2018 年 54 巻 3 号 p. 157-164
中国では,近年Eコマース(以下ではEC)市場が急成長している.EC市場の成長要因として,インターネットインフラの整備,インターネットユーザー数,特に,モバイルインターネットユーザー数の増加,小荷口物流システムの整備などがある.
中国網絡安全和信息化領導小組弁公室・国家互聯網信息弁公室(2017)によると,中国のインターネットユーザー数は2007年2.1億人から2017年6月には7.5億人に増加し,全人口に対するインターネット普及率は54.3%になっている.また,モバイルインターネットユーザー数は7.2億人に達し,インターネットユーザー数の96.3%を占めている.
中国ネット小売市場(BtoC)の状況について,中国電子商務研究中心(2017)によると,中国小売業EC取引規模額は2012年の13,205億元から2016年には53,288億元へと増加している.EC取引規模の拡大に伴い生鮮食品EC取引額も2011年10.5億元から2015年には544億元へと増加しており(洪涛・洪勇,2016:p. 22),今後さらに拡大すると予想される.
また,アリババ研究院の調査を引用した三菱東京フィナンシャルグループ中国投資銀行部(2016)によると,2012から2015年の間に,アリババ・プラットホーム上の農産物(生鮮食品を含む)の販売業者数は26.1万社から90万社に増加しており,農産物の売上高も200億元から695.6億元へと大幅に増加している.
これらのことから,今後とも生鮮農産物においてBtoC・ECが発展していくことが予想できる.しかし,生鮮農産物のECには,購入者の視点からみた場合,次のような制約要因や課題があることが先行研究によって指摘されている.
第一に,販売業者の探索・選定に関しては,斉藤・平泉(2003)が,Web上に多数の販売業者のサイトが存在することから,購入者が目的の商品の販売業者を探索し,さらに選定することが難しいという問題を指摘している.
第二に,生鮮農産物の品質に関する購入者と販売業者の情報の非対称性に関して,斎藤・平泉(2003)は,農産物のような品質の標準化が困難な商品では現物確認が重要となるが,購入者が商品情報をウエブサイト上でしか見られないため,購入決定時の商品確認ができないとことから,販売業者と購入者の間の情報の非対称性が大きいことを指摘している.
第三に,生鮮農産物は品質劣化が進みやすいことなどから,品質に関わる問題が発生しやすいと考えられる.そこで,購入者にとっては,問題が発生した場合に販売業者が迅速かつ適切に対応してくれるかどうかが重要になる.この点に関して,朴・門間(2007)は,ECの重要な成功要因として「個人情報の適切な管理」,「電子商取引専任スタッフの確保と最初のホームページの自主制作」とともに「お客からの注文やクレームへの迅速な対応」を指摘している.
これらのEC一般に関する制約要因とともに,孔(2016)は,中国におけるECには,偽造商品の横行による販売業者への不信やその商品の品質への不安1,アフターサービス(返品,交換,保証,故障対応)の懸念,配送に関する問題(商品の紛失や誤配送,配送中の損傷,配送時間の長さ,配送員の態度の悪さなど),などを指摘している.
これらの先行研究から,中国における生鮮農産物ECには,購入者による販売業者の探索と選定の困難さに加え,販売業者への不信,品質への不安,配送面での問題,クレーム処理に関する問題といった制約要因があると考えられる.したがって,生鮮農産物ECをすすめるうえで,販売業者はこれらの制約要因の解決に向けた取り組みを行うことが求められている.
その際に注目されるのがSNSを利用したECである.SNSでは知人・友人関係にある者同士がコミュニティを構成することから,SNSによるコミュニケーションを通じて,一般のECに比べて販売業者の探索が容易になるとともに,販売業者やその商品を信頼することが容易になると考えられる.ただ,販売業者や商品に対する信頼についても,購入者が購入意思の決定時点で抱く信頼感と,購入後に商品を確認・評価して形成される信頼とを区別する必要がある.前者はSNS利用によって形成可能なものであるが,後者は販売業者の取り組みに依存するものである.また,ECの制約要因のうち配送面での問題,クレーム処理に関する問題,アフターサービスの問題,商品の差別化なども,SNSの利用によって解決できるものではなく,販売業者の取り組みに依存する問題である.したがって,ECの制約要因の解決可能性を検討する際に,SNSの利用が有効性を持つ点と,販売事業者の取り組みが必要な点を区別して検討することが必要である.
そこで,本稿では中国の有機農産物生産・販売企業B社を事例に,SNSを利用した生鮮農産物ECへの取り組みの特徴と購入者の評価を,聞き取りと購入者へのアンケート調査に基づいて明らかにすることによって,SNS利用によるECの制約要因解決の可能性と,生鮮農産物ECの発展のための課題を考察することを目的とする.具体的には,SNSによるECの特徴(2節)とB社の生鮮農産物ECの取り組み実態(3節)を踏まえて,第一にSNS利用の有効性について,購入者によるB社の探索や信頼の方法について検討する(4節)とともに,第二にB社のECへの取り組みの内容を購入者の評価に基づいて検証する(5節).
B社への聞き取り調査は,2017年3月,9月に複数回実施した.また,購入者へのアンケート調査は,B社ホームページ上で2017年9月4日から9月15日までの12日間実施した.回答者は202人(青島地域98人,即墨地域36人,上海地域68人)であり,女性が93.1%(うち既婚者94.1%),年齢は30~49歳が90.6%,家族の平均月収は1.6万元以上が40.6%,学歴では大学卒業以上が91.1%を占めていた.つまり,B社の主な購入者は,既婚の30~49歳の女性,高収入,高学歴の者である.
現在,中国のスマートフォン普及率は58%であると推定されている2.しかも,スマートフォン関連技術の進歩に伴いモバイル端末によるECが急速に成長している.中国電子商務研究中心(2016)によると,EC取引規模に占めるPC端末の割合は2011年の98.6%から2015年には47.3%に激減した反面で,モバイル端末の割合は1.4%から52.7%に激増している.
ECで良く利用されるショッピングアプリは淘宝(TaoBao),京東商場,Amazonなどである.近年,SNSアプリである微信(Wechat)も使われている.このなかで,淘宝はアリババが提供するWebショッピング・サイトである.微信はテンセントが提供するSNSサービスであり,主にスマートフォンで使われている.モバイル端末を利用したECの割合が激増していることから,微信を使ったECも増加していると考えられる.
(2) SNSを利用したECの特徴SNSを利用したEC(微信)には,従来のEC(淘宝など)に比べて次のような違いがある.
淘宝は誰でも利用できるオープンなショッピングアプリであり,購入者のコメントも不特定の,しかも匿名性の高い購入者によるものである.それに対して,微信では相互に知人・友人関係にある者同士がコミュニティ(グループ)を構成しており,そのコミュニティのなかで情報の双方向的な発信と共有が可能になる.したがって,購入者のコメントも知人・友人関係にある者のコメントである.
この違いによって,例えば購入する商品の販売業者を探索する場合,事前に特定できていれば両者に大きな違いはないが,事前に特定できていない場合には,淘宝では商品名をキーワード(例えば有機野菜)にして検索し,多数の販売業者のwebサイトを閲覧し,販売業者や商品,購入者のコメントを参照して販売業者を探索し,実際に購入する業者を選定する必要があるが,微信の場合は信頼できる友人の紹介とコメントに基づいて販売業者を探索・選定することが可能になる.したがって,微信の方が信頼できる販売業者や商品の探索が容易になり,前述したECの制約要因のなかでの販売業者の探索・選定の困難さと,販売業者への不信とその商品への不安を解決できる可能性が高いものと考えられる.
B社は,山東省青島市即墨市3金口鎮に立地する有機農産物生産・販売企業であり,2011年に設立された.農地面積は100ムー(6.67 ha),うちハウス面積は20ムー(加温ハウス5棟,無加温ハウス8棟)である.自社生産の有機野菜と畜産物(鶏肉,鶏卵,羊,豚)の販売,輸入果実の販売を行っている.2015年から微信を利用して,有機野菜の販売を開始した4.販売先は青島市区と即墨市,上海市の3地域である.売上高は,2015年の30万元から2016年には67万元に増加しており,2017年上半期は60万元になっている.また,青島市区,即墨市,上海市の3地域の登録購入者総数は2015年約650人から2017年6月には1,717人へと大幅に増加している.この購入者は,21のグループ(青島市区10,即墨市7,上海市4)に登録されている.
従業員は,社長1人,社員8人である.社員8人は,青島地域の注文管理(青島市区の5グループを管理)と微信企業公式アカウントの管理1人,輸入果物の発注・販売1人,野菜栽培管理1人,技術指導者1人,農場資材の管理1人,会計1人,箱詰めと配送1人,出納(青島市区の他の5つグループの管理を兼務)1人である.社員以外では,即墨市の注文管理は社長の友達が,上海地域の注文管理,配送などは社長の姉が,それぞれ担当している.また,農作業のために長期パート5人,短期パート約5人(季節により人数の増減あり)を雇用している.
(2) B社のECの仕組み 1) 購入・代金決済方法B社から購入する際の最低金額は50元(約830円)であり,送料は無料である.
ECによる購入方法には青島市区および即墨市と上海市で違いがある.青島市区には週2回(火曜日,金曜日),即墨市と上海市には週1回(即墨市は木曜日,上海市は月曜日)配送している.地域によって配送日を分けることにより,日々の販売数量の均衡化を図っている.
青島市区と即墨市の登録者に対しては,B社からグループ単位で毎回の販売品目,販売価格,販売数量をSNSによって伝達し,登録者が購入を希望する品目,数量を各グループの担当者にSNSによって連絡するという方法をとっている.上海市の登録者は,微信のB社on-line shopで,購入を希望する品目,数量を入力するという方法をとっている.どちらの場合でも,販売数量を超える注文があった場合には,B社が先着順で購入者を決定している.
代金の支払いは,B社の代金決済機能を通じてオンラインで行っている.
地域ごとの登録者数と購入者数は表1に示したとおりであり,購入者数は繁忙期(10月の国慶節7日間,7月~8月中旬の学生の夏休み約1.5ヶ月間と正月の約15日間)は約260人,それ以外の閑散期は約80~100人である.登録者数に比べて購入者数が少ないことから,登録はしても実際には購入していない者や,毎回購入していない者が相当数存在すると見られる5.
| 地域 | 登録者数 | 繁忙期 | 閑散期 |
|---|---|---|---|
| 青島 | 588 | 100 | 40~50 |
| 即墨 | 646 | 70 | 20~30 |
| 上海 | 483 | 90 | 約20 |
資料:B社から聞き取り調査により筆者作成.
1)人数は2017年7月現在.
B社の微信を利用した販売の流れを,青島市区の火曜日配送を例にして説明する.
まず,青島市区のグループの担当者2人は,日曜日18時以降に各グループに注文できる農産物の種類,価格,数量を伝達し,月曜の12時までの間に注文を受け付ける.その後,各グループ担当者は注文を整理し,18時頃に農場に伝達する.農場の担当者は,火曜日の朝に収穫,袋詰め,箱詰めを行い,昼12時から配送を始める.おおよそ夜18時までに配送が終了した後,グループの担当者は各購入者の購入金額を計算し,連絡する.購入者は注文通りの野菜が届いたことを確認した後,微信の決済機能を利用して購入代金を払う.
このように,青島市区と即墨市の購入者は,朝採りの野菜を当日夜には購入することができる仕組みとなっている.
なお,B社は距離の近い青島市区と即墨市には社員がグループごとに配送を行っている.グループは社区(コミュニティ)や単位6によって分けられており,配送担当者は荷物をまとめて,購入者たちの社区や単位ごとに決められた場所に配送している7.また,距離の離れた上海市へは航空便を利用して,収穫の翌日にグループごとに決められた場所まで配送している.
3) SNSを通じた情報の共有B社のECは,SNSの特徴である情報共有と双方向性を活用していることに特徴がある.B社では微信のモーメンツ機能8を利用して,文章だけではなく,写真,音声,アニメーションを組み合わせた情報の活用を行っている.
第一に,農産物の生育状況,有機農産物の栽培過程,来月収穫できる農産物の状態などを,微信の公式アカウント9で画像を付けて発信することにより可視化し,購入者はそれを確認できることである.
第二に,B社と購入者との間,また購入者同士でのコミュニケーションが可能になっている.B社の野菜に対する購入者のコメントも,B社との間や購入者同士で共有できるようになっている.例えば,購入者が農産物を料理した写真をグループで共有できるようにしている.購入者が購入した農産物を使って特別な料理を作った場合,その料理の写真や作り方を発信し,グループ内で共有することができる.それによって,他の購入者が同じ料理を作るために農産物を購入しようとする可能性がある.購入者間での情報の共有化により,購入の促進に繋がるものと考えられる.
以下では,B社のECの取り組みと,それに対する購入者の評価を検討することによって,B社によるECの制約要因解決の取り組みを検証する.
前述したように,ECにおいては,購入者による販売業者の探索と選定の容易さが課題になる.そのため,B社はSNSを利用することで,購入者による探索を容易にしようとしていると考えられる.
そこで,購入者に対するアンケートによって,「B社を知った方法」を調査した結果(複数回答),「友達の紹介」79.2%,「モーメンツ」43.6%であった.他方で,一般的なECの探索方法である「公式アカウントの探索」は3.5%,「キーワード検索」は0.5%に留まっていた.この結果から,購入者は主としてSNSの特徴である「友達の紹介」によってB社を探索しており,一般的なECと比べてB社をより容易に探索できていることが確認できた.
(2) B社に対する信頼感品質の均一化や規格化が困難で品質劣化が進みやすい生鮮農産物ECの場合,購入者が現物を確認できないことから,販売業者に対する信頼感を構築することが課題になる.
そこで,購入者に「B社の野菜を買おうと思った理由」を調査した結果(複数回答),「友達が品質の良さを保証したから」が82.2%を占め,「注文方法が簡単だから」65.8%,「配送が便利だから」58.9%,「代金支払が便利だから」39.1%という結果であった.この結果と「B社を知った方法」の調査結果とのクロス集計では,「友達の紹介」と回答した者の86.3%が「友達が品質の良さを保証したから」と回答しているのに対して,「友達の紹介」以外の方法のみを回答した者では66.7%に留まっており,「注文方法が簡単だから」が71.4%(「友達の紹介」と回答した者のなかでは65.8%)を占めていた.
以上のことから,「友達の紹介」によってB社を探索した購入者は,主として友達の保証によってB社とその農産物の品質への信頼感を抱いて購入を決定しているのに対して,その他の方法(「モーメンツ」等)のみによってB社を探索した購入者は,利便性をより重視して購入を決定していることが確認できた.すなわち,SNSの特徴である友人間での情報の共有によって,B社の探索が容易になるとともに,B社への信頼感が形成されたことが,B社からの購入意思決定につながっているものと考えられる.
購入者が購入時点で現物を確認できないECでは,Webページ上での商品の見本と実際に届いた商品との同一性を確保することが,購入者の信頼を獲得する上で重要であり,特に生鮮農産物では重要である.
この点に関して,購入者に「B社から届いた野菜のサイズ,品質などは想像したものと同じですか」と質問した結果(単数回答),「同じ」23.8%,「大体同じ」67.8%と,回答者の約9割が「同じ」,「大体同じ」を選択した.農産物は品質の均一化や規格化が困難であることに加えて,配送過程で鮮度が落ちることや傷つくことが避けられない.しかし,調査結果から見ると,購入者の約9割は届いた野菜が想像したものと同じか大きな違いがないと評価している.
ただ,「届いた野菜の品質が悪い時がありましたか」という質問(単数回答)に対して,「まったくない」が37.6%(翌日配送の上海市では26.5%)に対して,「時々ある」が61.4%(同70.6%),「よくある」1.0%(同2.9%)という結果に示されるように,購入者,特に翌日配送の上海市の購入者はB社から届いた野菜の品質に対して必ずしも満足しているとは言えない状況にある.
(2) 商品の差別化への評価通常の店舗(リアル店舗)でも購入できる商品をECで販売するためには,商品を差別化して消費者に訴求することが重要である.B社は商品の差別化を実現するために,新鮮さ,有機栽培,外国産の品種の栽培という三つの点を購入者に訴求している.
新鮮さについては,前述のように青島地区,即墨地区には朝採り野菜の即日配送,上海地域には翌日配送を行っている.
また,健康志向が強い購入者に訴求するために,全ての農産物を有機栽培している.ただ,有機認証を受けるためには費用と労力を要するため,現在のところB社が有機認証を取得しているのは,トマト,きゅうり,セロリなど9種類の農産物にとどまっているが,今後は順次他の野菜も認証を受けていく予定である.
さらに,一般に中国では外国種子を用いた農産物の品質が良いと評価される傾向があるため,栽培する野菜の約半分で外国の種子を使っている10.
B社の購入者に対して「野菜を購入する時,何を重視するか」を質問したところ(順位をつけて3つ以内回答),第1位に上がった項目は,「鮮度」55%,「有機,緑色,減農薬」37%,「食味」5.0%の順であった.また,「B社の野菜の特徴は何だと思いますか」という質問(順位をつけて3つ以内回答)の第1位にあがった項目は,「有機,緑色,減農薬」44.6%,「鮮度が良い」41.6%,「食味が良い」13.4%という結果であった.購入者が最も重視する項目であった「鮮度」に加えて,「有機,緑色,減農薬」であることをB社の野菜の特色と認識していることから,B社の意図した商品差別化は購入者によっても評価されているものと判断できる.ただし,「外国の種を使用していること」に対する購入者の認識は非常に低かった(第1位にあげた購入者の割合は0.4%)点で,まだ消費者に対する商品差別化の訴求は不足しているように考えられる.
(3) 配送サービスへの評価伊藤(1999)は農産物のECのデメリットについて,商品自体がかさばるものであるため送料が高くなったり,生ものであるために輸送によって傷む危険があると述べている.また,孔(2016)も中国におけるインターネット通信販売の阻害要因として,前述したように配送面での問題を指摘している.
商品の配送に関して,B社は青島市区,即墨市には朝採り野菜を即日配送することで鮮度を確保するとともに,自社社員が配送することによって配送サービスの向上に取り組んでいる.
B社の配送に対する購入者の評価を把握するために,「B社の配送サービスに満足ですか」を調査した結果(単数回答),「はい」と回答した者が青島市区96.9%,即墨市94.4%,上海市95.6%と,大部分の購入者が満足していた.しかも,距離の離れた上海市の購入者も,青島市区,即墨市の購入者とほぼ同じ満足度を示している.そこで,購入者に「B社の配送サービスに満足なところ」を調査した結果(複数回答),「時間を守る」68.6%,「野菜など傷つかないように配送する」64.4%,「配送担当者の態度が親切」54.1%,「配送員と会話できる」54.8%という結果であった.
これらのことから,購入者はB社の配送に満足しており,具体的には,定時性,品質保持,配送員の態度,配送員とのコミュニケーションを評価していることが確認された.特に,青島市区と即墨市に対しては自社社員が配送していることから,配送員の教育が可能になり,購入者の満足度を高めているものと考えられる.
ただ,B社の配送は常温配送であり,配送過程で鮮度低下や損傷が生じる可能性がある.この点は,前述の「届いた野菜の品質が悪い時がありましたか」という質問(単数回答)に対する結果や,B社の配送への要望を質問(複数回答)したところ,「野菜を傷まないようにして欲しい」が61.9%を占めたことにも表れている.したがって,B社の配送過程での鮮度低下や損傷に対する対応には,低温配送の導入などまだ改善の余地が残されている.
(4) アフターサービスへの評価孔(2016)や朴・門間(2007)が指摘しているように,販売業者のアフターサービス(返品,交換,保証,故障対応)やクレームへの対応はECを進めるうえで重要な課題である.また,前述したB社の購入者に対するアンケート調査でも,「届いた野菜の品質が悪いことが時々ある」が61.4%を占めていることから,購入者の信頼を確保するためには,品質が劣化した野菜が届いた場合などへの対応が課題となる.
B社では,購入者が農産物を確認した際に,もし野菜の品質が劣化していることを発見した場合,その野菜の写真をグループの担当者に微信で送れば,すぐに返金するか,次の配送時に購入者に新しい野菜を無料で配送するという対応をとっている.
この点に関して,購入者に「野菜の品質が悪い時,B社にその苦情を伝えたか」と質問した結果(単数回答),「伝えた」が74.8%を占めており,「伝えた」と回答した者に対して,その際のB社の対応について質問した結果,「すぐ対応してくれた」が96.7%を占めるという結果であった.このように,B社はクレームに対して迅速に対応することによって,消費者の信頼を獲得しているものと考えられる.
(5) 野菜の価格に対する評価B社の野菜販売価格は,青島市区と即墨市は同じ価格であるが,輸送費用がかかる上海市では1.6倍に設定している.
そこで,購入者にB社以外で通常購入する野菜価格11と比べたB社の野菜価格について質問した結果(単数回答),「高い」23.3%,「やや高い」58.0%,「同じ」16.3%,「やや安い」2.0%,「安い」0.5%と言う結果であった.したがって,アンケート調査からは,購入者はB社の野菜価格に必ずしも満足しているとは言えない結果となった.
そこで,B社の野菜価格の水準を検証するために,青島市のスーパー,農貿市場の価格とB社の野菜価格と比較した(表2).その結果,B社はYスーパー(有機野菜)より低いが,農貿市場(普通野菜)より高いことがわかった.この結果とアンケート調査結果をあわせると,購入者はB社の野菜価格を評価する際に普通野菜価格と比較した可能性がある.また,購入者心理として価格を引き下げて欲しい気持ちを持っている可能性があると考えられる.また,上海市では1.6倍の価格であるが,通常購入する野菜価格との比較では,「高い」11.8%,「やや高い」58.8%,「同じ」25.0%という結果であり,青島市区や即墨市の購入者と比較して割高感を感じているわけではなかった.これは,上海市の平均収入が青島市よりも高い(2017年の1人当たり月収は上海市8,962元,青島市6,057元)ことによるものであると考えられる.
| 品目 | 韮 | 茄子 | 人参 | 春菊 | キャベツ |
|---|---|---|---|---|---|
| B社 (有機野菜) |
12 | 8 | 8 | 8 | 6 |
| Yスーパー (有機野菜) |
37 | 10 | 21.6 | 23.4 | 8.8 |
| 農貿市場 (普通野菜) |
6 | 4 | 3.5 | 7 | 5 |
資料:2017年11月6日青島におけるB社とYスーパー,農貿市場の農産物の販売価格の調査により筆者作成.
1)キャベツの価格は1個当たりである.
以上のように,B社のECの取り組みに対しては,総じて購入者の満足度が高いと判断できる.しかし,アンケート調査の結果では,購入できる野菜の種類や量に対する満足度はまだ十分なものとはいえない.
B社から購入する野菜が1ヶ月の消費量に占める割合を質問したところ(単数回答),「20%未満」35.6%,「20~30%」29.7%であり,B社が販売する野菜の種類に対する質問にも(単数回答),「十分な種類がある」という回答は9.9%にとどまっており,「注文したとおりの種類・数量の野菜が届かなかったことがあるか」という質問(単数回答)への回答にも「まったくない」41.1%に対して「よくある」,11.9%,「時々ある」47.0%を占めている.
このような評価は,「B社の野菜に要望していること」という質問(複数回答)に対する回答で,「野菜の種類を増加」86.6%,「品質の向上」32.7%という結果を示したことからも裏付けられる.これらのことから,B社の野菜の種類や量に対する不満が,登録者数と比較した購入者数の割合の低さに繋がっている可能性も考えられる.青島市周辺は冬季の低温により野菜の露地栽培は困難であることから,前述のようにB社ではハウス栽培によって周年供給に向けた取組を行っているが,まだ不十分であると考えられる.
また,「B社の配送に要望すること」を調査した結果(複数回答)では,前述の「野菜を痛まないようにして欲しい」61.9%に加えて,「自宅まで配送して欲しい」が55.5%を占めており,配送サービスのさらなる向上への要望も強い.
したがって,購入者と信頼関係を維持し,購入者の拡大と購入数量の増加のために,野菜の種類・数量の増加,特にハウス栽培による周年供給への対応,低温配送による品質維持,自宅配送などが求められているといえよう.
本稿では,中国におけるSNSを利用した生鮮農産物ECの取り組みの特徴を,B社を事例に聞き取り調査と購入者へのアンケート調査の両面から検討した.
その結果,B社の事例では,購入者は友人からのSNSでの紹介によってB社を認知したうえで,友人の評価に基づいてB社からの購入を決定していた.すなわち,購入者が友人の紹介とその評価に基づいてB社を探索し,B社とその商品に対する信頼感を抱いて購入の意思決定が行われていた点に,通常のEC(淘宝など)と比べたSNSを利用したECの最大の特徴があったことが確認できた.また,ECによる販売事業者にとっての課題である購入者の獲得も,SNSを利用することで可能になっていた.つまり,SNSを利用したECは,販売業者と購入者の双方にとってECの持つ制約要因である探索の困難さと販売業者への不信,商品への不安の解決に有効性を持つものであることが示唆された.
さらにB社では,購入者の信頼を確保し,継続購入してもらうために,商品の差別化,アフターサービスへの対応,配送サービスに取り組んできた.これらの内容については,購入者は概ね評価しているものの,実際に届いた農産物の品質の確保や,農産物の特色の購入者への訴求,農産物の種類と数量の増加,周年供給システムへの対応,配送サービスの向上などの販売事業者に求められる取り組みの面では,さらなる改善の余地が残されていた.
以上のことから,中国における生鮮農産物ECの発展のためには,SNSが購入者による探索の面では有効な手段となり得るが,同時に購入者の信頼を獲得し,継続的な購入に結びつけるためには,配送サービスの改善による生鮮農産物の品質の向上,販売する農産物の種類と数量の増加,周年供給システムへの対応,アフターサービスへの対応などが必要であることが示唆された.