2019 年 55 巻 1 号 p. 32-42
ミャンマーでは目覚ましい経済発展の過程で農村から都市への労働移動が増加し,農村の労働力不足が農業生産におよぼす影響が懸念されている.しかし,この影響は,農村労働市場における過剰労働の存在如何によって大きく異なる.本稿は,ミャンマーで最も重要な作物であるコメの最大の産地であり,都市への労働移動が顕著であるエラワジ・デルタ管区における農家個票データを用い,稲作農村における過剰労働の存在を検証することを目的とする.そのために,本稿では,先行研究における実証分析の手法を参考に,家族労働と雇用労働の不完全代替性を考慮に入れた実証分析の方法を適用し,競争的な要素市場のもとでは,農家が生産と消費の意思決定を分離して行うという分離定理仮説を検証した.分析の結果,分離定理仮説は棄却され,エラワジ・デルタ管区においては依然として過剰労働が存在し,短期的には農業における労働力不足の問題が生じないことが示唆された.