農林業問題研究
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個別報告論文
農業法人における雇用人材の離職に関する考察
―大規模稲作経営の事例分析―
藤井 吉隆角田 毅中村 勝則上田 賢悦
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2016 年 52 巻 4 号 p. 223-228

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1. はじめに

我が国の農業構造は,農業従事者の高齢化や兼業農家の離農が進展する中,平坦農業地域を中心に農業経営の大規模化が急速に進んでいる.そして,これらの経営では,非農家出身者などの若者を雇用して経営規模拡大を図っている.しかし,全国農業会議所(2012)によると,退職した正社員のいる農業法人の割合が高いことが確認されており,離職による新採用者への教育指導の負担,人員配置への支障など農業経営への悪影響が懸念される.

雇用人材の定着に関わる研究は,一般経営学の分野で研究の蓄積が進み,「職務満足」などの重要な概念が提示されている.Herzberg, F(1966)の「動機づけ衛生理論」では,職務満足は,仕事へ動機づける要因(動機付け要因)と不満を回避・防止する要因(衛生要因)が異なることを明らかにし,その後の研究で高橋(1999)は,衛生要因による職務不満足が雇用人材の離職につながることなどを指摘している.したがって,農業法人における労務管理に際しては,動機付け要因により職務満足を向上させるとともに,衛生要因により職務不満足を低減し,離職を防止することへの対応が求められる.

農業経営学における先行研究では,木南他(2011)木南・木南(2012)金岡(2010)など雇用就農者の職務満足に着目した研究の蓄積が進んでいるが,離職理由など職務不満足を対象とした研究はほとんど行われていない.このため,農業法人における離職の実態を把握することは,雇用人材の離職を防止するための対応策を検討する上で重要と考えられる.

そこで,本報告では,雇用労働力の導入が著しく進む大規模稲作経営を調査対象に選定し,離職者,経営者への聞き取り調査などにより農業法人における従業員の離職の実態を明らかにするとともに離職防止に向けた対応策について検討する.

2. 方法

(1) 調査対象事例の概要

本研究では,水稲を基幹品目に雇用労働力を導入する農業法人(2事例,経営耕地面積90 ha以上)を調査対象に選定した.両法人ともに,就業時間,休日,給与などの就業条件に大きな差異はないが,経営者と従業員のコミュニケーションなど雇用人材の定着を図る上で重要となる労務管理上の取り組みに相違がある(表1).

表1. 労務管理の状況
項目 A法人 B法人
就業時間 3月~11月8:00–17:30,12月~2月:8:30–17:30 3月~11月:8:00–18:00,12月~2月:8:30–17:30
休日 3月~11月:週休1日・祝日,12月~2月:週休2日・祝日 3月~11月:週休1日・祝日,12月~2月:週休2日・祝日
給与 基本給:180,000円(2014年実績20歳代前半),賞与:年間約2か月,昇給:年1回 基本給:175,000円(2014年実績20歳代前半),賞与:年間約2か月,昇給:年1回
人事考課 評価項目に基づく多面評価(経営者,専務,従業員)により決定. 経営者,専務で相談して決定,評価基準等なし.
個人面談 年3回実施,時間:約1時間/人,内容:評価(昇給,賞与査定含む),要望,期待など. 過去に年1回実施したこともあるが,最近は未実施.
日常のコミュニケーション ①ミーティングなどで農業への姿勢,理念などを伝える,②日頃から従業員と対話する,③昼食時,作業時,業務の相談など,④作業の問題点等あれば現場指導,作業の実演・見本を示す. ①ミーティングなどで農業への姿勢,理念などを伝える,②中核的従業員に対して作業指示,進捗確認など,③朝礼で作業の問題点等を指摘,教育指導は中核的従業員が対応.

資料:聞き取り調査により作成.

A法人では,①人事考課の評価項目を設定して経営者・従業員間で多面評価を実施する,②経営者と従業員の個人面談を実施する,③経営者がミーティングなどで農業に対する姿勢や経営理念などを伝える,④昼食時に従業員と対話する機会を設けるなど日頃から従業員に積極的に声をかけるように心がける,⑤作業の実演,見本を示すなど現場での教育指導などの取り組みを積極的に行っている.

一方,B法人では,経営者が朝礼やミーティングで農業に対する姿勢や経営理念などを伝えているが,個人面談や日常的なコミュニケーションなどについて,積極的な対応を行っていない.

(2) 方法

本研究における調査内容を表2に示す.

表2. 調査内容
調査項目 調査対象 調査人数(人)
合計 A法人 B法人
従業員属性 2010年4月~2015年3月に在籍した従業員. 52 28 24
離職率 2010年4月~2015年3月に在籍した30歳代以下の従業員,2015年3月採用従業員(A法人1名,B法人7名)及び非自発的理由による離職者(A法人4名,B法人2名)除く. 35 21 14
離職者在籍期間 2010年4月~2015年3月に在籍した30歳代以下従業員の離職者,非自発的理由による離職者6名除く. 23 11 12
離職理由 自発的理由による離職者,聞き取りできなかった離職者(A法人2名,B法人1名)を除く. 20 9 11
離職後の進路 自発的理由による離職者,進路を把握できなかった離職者(B法人1名)除く. 22 11 11

調査では,まず,労務管理資料の解析や経営者への聞き取り調査により,従業員の属性および若年従業員(30歳代以下)の定着状況を把握する.従業員の属性では,2010年4月から2015年3月に在籍した全従業員を対象に,従業員の年齢,経歴(非農家出身,農業教育機関出身,就業経験)を把握する.

若年従業員の定着状況では,在籍期間が短い2015年3月採用の従業員1(8名),非自発的理由(病気,家庭の事情など)による離職者6名を除く30歳代以下の従業員を対象に,離職率および離職者の在籍期間を把握する.

次に,離職者への聞き取り調査などにより,離職理由および離職後の進路の実態などを把握する.具体的には,離職者への聞き取り調査などにより

次に,離職者への聞き取りにより,離職理由を明らかにした上で離職理由に対する経営者の考えを把握して,その内容を分析する.併せて,離職後の進路についても把握する.

以上の調査結果を踏まえて,農業法人における離職の実態と離職防止に向けた対応策を検討する.

3. 結果と考察

(1) 従業員の属性

調査事例における従業員の属性は,①採用時の年齢は30歳代以下の割合が90%を上回るなど若い世代がかなり多い,②非農家出身者が約80%を占める,③農業に関わる教育(農業高校,農業大学,大学農学部など)を受けた従業員の割合が低い,④転職者の割合が約70%を占める(表3).

表3. 従業員の属性
採用時年齢 非農家出身 農業教育機関出身 転職者
区分 10歳代 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代
A法人 人数 1 17 8 0 2 22 6 20
構成比 4% 61% 29% 0% 7% 79% 21% 71%
B法人 人数 3 10 10 0 1 20 5 17
構成比 13% 42% 42% 0% 4% 83% 21% 71%
合計 人数 4 27 18 0 3 42 11 37
構成比 8% 52% 35% 0% 6% 81% 21% 71%

資料:労務管理資料より作成.

このように,調査事例における従業員は,非農家出身で農業教育機関出身者が少ないなど,農業に関わる知識・経験に乏しい若者が多様な職種から転職により就職する場合が多いことが特徴である.

(2) 従業員の定着状況

従業員の定着状況を把握したところ以下のとおりとなった(表4).

表4. 離職率および在籍期間
区分 離職率(%) 離職者在籍期間
区分 1年以内 2年以内 3年以内 4年以内 5年以内 5年以上
A

52 人数 1 3 4 2 1 0
構成比 9% 27% 36% 18% 9% 0%
B

83 人数 4 3 2 0 0 3
構成比 33% 25% 17% 0% 0% 25%

64 人数 5 6 6 2 1 3
構成比 22% 26% 26% 9% 4% 13%

資料:労務管理資料より作成.

1)離職率=離職者÷2010年4月~2015年3月に在籍した30歳代以下の従業員(2015年3月採用の従業員8名,非自発的理由による離職者6名を除く).

2)両法人の離職率は5%水準の有意差あり.

調査事例における離職率は64%となっているが,経営体間の差異は大きく,A法人の52%に対しB法人は83%とかなり高い.

また,在籍3年以内の離職者が74%(A法人72%,B法人75%)を占めるなど,在籍期間が短い離職者の割合がかなり高かった.

以上のとおり,調査事例では,従業員の離職率は総じて高く,早期に離職する離職者の割合がかなり高かった.

(3) 離職理由

自発的理由による離職者23名のうち,聞き取りが可能であった20名の離職理由について,離職理由を「組織的要因」,「就業条件」,「独立」,「イメージと現実のギャップ」・「他分野の農業への興味関心」,「農業への適性」区分に集計した(表5).

表5. 離職理由
区分 組織的要因 就業条件 独立 イメージと現実のギャップ 他分野の農業への興味・関心 農業への適性
人事考課への不満,価値観・方針の相違,人間関係 農繁期の休日・作業時間,給与に対する不満 自営就農(就農準備研修も含む) 農業の牧歌的イメージと現実のギャップ 園芸品目,有機農業などへの興味・関心 体力,機械作業などへの適性
A法人 人数 3 2 3 2 2 1
構成比 33% 22% 33% 22% 22% 11%
B法人 人数 7 4 2 2 2 2
構成比 64% 36% 18% 18% 18% 18%
合計 人数 10 6 5 4 4 3
構成比 50% 30% 25% 20% 20% 15%

資料:聞き取り調査により作成.

1)人数は,離職者が離職理由として指摘した内容をすべてカウントした(複数回答).

2)構成比は,当該理由を指摘した離職者の人数÷調査人数を表す.

「組織的要因」では,「努力を適正に評価してもらえない」など「人事考課に対する不満」,「自分の考えと会社の方針に相違がある」,「仕事に対する姿勢が厳しすぎる」,「新しいことにチャレンジさせてもらえなかった」など「価値観・方針の相違」,「管理する立場になり部下の指導などの人間関係に苦労した」とする「人間関係」によるものである.

「就業条件」では,「農繁期などに仕事が集中するため計画的に休日を取得できない」,「農繁期の作業時間が長く体力的に厳しい」,「昇給が不十分で現在の給与に満足できない」など,農繁期の過重労働や給与への不満が主な理由となっている.

「独立」では,入社時点から独立を考えている場合と,「個人(家族)で農業をしたい」など入社後に独立を考えた場合に大別できる2

「イメージと現実のギャップ」では,「農業は自然の中でのんびりと作業をするイメージがあったが実際の農作業は流れ作業的で忙しかった」,「のんびりと作業をするというより常に仕事に追われていた」など農業に対して抱く牧歌的イメージと農業の実態に対するギャップが大きいことによるものである.

「他分野の農業への興味関心」では,「有機農業に興味・関心を持った」,「野菜などの園芸をやってみたい」,「半農半X的な農業に取り組みたい」など,大規模稲作経営とは異なる品目,栽培方法や経営方針に興味・関心を持ったことによるものである.

「農業への適性」では,「農繁期など体力的にかなりきつい」,「機械作業が不得意」など業務への適性が低かったことが理由となっている.

なお,離職理由について経営体間の差異を比較したところ,労務管理への取り組みが不十分なB法人では,「組織的要因」を理由とする離職者がA法人と比べて相対的に多かった.ただし,労務管理への取り組みを積極的に行っているA法人においても,これらの不満を指摘する離職者が存在するなど「組織的要因」が重要な離職理由となっている.

(4) 経営者と離職者の意識の乖離

本節では,最も回答が多い「組織的要因」について経営者と離職者の意識の乖離を検討する(表6).

表6. 離職理由(組織的要因)に対する経営者の考え
区分 離職理由 経営者の考え
A法人 従業員A1 人事考課への不満:担当業務について一生懸命に仕事をしてきたつもりだったが,努力を評価してもらえなかった. 常に一生懸命に仕事をしているとはいえないと感じていた.他の従業員からも同様の意見を聞くことがあった.自分の意見を主張しすぎるところもあり,そうした点を改善してほしかった.
従業員A2 人事考課への不満:与えられた仕事に対して自分なりに努力を積み重ねたが,評価してもらえなかった. 長時間仕事をしていたが,仕事の手際が悪かった.費用対効果を考えて行動してほしかった.
従業員A3 価値観・方針の相違:会社の方針と自分の考えに相違があり違和感を感じた.チームワークも大切だが,意見をぶつけあいながら仕事をしていきたかった 組織で仕事をする上ではチームワークが重要であり,意見をぶつけあうことも必要だが,周囲の人間との協調を乱す行動があった
B法人 従業員B1 人事考課への不満:体力的にもかなりきつかったが,頑張って仕事をしてきた.しかし,問題点などは注意されるが,評価に反映してもらえなかった. 段取りをしっかりとして,手際よく仕事をすればもっと楽に仕事ができる.仕事に対する意識レベルが全般的に低かった
従業員B2,B3,B4 価値観・方針の相違:常に作物,農作業優先で仕事が進められ,仕事に対する姿勢が厳しすぎた.働く者に対するいたわりが感じられなかった 品質を向上させるためには,作物の状態を見ながら,きめ細かな仕事をしていくことが基本である.それがなければいい農作物は育てられない.その点を理解してほしかった.
従業員B5 価値観・方針の相違:きめ細かな作業を要求されたが,この方法が最善なのか,違う方法でもよりよい米作りができるのではと考えるようになった(別の農業経営で仕事をしようと考えるようになった). 品質を向上させるためには,作物の状態を見ながら,きめ細かな仕事をしていくことが基本である.それがなければいい農作物は育てられない.その点を理解してほしかった.
従業員B6 価値観・方針の相違:自分なりに興味・関心があることがあったが新しいことにチャレンジさせてもらえなかった 仕事に対するバイタリティは認めるが,以前,本人の希望を尊重して新しい品目に挑戦させたが,最後まで責任をもって仕事をすることができなかった
従業員B7 価値観・方針の相違:自分なりに考えて工夫しながら取り組んできたが,否定されることが多く聞き入れてもらえない雰囲気があった. 本人は,1年目でまだまだ経験が不足しており,提案されたアイデアも内容が不十分であった.

資料:聞き取り調査により作成.

1)下線部は経営者と離職者の意見の相違を表す .

A法人では,「人事考課に対する不満」について,「仕事に対する努力を評価してもらえなかった」(従業員A1,A2)とする指摘に対し,経営者は「一生懸命に仕事をしていたとはいえず,自分の意見を主張しすぎるところがあった」(従業員A1),「長時間仕事をしていたが,仕事の手際が悪かった」(従業員A2)と考えている.また,「価値観・方針の相違」では,「チームワークも大切だが意見をぶつけあって仕事をしていきたかった」(従業員A3)とする指摘に対し,経営者は,「意見をぶつけ合うことも大切だが,周囲の協調を乱す行動があった」と考えている.

B法人では,「人事考課に対する不満」について,「仕事の頑張りを評価に反映してもらえなかった」(従業員B1)とする指摘に対し,経営者は「仕事に対する意識が全般的に低かった」と考えている.

「価値観・方針の相違」では,「仕事に対する姿勢が厳しい」(従業員B2,B3,B4),「きめ細やかな作業を要求されたがそれが最善なのか疑問を抱いた」(従業員B5)との指摘に対し,経営者は「品質向上には,作物の状態を見ながら,きめ細やかな仕事をしていくことが基本」,「新しいことにチャレンジさせてもらえなかった」(従業員B6)との指摘に対し,経営者は「仕事を任せた時に最後まで責任をもって仕事できなかった」などと考えている.

以上のとおり,離職者が指摘する「組織的要因」(「人事考課に対する不満」,「価値観・方針の相違」)は経営者・離職者間で意識の乖離が顕著であった.特に,経営者と従業員のコミュニケーションが希薄なB法人では,「価値観・方針の相違」における意識の乖離が顕著であった.一方,経営者と従業員のコミュニケーションに積極的に取り組むA法人においても,「人事考課に対する不満」で意識の乖離があった.

(5) 離職後の進路

離職者の離職後の進路を聞き取りにより把握したところ,以下のとおりとなった(表7).

表7. 離職者の進路
区分 自営就農 他の農業経営に就職 他産業に従事
大規模稲作経営 異なるタイプの農業経営
A法人 人数 3 4 2 2
構成比 27% 36% 18% 18%
B法人 人数 2 3 1 5
構成比 18% 27% 9% 45%
合計 人数 5 7 3 7
構成比 23% 32% 14% 32%

資料:聞き取り調査により作成.

離職後の進路は,「自営就農」(自営のための研修も含む)23%,別の大規模稲作経営や異なるタイプの農業経営(野菜,有機栽培)など「他の農業経営に就職」46%,「他産業に従事」32%となった.

このように,離職者は,離職後も農業に従事する割合が高いことを踏まえると,これらの離職者は,農業に対するコミットメントが高いと推察される.

なお,離職後に「他産業に従事」した離職者は,離職理由として「就業条件」を指摘する者の割合が57%となっており,離職者全体の30%(表5)と比べ相対的に高かった.

4. まとめ

以上のとおり本研究では,農業法人における離職者の離職理由など職務不満足に着目して分析を行った.その結果,調査事例における離職の実態および離職防止に向けた対応策について以下の点が指摘できる.

農業法人における従業員の離職状況は,B法人のように離職率がきわめて高い経営が実在するなど,離職を防ぐことが重要な経営課題となっている.ただし,離職率は経営体間での差異が大きく,経営者・従業員のコミュニケーションなど労務管理に積極的に取り組むA法人では,B法人に比べて相対的に離職率は低い.しかし,A法人においても離職率が約50%となるなど今後の改善が求められる.

次に,農業法人における雇用人材の離職防止に向けた対応策を採用,育成段階に大別して整理する.

まず,採用段階に関わる問題として,「農業に対するイメージと現実のギャップ」,「異なるタイプの農業への興味・関心」,「農業への適性」が離職理由となっているが,これらは,就職者の農業及び当該法人の業務に対する理解が不足していることに起因するものである.非農家出身者が多く農業教育経験がない従業員が多い特徴を踏まえると,採用段階では,求職者の当該法人の業務に対する理解を促進する取り組みが重要と考えられる.

次に,育成段階に関わる問題として,「組織的要因」が主要な離職理由と位置づけられる.

「組織的要因」では,「人事考課に対する不満」や「価値観・方針の相違」が主な理由となっており,これらは経営者と従業員間で意識の乖離が大きいことが確認された.特に,経営者・従業員間のコミュニケーションが不十分なB法人では,離職理由として「価値観・方針の相違」を指摘するものが多く,今後の改善が求められる.他産業と比べ企業規模が小さい農業法人では,経営者と従業員の距離感が近い強みを活かし,経営者・従業員間の意思疎通や相互理解を深めていくことが重要と考えられる.例えば,今後の対応策として経営に対する姿勢や方針を伝えるだけでなく,A法人の経営者のように日常のコミュニケーションを通して従業員との意思疎通や相互理解を深めることが求められる.

一方,経営者と従業員のコミュニケーションに積極的に取り組むA法人においても,「組織的要因」として「人事考課に対する不満」で経営者と従業員の意識の乖離が顕著であった.今後は,現在取り組んでいる人事考課の評価項目,評価方法や評価結果のフィードバックなど人事考課の改善に向けた取り組みが求められる.

この他にも,「就業条件」や「独立」も離職理由となっており,「就業条件」では,農繁期における過重労働の軽減,「独立」では,独立を志向する従業員に対するのれん分けなどの対応策の検討も必要と考えられる.

なお,本研究は,職務不満足に着目して離職を防止するための対応策を検討したものであり,仕事への動機付けを図る上で重要となる職務満足を考慮した検討は行っていない.今後は,動機付け要因など職務満足向上の視点から農業法人における人材の定着方策を総合的に検討していくことが課題である.

1  2015年3月採用の従業員は,調査時点における在籍期間が短く,試用期間中であることから離職率の算定から除外した.

2  独立を理由に離職した離職者5名の内,入社時に独立を決めていた者が2名,入社後に独立を決めた者が3名であった.

引用文献
 
© 2016 地域農林経済学会
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