農林業問題研究
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
個別報告論文
ドイツ農村女性連盟の支部活動に関わる組織管理とガバナンス
伊庭 治彦
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2017 年 53 巻 3 号 p. 186-194

詳細

1. はじめに―課題と背景―

ドイツにおいて農村女性の社会生活および就業を支援する農村女性連盟LFV(Landfrauenverband)は,地方自治活動が活発な同国にあって民間セクターとして種々のサービスを提供するフェアアイン(Verein)1の一つである.LFVの全国組織であるDLV(Deutscher Landfrauenverband)の組織員は約50万人を数え,組織員の高齢化等の問題を抱えつつも70年にわたり農村女性の生活・就業を支援する活動を実践してきたことの実績を有する.本稿の課題は,このようなLFVの地区支部を対象に,その活動(以下,「支部活動」という)に関わる組織管理,および活動の適正性を確保するガバナンスの構造と機能に関する理論的な整理を行うことである.具体的には,農村社会の住民である支部組織員が当該地域に居住することの条件を維持・改善するための支部活動を如何に計画し実践するのか,そして,その活動の適正性を如何に確保するのか,に関する理論的考察を試みるものである.とくに地区支部LFVにおけるガバナンスに関しては,「組織の目的に照らして支部活動の内容の適正化を図る統治システム」と概念化し,「誰が」支部活動の適正性を検討し,「どのようなプロセス」においてその方向性を適正化するのか,という課題設定により接近を図る.

なお,以上の分析を進める前提として,ドイツにおける地方自治制度およびLFV支部組織に関して若干の説明をしておく.ドイツの自治制度は1990年以降に現在の体制に再編されたが,州によって制度は若干異なり,また,州毎に新たな制度の創設もみられる2.ただし,概ねドイツにおける社会制度において基礎自治体はゲマインデ(Gemeinde)と呼ばれる市町村であり,その連合体である郡(Kreis)とともに地方自治権が保証されている3.市町村の下位には地域コミュティ・レベルの自治的性格を有する「地域協議会Stadtteilvertretung」や「日本の町内会と基本的な性質が共通する市民団体Bürgerverein」がある4.LFVに関しては,本稿では郡(Kreis)を範囲とする郡支部KV(LandFrauen- Kreisverband),および市町村(Gemeinde)を範囲とする地区支部LFVを分析対象とし,後者を中心としての分析・考察を行う.なお,以下では組織員が居住する地域について「集落」という用語を用いるが,自治的機能を有するコミュニティを意味するものではなく,地理的なまとまり以上の意味を持たないことに留意する必要がある.

2. 分析方法

次に,支部活動の主体としての地区支部LFVのガバナンスを分析する上で,その援用が有効と考えられるコミュニティ・ガバナンス論(以下,「CMG論」という)とコーポレート・ガバナンス(以下,「CPG論」という)について概観する.

まず,CMG論に関して,研究者により種々の概念定義がなされている.その要因として,分析対象とするコミュニティ,および問題とする社会現象の多義性によってCMGに期待される機能の幅が異なるからである5.また,CMGは接近方法において機能論的アプローチと構造論的アプローチの二つに区分することができる.前者は,社会関係資本(Social Capital)との関係を視点として,コミュニティが担う社会活動のマネジメント(=組織管理)や意思決定の内容に関する分析を行う接近方法である6.例えば,コミュニティが取り組む「協働の過程」の分析をとおして,「協働の枠組み」を構成する要素としてCMGの機能を明らかにすることが試みられている(今井・金岡,2011).

後者は,Bowles and Gintis(2002)に代表される経済取引に関わる第三の制度としてコミュニティを位置づける構造論的な接近である.すなわち,市場および政府による経済取引においては何らかの不可避の失敗が起こることから,経済取引を効率化する第三の制度としてコミュニティが分析対象となる.ただし,コミュニティも失敗することから,その機能強化の必要性が主張されている.例えば,法的あるいは政策的に良好な環境においてコミュニティの制度的機能が強化されるとし,コミュニティは政府の代替物ではなく相互補完する制度として機能することが主張される7.なお,本稿では地区支部LFVによる諸活動の実践に関わるガバナンスを分析対象とすることから,とくに機能論的アプローチの援用が有用と考える.

一方,一般企業の経済事業に関わるCPG論は,コーポレート・ガバナンスの重要な目的を「長期的な視点から株主の利益を確保するために経営者を規律づけする」(小佐野,2001:p. 18)こととし,経営者が策定する経営戦略を方向づける機能を担う制度を分析対象とする.例えば,経営者をコントロールするための組織内部および外部のチェック機構の有効性と効率性の分析が課題となる8.換言すれば,「『誰が……最高経営責任者を選び,そのパフォーマンスを評価して,どういう咎で,そしてどういう手続きで,追い出せるか』に関わる,よりよい企業経営が執行されるようにするための方法,制度と慣行とまとめること」(加護野他,2010:p. 3)ができる.このようなガバナンスの統治力を担保するのは,主には経営者の任免・罷免権であるが,ガバナンスを担う主体は組織形態により異なる.例えば,株式会社(公開会社)であれば,雇用された経営者をガバナンスするのは取締役会である.取締役会が設置されていない場合は,株主総会がガバナンスの主体となる.ただし,一般経営学ではCPGにおける種々のステークホルダーの影響力が論じられている.「多様な利害関係者が『多元的』に統治に関わるべきであり,そして実際に関わってきたと考えてきた.」(加護野他,2010:p. 4)のである.

以上に概観した二つのガバナンス論は,地区支部LFVのガバナンスの構造と機能を分析するための重要な視点をともに提供する.CMG論は農村社会における組織員間の関係を変数とするガバナンスへの接近に有効な分析枠組みである.ただし,CMG論は本稿が対象とする支部活動を実施するための直接的な組織管理を含んだ概念であり,組織管理の上位概念としてのガバンスという位置づけは曖昧である.

一方,CPG論では,ガバナンスは組織管理の上位にあって,その適正性を確保する統治システムである.したがって,支部活動の企画-計画-実施を担う組織管理と,その上位にあって支部活動の適正性を確保するためのガバナンスとを概念的に区分し,それらの構造と機能を明らかにすることを試みる本稿にとってCPG論は有用な分析枠組みとなる.しかし,CPG論は農村社会における人間関係等を取り扱う分析枠組みとしては十分ではない.したがって,CMG論およびCPG論の両方を援用しつつ課題へ接近することが有効かつ必要となる.

3. 事例分析

(1) 事例組織の概要

本節では,事例とする地区支部の現・旧役員5名(No,1~5)への聞き取り調査を基に課題に即して分析を行う.

DLVはベルリンに本部を置き,全国に約500,000名の組織員を擁する組織であり,22の州支部LV,430の郡支部KV,12,000の地区支部LFVにより構成される.DLVは農村女性が抱える社会・生活および就業に関わる課題や問題の解決に向けて支援となる活動を多面的に実施するとともに,そのための社会的な環境を整え,また農村女性としての権利と主張を政治に活かす運動の母体として機能している.このような機能を充足するために全国組織であるDLVは,その傘下にLV–KV–LFVという3段階の組織体制をとっている.なお,DLVの組織員が所属する基本単位となる組織はLFVであり,後述するように年会費の徴収と組織員が直接出席する年次総会開催を担っている.

分析事例とするLFVは,ニーダーザクセン州支部NLV(Niedersachsischer LandFrauenverband)-ゲッティンゲン郡支部KV_G・A(Kreisverband der LandFrauenvereine Goettingen und Adelebsen)の傘下にあるゲッティンゲン地区支部LFV_G(LandFrauenverein Göttingen)である(表1を参照).KV_G・Aは二つのLFVにより構成されており,LFV_Gは50集落組織員375名を,もう一方のLFV_Aは20集落200名を組織員とする.また,LFV_Gの内部にはワーキンググループAK(LandFrauen-Arbeitskreis)であるAK_G(LandFrauen-Arbeitskreis Gartetal,90名)とAK_R(LandFrauen-Arbeitskreis Reiffenhausen,20名)が組織されている.AKはLFV内に形成される一定の地域を範囲とする有志組織員による組織であり,独自の支部活動を企画・実施するとともに,LFVの活動実施への協力を行っている.ただし,AKはいずれのLFVにも形成されるものではない.

表1. 事例におけるドイツ農村女性連盟の組織構造
DLVドイツ農村女性連盟 組織員500,000名 22LV,430KV,12,000LFV
NLVニーダザクセン州支部 組織員70,000名 39KV,276LFV
KV_G・Aゲッティンゲン・アーデレプゼン郡支部 組織員575名 2LFV,3AK
LFV_Gゲッティンゲン地区支部 組織員375名(人口118,914人,50集落)
「AK_G 90名」 「AK_R 25名」

資料:聞き取り調査およびDLVホームページ<http://www.landfrauen.info/>により作成.

以上の組織体制において,分析対象とする支部活動はKV,LFV,AKの3段階においてそれぞれ実施されている活動である.これらの支部活動は組織員のLFVへの年会費を財源として実施されている.LFVの年会費は25ユーロ/人であり,LFVが徴収した上で25ユーロの内,1.5ユーロをKVへ,9.5ユーロをNLVへ振り向ける.したがって,組織員375名のLFV_Gの年間予算は14ユーロ×375=5,250ユーロであり,組織員575名のKV_G・Aの年間予算は1.5ユーロ×575=862.5ユーロとなる.なお,行政機関等からの補助金は受領していない.

(2) 支部の運営と活動

1) KV_G・Aの運営と活動

LFV_Gの上部組織であるKV_G・Aは会長,副会長,会計,書記,理事2名の計6名で構成されている役員会により運営されている(図1を参照,以下同様).会長をはじめとする役員は,選挙委員会が推薦した候補者への信任投票により選ばれる.理事2名は二つのLFVの会長の充て職であり,KV_G・AとLFV間の情報の疎通が図られている.役員の任期は4年であるが3回まで再選可能である.改選に当たっては組織の継続性を維持するために全員を一度に改選することはせず,2年毎に改選を行っている.その際,若年者や加盟年度の浅い組織員,あるいは会計等の専門的な技術・知識を有する組織員を積極的に登用している.このことにより組織の世代交代,組織管理の効率化を図っている.各役員の用務量は役職によって異なる.例えば,会長は年間をとおしてほぼ毎日何らかの用務がある.その他の役員は各担当用務に加えて活動の実施を担うが,実働で20日前後である.なお,KV_G・Aの役員には手当はなく,会議毎に3ユ-ロ(お茶代)と交通費が支給される.

図1.

LFVの支部構造

資料:聞き取り調査より作成.

役員会の会議は年間5~6回開催され,各年度の活動の企画と実施を担っている.KVが主催する活動は年間5~7回の研修会(学習会,講演会)および旅行・観劇である.研修会の内容は,コンピューター操作といった就業に関わる内容を主とするが,社会問題や日常生活に関わる学習会も開催する.旅行・観劇はKVが主催する定例活動にあって人気の高い活動である.多様な組織員との交流を図れることに加えて,個人では時間を作ったり企画したりすることが容易ではない農村女性にとって貴重な余暇活動の機会となっている.

2) LFV_Gの運営と活動

LFVの組織員にとって所属する組織の基礎的な単位が地区支部LFVであり,会費の徴収や一般組織員が出席する年次総会が開催される.総会では,年間の活動に関する要望だけでなく,全国組織DLVの活動方針,さらには社会問題一般に関しても活発に議論される.役員会委員の人選に関しては,LFV_Gにおいても選挙委員会の推薦による信任投票が行われる.LFV_Gの役員会は会長,副会長,会計,副会計,書記,副書記の計6名により構成される.また,LFV_Gの会議には,二つのAKから各代表が参加し,それぞれの活動に関する情報の疎通を図っている.さらに,LFV_Gの活動に協力する5名の協力スタッフ,および50の各集落には活動のとりまとめや情報配信を担う代表組織員(Ortsvertrauensfrau)が設置されている.この点で,組織員が協力スタッフ等の役割を担うことは,組織の活動へ参加する強い動機付け要因になっていることが指摘されている.役員会は年間5~8回開催されているが,それ以外にも様々な活動の準備等の用務が発生している.なお,役員会のメンバーには用務に関わる費用補償(会長は300ユーロ/年)がなされている.

LFV_Gが行う年間の定例活動は8回前後であるが,研修会(学習会,講演会)の開催が中心であり,とくに社会問題や政治問題に関わる内容を特徴とする.例えば,エネルギー問題,難民問題,農業政策問題が近年の関心のトピックスである.ただし,それ以外にも様々な活動を主催・支援している.例えば,近隣のショッピングモールにおいて2年に一回開催される「オープン・ファーム・デイ」は,食料や農業に関連する交流や情報発信を行うイベントである.3日間の開催期間には,地区の農業や農場に関する展示および農業者による農産加工品の販売が行われる.約20名の農業者の参加があり,売上げの一部が組織および福祉事業に寄付される.さらに,大学との連携により子供を対象とした農業体験活動を行っている.その他に,高齢者の健康管理として人気があるのがラインダンス教室でありオンシーズンで月2回開催されている.

3) AK_G・Rの活動

AK_GとAK_R(以下,両方を「AK_G・R」と標記する.)は主に夜間(例えば,19:30~)に実施する活動を企画・実施している.なぜなら,KV_G・AやLFV_Gの活動は,通常,高齢者が参加し易いように昼間の時間帯(例えば,13:30~)に実施されるが,就業していたり,家事や子育てを担ったりしている多くの若年組織員にとってこの時間帯に参加することは困難だからである.

なお,一定の地域を範囲として形成されるAK_G・Rではあるが,LFV_Gの一部であることからいずれのAKの活動であっても全てのLFV_Gの組織員が参加できる.AK_G・Rが主催する活動は主に日常生活(例,食生活や健康)に関しての研修会である.加えて,数日間に渡る海外旅行(スタディーツアー)を実施する年度もある.なお,AK_G・RはLFV_Gの活動を支援する有志組織としての機能も有する.

4) 支部活動の全体的運営

以上のKV_G,LFV_G,AK_G・R の3段階の活動は,農閑期となる概ね10月から翌年の4月の間に合計25日前後(ラインダンスは2回/月)実施されており,それぞれの活動は10~100名の参加を得ている.各活動の開催準備・実施においては,役員のみが用務を負担するのではなく10~20名の組織員が率先して参加および協力している.なお,これらの活動に関する情報は年度当初に配布される冊子,ウェブサイトへの掲載で知ることができ,また,年2回ニュースレターが発行されている.組織員からの要望等は各集落の代表組織員が収集し,年2回開催される代表者会合で共有される.

(3) 組織と組織員との関係

次に,聞き取り調査から被験者の個人的な状況を視点として組織管理およびガバナンスの実態を探る(表2を参照.紙幅の制限により調査結果の一部のみ示す).

表2. 聞き取り調査被験者(No,1~5)の属性
被験者 No,1 No,2 No,3 No,4 No,5
個人属性 年齢 62 51 50 66 52
会員歴(年) 37 11 15 15 5
役員会役職 会長(郡) 会長(地区) 会計(地区) 元副会長・元会計
(地区)
会計(郡)
役員会理事(郡) 前会計(地区)
年間用務・
負担感
年間を通して
ほぼ毎日
2~3週間/年,
イベント時の準備
年間通して
週に1日
2回/月
(ラインダンス)
研修会の準備,
用務は多くはない
職業 元農業者
1975-2001に離農
企業就業
(フルタイム)
農業者 元農業者
(2009年に世代交代)
銀行勤務
(20時間/週)

資料:聞き取り調査により作成.

1) 加入動機

被験者5名に共通して「多様な組織員と意見交換ができること」が主要な加入動機であり,LFV_Gのラウンジ機能が高く評価されている.ドイツでは女性の日常会話において社会問題や政策に関する議論や意見交換が行われており,新たな視点や意見を有する組織員との交流の機会が高く評価されている.また,「旅行・観劇」に対する評価の高さも共通している.すなわち,「LFV主催の研修旅行」であることは,家族員に対する理由として都合よく,かつ,同じ立場にある女性同士の交流の機会として効果的であるとのことである.さらに,農業者の立場からは農業関連イベントへの参加が,就業者や生活者の視点からは各種研修会の参加が加入動機として言及された.なお,これら以外に「友人に勧誘された」や「義母が役員であり,加入を勧められた」といった人的つながりが加入契機となっている場合も少なくない.逆に,「義母の許可をもらって加入した.」との女性農業者の例があり,ドイツの農村社会・農家における女性の立場を示している.

2) 組織運営および支部活動に関する要望

研修会の内容に関する要望で最も多かったのは社会問題や政策に関する研修の充実である.先にも述べたが,LFV_Gのラウンジ機能が高く評価されており,組織員間での議論や意見交換の場として現代的な社会問題に関する情報収集や知識習得への要望は高い.なお,研修会で取り上げられるトピックスは,全国組織であるDLVがリーディングし取り組んでいる問題であり,その意味で全組織的な運動との整合化が図られている.このことと関連し,いずれの被験者も若年組織員を確保することが現在の組織の重要課題であり,そのためには若年層の関心事を取り入れた研修会の必要性を指摘している.地区支部LFVが組織員数の漸減と高齢化に直面する中で,若年農村女性が加入し得る研修会が必要であるとの意見である.しかし,若年層の特徴の一つして価値観や関心事の多様化が指摘されており,容易な解決策はないのが実情である.

3) 役職と用務量

KV_GおよびFLV_Gの現役員である被験者4名の中で,最も用務量が多いと感じているのはKV_Gの会長であるNo,1であり必然的といえる.次いで,LFV会計を担当するNo,3,KV_G役員とLFV_G会長を兼ねるNo,2の負担感が大きく,KV会計を担当するNo,5の負担感が最も軽い.No,1以外の3名は農業あるいは企業にフルタイムで就業しており,勤務時間が通常の半分(週20時間)なのはNo,5のみである.このことから,就業条件と負担感とが関係している可能性を指摘できる.

(4) 集落構造と組織員構造

被験者5名が在住するそれぞれの集落規模は20戸~330戸と多様であるが,いずれも農家の割合は1.6%~6.7%と少数派であり,組織員数の住民人口に対する比率も1.2%~5.3%に留まる.一方,同一集落の組織員に占める農家家族員組織員の比率は7.7%~50%と幅があるが,5名全体では25%である.聞き取り調査では,農家家族員組織員の比率は10%位との回答が多かった.農村社会における農家戸数の減少とそれに伴う農家家族員組織員数の減少傾向に直面しての評価と考えられ,実質的には組織員に占める農家家族員組織員の割合は10%~25%と推察する.

ただし,被験者5名の農業との関わりは濃淡があるものの家族員もしくは自分自身が農業経営を行っている(行っていた)という点で共通している.聞き取り調査では,FLV_Gの非農家組織員はその多くが農家を出自とする場合が多いとのことである.農家出自の非農家組織員にとって,日常的に農家と接点を持ち意見交換ができるLFV_Gは彼女らのアイデンティティを確認する貴重な場となっている.この点で,集落構造および組織員構造にみる数値以上に,LFV_G組織員と農業の関係性は強いものと考えられる.

4. 考察とまとめ

以上,ドイツ農村女性連盟の地区支部による活動の実践に関して,組織管理およびガバナンスの有り様を検討してきた.最後に,これまで分析結果を,組織管理とガバナンスのそれぞれの視点から整理する(図2を参照).

図2.

LFVの支部活動に関する組織管理とガバナンス

資料:聞き取り調査により作成.

まず,組織管理に関して大きくは4点にまとめられる.第一に,組織管理を担う役員の人選についてである.役員会メンバーは,組織員歴に関係なく,組織に加入早々の組織員であったり,専門知識を有したりする組織員を積極的に登用している.このことにより,組織員の活動へのコミットメントを早めたり,管理の効率化が図られたりしている.この点は,「選挙管理委員会の人選+信任投票」制度の長所といえる.また,公式に組織される選挙管理委員会が推薦することにより,組織員歴が浅くても一般組織員からの信頼を得やすくなるという利点もある.

第二に,組織員の組織活動へのコミットメントを促進することに関して,活動の実施に当たって役員だけではなく協力スタッフとなる組織員を設置していることの高い効果を指摘できる.

第三に,組織の段階毎に受け持つ研修会の内容や活動の種類が概ね固定化されている.このことにより,活動の実施が経験効果により効率化され,一方で一般組織員にとって参加の有無の判断が容易になっている.さらに,AK_G・Rが夜時間に研修会を開催することにより,より多くの組織員が活動に参加できる.この点も,段階制により活動を実施することの効果である.

第四に,組織員の多様性自体が入会の要因となっていることからも,多様な組織員がそれぞれに誘因となる活動に取り組み,支部活動への参加率を上げることが望まれている.この点で,協力人員を確保しやすいLFV_Gが定型的ではない活動に適宜取り組むことより効果的である.なお,付言すれば,農業者が離農後にも組織員のままでいる場合が多々あるが,新たな立場になってもそれに応じた活動に参加できるからである.高齢者向けのラインダンスはその典型である.

次に,ガバナンスに関して,二つのガバナンス論を手がかりに大きくは4点を指摘したい.第一に,総会を有する組織構造において公式なガバナンスが健全に機能していると同時に,このような構造が支部活動の方向性の適正化機能を充足しうるのは,日常から活発に議論を行う組織員の特性に依るところが大きいといえる.身近な支部活動から全国組織の運動に至るまで,その内容について組織員による議論がなされ適正化が図られているのである.この点に関してCPG論の視点からは,ガバナンス機能の源泉として,組織管理から独立したガバナンス機関(総会)を制度化することの有効性を指摘できる.同時に,CMG論(機能論的アプローチ)の視点から,ガバナンスが機能化する源泉としての組織員個人が果たす役割の重要性を指摘できる.

第二に,段階制をとる組織にあってKV_G・AおよびLFV_Gの役員会に各下部組織からの参加者を得ることにより,段階間の情報格差を抑制し,組織員のニーズに的確に応えられる企画作りを行っている.同じく,段階間での企画の補完や調整が可能となり企画の適正性の確保を図っている.つづいて第三に,組織管理のまとめでも指摘したが,支部活動の実施に当たって協力スタッフを設置することはガバナンスを強化する効果を有する.すなわち,一般組織員が活動の主催側として参加することにより,その適正性を検討することになるのである.これら第二,第三の点についてCPG論の視点から,組織管理を担う役員会の構成メンバーを多様化することにより,役員会自体が,非公式ガバナンスが機能化する場となることを指摘できる.このことは,役員会が,組織管理を担う役員自身へのチェック機能を有する場になり得ることを意味する.また,第三の点についてCMG論の視点から,第一の点での指摘に加えて個人会員の意見を反映しうる機会を設定することの重要性を指摘できる.

第四に,全国組織のDLVが研修会の内容をリーディングすることより,活動の方向性にブレやズレが起こりにくくなる(「半公式ガバナンス」といえる).同時に,具体的なプログラムは支部の専権事項であることにより活動の自由度が担保されている.これらの段階制と段階間の関係に基づくガバナンスは,事例に関しては有効に機能していると考える.この点について,CPG論の視点からは,支部役員を外部からコントロールするためのチェック機能を担うDLVの役割を指摘できる.

以上,地区支部LFVが支部活動を実施するための組織管理とガバナンスの実態を明らかし,その分析結果について理論的な整理を行った.とくに,ガバナンスに着目し再整理すれば,地域活動を適正化する上で,地区支部の組織機関としての総会における公式なガバナンスだけでなく,個々の組織員の活動や組織員間の議論に基づく非公式なガバナンスが大きな役割を果たしていることが明らかとなった.このことは,役員は組織管理主体であると同時に一組織員として議論に参加し,非公式なガバナンスの一員たり得ることを意味する.すなわち,現実には組織管理とガバナンスが一体的に機能することにより,支部活動の実践と活動方向の適正性の確保が行われているのである.

ところで,近年,わが国では農村住民が勤務や余暇といった活動に費やす時間について地域外に振り向ける割合が増えていることを,筆者の現地調査においてよく耳にする.このことの要因の一つとして農村住民が地域内の活動から得られる効用が相対的かつ絶対的に低下していることが考えられる.わが国のこのような状況に対して,LFVによる地区活動のような対応が望まれる9.その意味で,本稿の結果は貴重な検討材料を提供することができると考える.わが国の農村社会における本稿の帰結の導入可能性の検討については今後の課題としたい.

謝辞

本稿は,科学研究費補助金「農地流動化進展地域における地域農業ガバナンスの再編と機能化に関する研究」(代表:伊庭治彦,課題番号:15K07606)の研究成果の一部である.

1  フェアアインとは法人格を持ち,設立の目的に応じて活動を実施する組織である.営利と非営利の両方の活動を含み,7名以上の組織員により設立が可能である.ドイツには20万以上のフェアアインがあると言われ,ドイツの伝統的な市民活動の方法として社会的あるいは施政的にも高い位置づけがなされている.石田(2006),および波夛野(2007)に詳しいので参照されたい.

2  イエンス(2012)による.

3  中川(2013)による.

4  山崎(2014:p. 98)を参照されたい.

5  CMG論のレビューに関しては,中田(2015)およびTotikidis, V et al.(2005)に多くを依拠している.

6  例えば,田中(2012)がある.

7  サミュエル・ボウルズ(2013:p. 36)は「平等と生活水準の双方を高めうるような統治構造を考案するには,市場,国家,コミュニティの関係を根底から検討し直す必要がある.」と主張している.

8  例えば,小佐野(2001:pp. 21–61)に詳しい.

9  政府は従来の自治組織が機能低下に直面していることから,これとは別に生活支援機能を支える「地域運営組織」等の設立による公共サービスの提供を補完する仕組みの構築を推進している.ただし,広く普及するには至っていない.総務省地域力創造グループ地域振興室(2014)を参照されたい.

引用文献
  • イエンス・テッスマン(2012)「地域自治組織の形成による市町村合併後の市民参加の強化」(http://www.jlgc.org.uk/jp/information/monthly/germany_march_2012.pdf)[2016年11月18日参照].
  • 石田正昭(2008)「農村版コミュニティ・ビジネスとは何か」石田正昭編『農村版コミュニティ・ビジネスのすすめ―地域再活性化とJAの役割』家の光協会,15–49.
  •  今井 良広・ 金川 幸司(2011)「震災復興過程におけるコミュニティ・ガバナンス―協働の枠組をめぐる国際比較―」『社会・経済システム』32,83–95.
  • 小佐野広(2001)『コーポレート・ガバナンスの経済学』日本経済新聞社.
  • 加護野忠男・砂川伸幸・吉村典久(2010)『コーポレート・ガバナンスの経営学』有斐閣.
  • 総務省地域力創造グループ地域振興室(2014)「RMO(地域運営組織)による総合生活支援サービスに関する調査研究報告書」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000380223.pdf)[2016年11月18日参照].
  •  田中 豊明(2012)「コミュニティ・ガバナンスとまちづくりNPOリーダー」『佐賀大学経済論集』44(6),1–22.
  •  中川 義明(2013)「ドイツ地方自治制のしくみとその実態―南部諸州を中心にして法的視点から―」『海外事情研究』41(1),91–125.
  •  中田 知生(2015)「コミュニティ・ガバナンスとは何か―コミュニティ研究における社会関係資本―」『北星学園大学社会福祉学部北星論集』52,93–101.
  • 波夛野豪(2007)「コミュニティ基盤から日独のコミュニティを問い直す」科学研究費補助金成果報告書『農業農村の持続的発展をめざすコミュニティ型投資・雇用戦略の日欧比較研究(代表:石田正昭,課題番号:16380148)』(http://www.bio.mie-u.ac.jp/~ishida/Hatano.pdf)[2016年11月18日参照].
  •  山崎 仁朗(2014)「ニュルンベルク市の市民団体について―「コミュニティの制度化」のもうひとつのかたち―」『岐阜大学地域科学部研究報告』(34),97–150.
  •  Bowles,  S. and  Gintis,  H. (2002) Social capital and community governance. Economic Journal, 12, 419–436.
  • Totikidis, V., Armstrong, A. F. and Francis, R. D. (2005) The Concept of Community Governance: A Preliminary Review. Refereed paper presented at the GovNet Conference, Monash University, Melbourne, 28–30th November, 2005. (http://vuir.vu.edu.au/955/1/The_Concept_of_Community_Governance.pdf) [Accessed November 18, 2016].
 
© 2017 地域農林経済学会
feedback
Top