され,ほとんどの村人が利用している.ため池の他,いずれの村にも雨季の洪水によりできた小さな水溜りが点在するが,水位が低く濁っているため,用途はレンガ作りや家畜の飲水などに限られている.N村には住民が生活用水を確保するために自ら掘削した浅井戸もあるが,乾季には干上がり利用できなくなる.S村には援助機関が建設したコンクリート製の井戸もあり,乾季でも水が残るが,濁りがひどく利用者は少ない.また,いずれの村にも水道(有料)の通った居住区があるが,利用者は一部である.このように,村人の多くが年間を通して生活用水を確保することのできる水源はため池の他に存在しない.しかし,N村やS村のため池では乾季の末に水不足に陥る傾向にあることから,ため池の水を乾季の稲作に利用するのは困難である.

(2) ため池の利用上のルール

乾季末の水不足を背景として,いずれの村でもため池の水量や水質を維持するためのルールが定められている(表1).牛の飲水は,水質の悪化に加え,乾季に住民の生活用水と競合する.このため,N村やD村では,水溜りや別村のダムなどに畜牛を連れて行くこととしている.S村ではため池の堆砂を抑制するため,ため池近辺での耕作が禁じられている.提体の補修や泥上げといったため池の維持管理には,いずれの村でも全ての村人が参加することとなっている.

表1. ため池の利用上の主なルール
N村 S村 D村
乾季の畜牛の飲水を控える
歩行・遊泳を控える
乾季の灌漑を控える
ため池付近の耕作禁止
ため池の維持管理への参加

資料:調査結果に基づき作成.

これらのルールは明文化されておらず,ため池の水利用組合なども存在しない.ただし,いずれの村でもため池の監視者が数名選定され,ルール指導を行っている.ため池の維持管理については,この監視者より報告を受けた村の首長が住民を動員して実施する場合が多い.いずれのルールも違反すると首長により制裁されるが,該当事例はほとんどない.村の首長やため池の監視者が担うこうした既存の役割は,稲作の灌漑を目的とするため池の水利用,維持管理の体制づくりにおいても重要であろう.

(3) ため池の水利用慣行と維持管理

上記のようなルールがある一方,いずれの村でも貯水不足に備えるための取水制限は行われていない.N村やS村の住民は,村内のため池の水を取水できなくなるまで利用した後,隣村のため池に移動し取水する.D村の住民も,生活用水などを村内のため池から可能な限り取水し,不足すると隣村のため池へ水汲みに行く.

このようにため池の水を制限なく,取水できなくなるまで利用すると,稲作向けの貯水(生活用水の余剰分)の確保が難しくなる.しかし,一方でため池の泥上げが容易になる.S村やD村では,ため池の水位が最も低下した乾季の末に,村人が集まって泥上げを行い,同時に堤体の浸食か所を修復したり,堤体を高く盛り上げたりする.このような維持管理はため池を継続的に利用するために必要不可欠である.

他方,N村では維持管理に用いる資材とその収集用具,運搬手段などが不足している.そのため,ため池の水利用組合を設立するなどして,必要な資金を予め確保する必要がある.また,D村のため池では,堤体の法面保護を目的に郡の職員が提供した草本(ベティバグラス)が昨年植栽された.こうした行政のサポートも,ため池を継続的に利用していく上で必要であろう.

4. 対象者の経営実態

(1) 経営資源

次に,対象者の経営概況(2013年)を見ていく.表2の通り,いずれの村の対象者も畑作中心の農業と畜産の複合経営を営んでいる.未墾地が多く残るD村の対象者は,他2村の対象者に比べ農地の平均保有規模が大きい.未墾地がほとんど残されていないN村の対象者については,平均同居家族数がD村の対象者と同程度なのに対し,農地の平均保有規模はD村の対象者の半分に満たない.こうした中,D村では移動耕作を行う住民が多いのに対し,N村やS村では地力の低下を抑えるため,畑の作目を周期的に変更する住民が多い.一方,作目の変更が難しい低湿地では,化学肥料を施用しつつ天水稲作を行う住民が多いため,灌漑などにより生産性改善を図ることが重要と考えられる.

表2. 対象者の経営概況(2013年)
N村
(5名)
S村
(5名)
D村
(5名)
平均同居家族数 16.8 10.0 17.6
平均自家農業従事者数 7.2 5.2 6.4
平均農地保有規模(ha) 4.82 5.29 9.88
-畑(ha) 2.91 2.37 5.39
-水田(ha) 0.81 1.22 1.86
-菜園(ha) 0.53 0.53 1.09
-休閑地(ha) 0.41 0.53 1.04
-未耕地(ha) 0.16 0.64 0.49
牛の平均飼養頭数 5.5 2.0 8.0
中家畜の平均飼養頭数 7.3 12.6 25.8
小家畜の平均飼養頭羽数 82.8 67.0 73.8

資料:調査結果に基づき作成.

1)中家畜は山羊,羊である.小家畜は鶏,ホロホロ鳥,ウサギである.

ただし,灌漑により生産性改善を図る場合,労働力の確保が課題である.例えば,灌漑水を効率的に利用するには,現状ではほとんど行われていない圃場の均平化が重要となるが,耕起同様,均平化を手作業で行うには時間を要し,また作業時期(5–6月)が後述するトウモロコシなどの主要な畑作物の作付時期と重なるため,労働競合が生じやすい.従って,トラクターや畜力を利用した耕起・均平作業の省力化は重要である.しかし,利用可能なトラクターはいずれの村でも数台と限られており,また役牛(去勢牛)を飼養する対象者はS村で3名,N村,D村では1名のみである.また,トラクターの利用資金や化学肥料などの購入資金を確保することも重要となるが,これらの資金不足を理由に既に未耕地(不作付地)を抱えている対象者がN村で1名,S村,D村では2名いる.このように,農地の利用上必要な労働力や資金が逼迫している場合,稲作における灌漑の導入は畑作との競合性を増大させる可能性がある.

(2) 稲作の位置づけ

現状では,いずれの村の対象者もコメに加え,トウモロコシとトウガラシを作付けしている(表3).これらにヤム,キャッサバ,ラッカセイを加えた類型Ⅰに該当する対象者が最も多く,畑作物の多角化が浸透している.また,その他にもダイズを栽培している対象者が6名いる.これらの栽培作物のうち,トウモロコシやキャッサバ,ヤムなどは自家消費目的で優先的に作付けされる場合が多い.一方,コメは換金作物としての性格が強く,対象者の多くは収穫したコメの過半を販売している1.また,キャッサバ,ヤム,トウガラシ,ラッカセイは5月に作付けされ,コメ,トウモロコシ,ダイズが作付けされる6月から7月にかけて農繁期を迎える.このように,対象者の多くが主要な自給作物の生産を優先しつつ畑作物の多角化を志向していること,コメの作付け時期が農繁期にあたることを踏まえると,住民が畑作に必要な労働力や資金を犠牲にする形で,稲作に灌漑を取り入れることは考えにくい.

表3. 対象者の営農類型
トウモロコシ
コメ
ヤム
キャッサバ
ラッカセイ
トウガラシ
N村(名) 1 2 1 1
S村(名) 2 1 1 1
D村(名) 4 1
合計(名) 6 3 3 2 1

資料:調査結果に基づき作成.

更に,住民の重要な現金収入源となっているラッカセイやトウモロコシ,ダイズの圃場は,水田と同様トラクターで耕起されることが多く,作付け作業が競合しやすい2.そのため,住民がコメの作付けに労働や資金を振り分ける上では,稲作の収益性が優れていることも重要である3.一部の住民は,価格が上昇する春先にコメを販売している.S村の対象者1名は,次期作に必要なトラクターの作業委託資金を確保するため,自家消費や販売に当面必要となるコメ以外は耕起前まで保管している.このような方法は,稲作の収益改善につながると同時に,トラクターの確保を通じて,未耕地の発生を防ぐことにつながる.

5. 対象者の認識

(1) コメの生産阻害要因と収量変動要因

ため池灌漑によりコメの収量が改善される可能性があるが,対象者はコメの収量改善のために灌漑が最も重要であると認識してはいない.表4の通り,いずれの村の対象者もコメの生産阻害要因として土壌や雑草の問題を重視している.水不足の影響に対する認識は限定的であり,特に洪水の影響で水田の土壌水分は十分であるとするD村の対象者は水不足を全く問題視していない.彼らは他2村の対象者に比べ,コメの単収が低いため,水不足がその主な要因となっていない可能性がある.

表4. コメの単収(2013年)と生産阻害要因(0~5点)および収量変動要因(該当者数)
N村
(5名)
S村
(5名)
D村
(5名)
単収(t/ha) 3.06 1.54 1.06
生産阻害要因
-水不足 2.6 2.6 0
-土壌問題 4.1 2.8 4
-雑草問題 3.8 5 4.8
-病虫害 0.6 0.6 0
-鳥害 2.2 1.4 2.8
収量変動要因
-降雨の不安定性 4(80%) 5(100%) 1(20%)
-化学肥料の欠如 4(80%) 2(40%) 5(100%)
-除草剤の欠如 2(40%) 3(60%) 5(100%)

資料:調査結果に基づき作成.

1)単収と生産阻害要因は,5名の平均値である.生産阻害要因は,「全く問題ない」を0点,「非常に問題である」を5点として評価.

コメ収量の年次変動についても,対象者の多くは化学肥料や除草剤の購入資金の欠如といった土壌・雑草管理にかかる問題に起因すると認識している.ただし,N村やS村では,降雨の不安定性を指摘する対象者も多い.また,S村の対象者1名は,播種後に発生した洪水で種子が流され,減収となったと述べている.D村の対象者については,いずれも用水不足に直面していないが,播種が遅れた場合には出穂前に用水不足に陥るという.このように,コメの収量変動には洪水の発生時期や降雨の開始時期も影響しており,これらを踏まえた適期播種が重要となっている.適期播種にあたっては,耕起や均平作業を完了するためのトラクターや役牛を確保することも重要であろう.

(2) 追加的水需要

対象者のため池に対する追加的な水需要は,コメの灌漑に集中してはいない.ため池の新設や嵩上げなどで追加的な貯水利用が可能となる場合,対象者の多くは,コメだけでなく野菜にも利用する意向を持つ(表5).また,乾季の末に貯水不足が生じているN村やS村では,いずれの対象者も生活用水の充足を条件に灌漑を行うとしている.更に,乾季の稲作については,貯水量の大幅な増加を条件に挙げる対象者が多い.これらから,ため池の水を稲作に最優先に利用することは想定されていない.

表5. ため池の追加的水需要(該当者数)
N村 S村 D村
コメ(雨季) 0(0%) 2(40%) 0(0%)
コメ(乾季) 5(100%) 4(80%) 5(100%)
野菜(乾季) 5(100%) 4(80%) 4(80%)

資料:調査結果に基づき作成.

6. 資金借入機会と農民組織

最後に,ため池を稲作に利用する上で重要な課題と考えられるトラクターの利用資金や化学肥料の購入資金などにかかる営農資金の問題,および生活用水の問題が解消される可能性を探る.

営農資金については,いずれの村にも知人やタマレの商人から個別に資金を借入・調達する住民がいる.また,村内の住民から化学肥料などを直接借りて収穫後に返済するケースもある.他方,これらのサービスがあっても,作付け中止に踏み切るなど資金面に大きな不安を抱える住民もいる.また,銀行などの金融機関からの借入や組織的な資金調達の機会は限られている.生活用水については,水道を整備することで確保できるが,そのための資金を借入する例はいずれの村にも存在しない.以上のように,ため池を稲作に利用するための営農資金や生活用水の確保が借入を通じて実現される見通しは未だ不透明であり,金融サービスの拡充が必要である.

また,住民が営農資金や生活用水の問題を組織的に解消することも重要と考えらえるが,その見通しも未だ不透明な部分が多い.

対象者が参加している組織の主な活動内容をみると(表6),N村やS村には,コメなどの収穫物を共同で保管して端境期に販売し,トラクター利用費や化学肥料費,水道の整備費などに充てている組織(B, D, F)が存在する.しかし,これらの組織は設立後間もない.また,これらの組織とは別に,現在ほとんど活動していない農民組織も調査村には存在する.例えばN村には,トラクターや化学肥料の確保を目的に結成されたものの,これらに必要な資金を確保することが次第に困難となり,現在ではほとんど活動していない組織が存在する.また,同村の対象者1名が過去に参加していた組織は,化学肥料の供与や栽培指導を目的とした事業を機に設立されたものの,事業終了後に解体した.従って,営農資金や生活用水の問題を組織的に解消するには,組織の資金管理や支援のあり方などを踏まえた共同販売の体制整備が必要である.

表6. 対象者が参加している農民組織の主な活動内容
組織(メンバー数:名) 主な活動内容
N村 A(40) 農作業,冠婚葬祭などにおける互助
B(42) トウモロコシ,コメの共同保管・
販売,除草作業などにおける労働交換
S村 C(16) コメの共同耕作・販売
D(65) トウモロコシ,コメの共同耕作・販売
E(30) コメの播種作業などにおける労働交換
F(52) トウモロコシ,ダイズの共同販売
D村 G(30) 農作業,冠婚葬祭などにおける互助

資料:調査結果に基づき作成.

7. おわりに

調査村を含め,ガーナで広く行われている天水稲作の生産性改善は急務であり,ため池など現地の水資源を有効活用することが重要となる可能性がある.しかし,調査村の住民は,ため池の水を稲作に最優先に利用することは想定していない.そのため,ため池の水を稲作に利用することの重要性に対する住民の理解がまずは必要である.

特に,雨季の稲作にため池の水を利用することの重要性について,住民の理解が必要である.現状では,雨季の稲作でなく,乾季の稲作にため池の水を利用する意向を持つ住民が多い.しかし,乾季の稲作にため池の水を利用するのは,生活用水の確保が優先されることからも貯水量が足りなくなり,実現困難である.不安定な降雨による収量の変動が問題とされていることからも,雨季の補給灌漑に限定するのが現実的である.

その場合も,ため池の水利用や維持管理にかかる体制作りが重要であり,村の首長やため池の監視者をはじめとする住民の理解,協力が欠かせない.

また,耕起・均平手段や肥料などの確保も重要である.これらを確保するための資金を調達するために,金融サービスに加え,農産物を共同販売する農民組織が求められる.この販売事業が,組織の適切な資金管理と支援のもと,コメの販売収入を増やすことができれば,他の換金作物に対するコメの優位性が高まり,ため池を利用した稲作の重要性を住民が理解しやすくなる.

以上の多様な条件が整ってはじめて,ガーナ北部のタマレ近郊において,ため池を利用した稲作の導入が進むといえよう.

謝辞

本稿は,平成25年度海外農業農村地球環境問題等調査事業(アフリカ稲作普及促進整備調査)における国際農林水産業研究センターの調査活動の一環で筆頭著者が実施した調査の結果に基づいている.同事業の出資機関である農林水産省に謝意を表します.

1  コメの販売価格(庭先価格)は近年上昇している.

2  特に作付面積が大きく,余剰分が販売されるトウモロコシは,重要な自給・換金両用作物として位置づいている.

3  タマレ近郊農村における事例分析では,トウモロコシやピーナッツよりもコメのほうがより高い所得を得ることができると試算されている(角田他,2011).

引用文献
 
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