農林業問題研究
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個別報告論文
都市部における食品事業者と農家の連携に関する一考察
―鳴門屋製パンの「ファームマイレージ2運動」への参画を事例として―
中塚 華奈
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2021 年 57 巻 3 号 p. 107-114

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Abstract

The basic law established by the central government recommends local governments to promote urban agriculture through urban farmers. Higashi-Osaka City is working on its own measures through its “Farm Mileage2 Campaign” (FM), to promote urban agriculture. The following results were obtained by involving food business operators to jointly develop agricultural products in the city. First, the residential areas of consumers preferring ethical foods have expanded based on the shipping destinations of food business operators. Second, events based on the philosophy of the FM movement so that the initiative will not be a mere leisure activity but a place for food and agriculture education that fosters an understanding of urban agriculture. Thirdly, many urban residents want near their homes.

1. 研究の背景と分析手法

(1) 研究の背景と課題

近年,都市農業をとりまく社会経済情勢は,目まぐるしく変化してきた.とりわけ2015年4月に都市農業振興基本法が制定されたことで,国や地方公共団体には,都市農業の安定的な継続を図るとともに,都市農業の有する機能の適切かつ十分な発揮を通じて良好な都市環境の形成に資することを目的とし,施策を講じる責務が課されることとなった.

都市農業振興基本法第九条に基づき,2016年5月に定められた都市農業基本計画では,「農業政策及び都市政策の双方の方向転換の下で,都市農業と都市住民との新たな関係を育て,深化させつつ,都市農業者や都市住民,関係行政機関や農業団体等が連携して都市農業の振興及び都市農地の保全を図るべき対象を明確にした上で,それらの安定的な継続に向けた施策を充実させることが必要」だとしている.

都市農業振興基本法の成立以前から,蔦谷(2005)は,都市農業の存続には消費者や自治体の協力が必要であると主張し,橋本(2016)は,国や地方公共団体の責務の充実と,農業者と都市住民の協働型農業の拡充強化の必要性を指摘してきた.

都市農業者や都市住民,関係行政機関や農業団体等の連携による都市農業の振興及び都市農地の保全を図る取組は,全国の都市部ですすめられている.江成(2017)は,「市民が身近に農を感じる場づくり」を柱とし,樹林地や緑地に農地の保全をも含む横浜みどり税を設けた横浜市の都市農業について,農福連携のような福祉や教育などで公益的な意義をもつ農地利用の方向を探る必要があるとした.中村(2018)は,全国に先駆けて,都市農地を所有者から自治体が借り受けて整備する練馬方式とよばれる市民農園を開設してきた東京都練馬区における区民の貸農園の利用や直売所での生産者との交流を「都市生活と農業の融合」と称し,都市農地・農業は都市に暮らす人々の生活をより豊かにする重要な財産であるとした.飯塚(2019)は都市農業と都市住民との交流形態を類型化し,東京都小平市における交流を基盤とした都市農業の存立実態を明らかにした.

本研究が取り上げる大阪府東大阪市の「ファームマイレージ2運動(以下,FM運動)」1に着目した先行研究として,青木(2013)は生産者の販売動向や生産の動機を分析し,消費者の評価を実感できることが生産意欲を高めていることを明らかにした.また,青木(2015a)はFM運動が地域全体に視野を広げていることに着目し,農協の発展には地域協同組合としてのアプローチが重要だと言及し,青木(2015b)では,農産物直売所を活用した地域循環型経済を構築するための条件を地域の消費者が関心を持てるような仕組みの形成と意欲の高い生産者の有利販売を実現できる環境整備にあるとした.またAoki(2015)は,FM運動に参画する消費者の購買意思について分析し,経済的見返りのためだけではなく,都市農家を保護し支援するためでもあることを明らかにした.中塚(2016)は,生産者と消費者との関係性を良好に保つことが都市農地を守る体制づくりにおいて重要であるとし,中塚・金坂(2019)は,都市農家にとって消費者とのつながりがやりがいとなり,都市部での営農継続意欲を高めることを明らかにしてきた.しかし,都市部に存在する食品事業者と都市農家の連携による都市農地の保全や消費者への都市農地への理解醸成について分析した研究は行われていない.

そこで,本論文では東大阪市のFM運動をすすめるなかで,食品事業者と都市農家の連携に着目し,その展開経緯と食品事業者がFM運動に参画することによる従来のJAの直売所を拠点とした生産者と消費者の間での一次産品を介した直接的な地産地消の取り組みとの違いを明らかにし,消費者の都市農業に対する理解醸成や考え方,購買意思などに影響をもたらすかを考察する.

(2) 分析手法

本論文では,研究目的を達成するために,東大阪市のFM運動に参画する鳴門屋製パン株式会社の取り組みを調査対象とした.

まず,FM運動の概要を明らかにするために,東大阪市農政課およびJAグリーン大阪の担当者へ聞き取り調査を行った.東大阪市の農業概況やFM運動が開始された経緯などに関する聞き取り調査は2015年4月から2019年3月までに8回,JAグリーン大阪には2015年8月に1回行った.また,2016年3月には鳴門屋製パン株式会社がFM運動の一環として開催したホウレンソウの収穫体験イベントに参画して参与観察を行うとともに,当日参加していた都市住民を対象としてアンケート調査を行った.その後,鳴門屋製パン株式会社の担当者に2016年5月と2020年7月の2回,聞き取りを行い,食品事業者としてFM運動に参画した経緯や効果などについて調査分析することとした.

2. 東大阪市の「ファームマイレージ2運動」

(1) 東大阪市の農業概況

東大阪市は大阪府の東部に位置し,大阪市,堺市の両政令指定都市に次ぐ大阪府で3番目の人口規模の中核市である.2020年9月時点で人口は492,820人,世帯数は232,330世帯である.

市の面積6,178haのうち,2020年の耕地面積は176ha(市面積の2.8%)で,そのうち田が92ha,畑が84haであった.2015年の農業センサスによれば,総農家数556戸のうち自給的農家は425戸(76.4%),販売農家は131戸(23.6%)であった.

2018年度の農業産出額(推計)は,米(11千万円),野菜(23千万円),果実(2千万円),花卉(4千万円),豚(3千万円)であり,多種多様な農産物が生産されている.

また,東大阪市では2009年より,品目を特定せず,栽培方法に着目して「大阪エコ農産物」を市の特産品にすることを目標に掲げてブランド化を行ってきた.「大阪エコ農産物」とは,大阪府が規定する農薬の使用回数と化学肥料(窒素成分とリン酸成分)の使用量を5割以上削減して栽培したことを,大阪府が書類審査と現地調査によって確認し,認証された農産物のことである2

また,東大阪市の農業の振興育成を図るとともに,市民の農業に対する理解と関心を深めることを目的として,東大阪市・JAグリーン大阪・JA大阪中河内・大阪府中部農と緑の総合事務所・東大阪市農業委員会で「東大阪市農業振興啓発協議会」を結成した.そして,大阪エコ農産物の申請書の書き方やトレーサビリティのための記帳方法を指導する申請会を開催し,認定取得後に農産物に貼付するエコマークのシールを無償で農家に配付してきた.

(2) 「FM運動」のしくみ

「FM運動」とは,「地域の産業を地域に住む人と共に無理なく守っていく」ことを理念として,東大阪市農業振興啓発協議会が発案した運動である.ファームには「育てる場」,2には「距離×距離=面積(2乗)」という意味が隠されている.

具体的な仕組みは,以下のとおりである.①東大阪市ブランドのエコ農産物を購入した消費者は,野菜袋に貼付されたエコシールを特製の台紙に貼る,②必要とされるエコシール48枚が貼付された台紙は,300円分のエコ農産物と交換できる,③その際に,「このたび,あなたが購入された東大阪市産農産物の生産面積が5m2に達しました3.これは,あなたがエコ生産者を応援し,東大阪市内の農地5m2の守り手になったことになります.よってここに感謝の意を表します」と記載した感謝状を消費者に授ける,④さらに,この感謝状を10枚集めた消費者には,東大阪市農業振興啓発協議会から表彰状と感謝の品を贈呈する.

消費者は,東大阪市産のエコ農産物を購入すればするほど,エコ農産物や感謝の品を受け取ることができ,自らの購買行動が「都市農地を守った」ということで賞賛される.消費者が購入してくれることや消費者から「美味しかった」という声が届くと,生産者の生産意欲が向上するというしくみである.

またJAグリーン大阪では,管内の各JAの店舗の一角で朝市(10カ所)を開催し,直売所(5店舗)を開設しているが,その際の出荷手数料を,慣行農産物は15%,大阪エコ農産物は10%とすることで,管内の農家が大阪エコ農産物への生産意欲を持つような仕掛けを講じた.生産者には出荷特典,消費者には購入特典を設けることで,両者は自らの利益を追求しているが,結果として都市農地の保全につながる仕組み(図1)となっている.

図1.

都市農地を維持する「ファームマイレージ2運動」の仕組み

資料:筆者作成.

3. 鳴門屋製パン株式会社のFM運動への参画

(1) 鳴門屋製パン株式会社の概要

鳴門屋製パン株式会社(以下,「鳴門屋」)は,創業1934年で,直営店10店舗のほか,レストランを併設した2店舗,洋菓子店や総菜店,コッペパン専門店,食パン専門店などを展開する老舗の製パン業者である.卸業部門では,大阪を中心に取引先は220店舗以上あり,当日の朝に焼き上げたパンを自社トラックで直接卸している.

「丸福珈琲クリームパン」,「かねふく明太子パン」,「海苔の佃煮で有名な磯じまんのパン」といった異業種と共同で開発した特徴的なパンを商品化している.東大阪市産のホウレンソウを練り込んだ「ポパイの食卓ロール」や淡路島産のタマネギを使用した「玉ちゃんロール」,和歌山産のみかんを使用した「みかパン」など,季節限定の旬の農産物をパンに練り込んだり,クリームとして挟んだりするなど,農家と共同企画したご当地パンの開発も積極的に行っている.

(2) FM運動参画へのきっかけとオリジナル企画

鳴門屋が農家との共同企画商品を開発するようになったきっかけは,現社長である長江伸治氏(発案当時は専務)が,地産地消に製パン業者としても貢献したいと考えたことであった.

何かできないかと検討していた時に,たまたま長江氏が東大阪市農業振興啓発協議会のメンバーと知り合いだったことがきっかけで,東大阪市の都市農業を応援するというFM運動の趣旨に賛同したのだという.また,FM運動で扱う農産物が大阪府のエコ農産物の認証を受けており,品質に信頼性がもてたことも,鳴門屋が共にFM運動をすすめる判断材料にもなった.そして2014年からFM運動に参画し,東大阪市の農家と取引を開始することとなった.

東大阪市産のホウレンソウを練り込んだ「ポパイの食卓ロール(以下,ポパイロール)」のバッグクロージャー(袋の留め具)には,鳴門屋のFM運動への参画を示すシグナリングとなるタグをつけた.タグには,鳴門屋パンがFM運動に取り組んでいることや,応募券3枚一口でキャンペーンの抽選に応募できることを記載し,従来,消費者がパンを食べ終われば,ゴミとして廃棄されてきたバッグクロージャーに「応募券」としての第二の役割を担わせた.また,ポパイロールのパンの袋の表側にはキャンペーン情報として,「収穫体験に応募しよう!応募期間・体験場所・日程」が記載されたシールを貼付し,毎年,応募者の中からおおよそ20組(50名程度)を東大阪市のホウレンソウ農家の畑での収穫体験に招待することとした.

(3) 鳴門屋のFM運動企画内容

収穫体験当日の参加者の体験内容は,以下のとおりである.①当選者は東大阪市の生産者の畑に集合し,生産者からホウレンソウ栽培やFM運動に関する話をきく,②鳴門屋の社員によるポパイロールの製造や栄養などの紙芝居を見て学ぶ,③実際に畑でホウレンソウを収穫し,しゃぶしゃぶにして試食する,④収穫したホウレンソウ(畑にあるホウレンソウであれば収穫量に上限なし)と鳴門屋のパンをお土産として持ち帰る.

ホウレンソウを好きなだけ持ち帰ってもらうことは,参加者にお得感を感じてもらえるだけでなく,帰宅後,ご近所にお裾分けされることが想定されており,口コミによる東大阪市の農業と鳴門屋のPRにつながることが期待されている.

(4) 鳴門屋のFM運動参画後の変化

1は,鳴門屋のポパイロールの売上数と収穫体験への応募ハガキ数,招待者数と当選者の居住地域をまとめたものである.

表1. 鳴門屋のポパイロールの売上とFM企画の応募者状況
年度 応募数 招待者数 当選者居住地域 売上袋数
2014 132 21組・44名 大阪・箕面・寝屋川・藤井寺・豊中・八尾・守口堺・西宮・宝塚 70,083
2015 168 25組・55名 大阪・守口・東大阪・吹田・堺・豊中・茨木・西宮 84,308
2016 213 18組・62名 大阪・東大阪・松原・八尾 87,086
2017 255 15組・61名 大阪・守口・堺・八尾・吹田・茨木・東大阪・高槻・豊中・奈良県葛城郡・香芝 90,000以上
2018 280 15組・49名 大阪・東大阪・池田・堺・八尾・和泉・吹田・茨木・枚方 90,000以上
2019 310 24組・65名 大阪・門真・八尾・松原・堺・箕面・岸和田・守口・奈良県橿原 90,000以上

資料:鳴門屋への聞き取り調査より作成.

ポパイロールの販売期間は,ホウレンソウの収穫時期(11~3月)だけの4ヶ月のみであるが,取り組みを開始した2014年では,販売数7万83袋(販売金額は10,392,991円)だったところから,年々,販売数は順調に伸びて,2019年の売上は9万袋(約1,300万円)を超えるまでになった.

ポパイロール1袋に使用される東大阪市産のホウレンソウは約50グラムであり,年間に4.5トンを鳴門屋はポパイロールの原材料として購入したことになる.仮に直売所で販売されるホウレンソウを1袋200グラム入りで換算すると,鳴門屋が仕入れたホウレンソウの量は22,500袋相当になる.食品事業者との共同企画は,消費者個人を対象とした販売と比較すると,まとまった量の売り先が確保されていることになり,都市農地の保全に大きく寄与しているといえる.

2020年度は新型コロナウイルスの影響によって開催中止となったが,2014年度から開催してきたホウレンソウの収穫体験の応募者は年々増加し,2019年度の応募ハガキ数は300通を超えた.6年間招待した人数は,のべ300名以上にもなる.当選者の居住地域は,東大阪市内に留まらず,鳴門屋の直営店のほか,卸の取引先がある近隣市町村に分布していることがわかった.

4. 食品事業者のFM運動関連イベント参加者へのアンケート調査結果

(1) 回答者の属性

本項では収穫体験イベントで,参加者に実施したアンケート結果についてみていくこととする.2016年度は18組(62名)の参加があり,アンケートは1家族ごとに1枚を代表者に回答していただいた.アンケートは30部配付して,その場で30部(100.0%)回収した.回答者の属性は小学生以下の子供のいる保護者であり,表2のとおり性別は男性10名,女性20名,年齢は20代20名,30代10名であった.世帯構成は全員が親子二世帯であり,居住地域は大阪市(18名),東大阪市(7名),松原市(2名),八尾市(3名)であった.

表2. 回答者の年齢と性別 単位:人(%)
男性 女性 合計
20代 4(40.0) 16(80.0) 20(66.7)
30代 6(60.0) 4(20.0) 10(33.3)
合計 10(100.0) 20(100.0) 30(100.0)

資料:アンケート調査より作成.

(2) 東大阪市のエコ農産物やFM運動の認知度

東大阪市のエコ農産物生産の取組については,表3のとおり「以前からよく知っていた(13.3%)」,「なんとなく知っていた(16.7%)」,「全く知らなったが今日でよく理解できた(70.0%)」という回答結果となった.また,FM運動についても,「以前から知っていた(10.0%)」,「知らなかったが今日でよく理解できた(90.0%)」という回答結果となり,ホウレンソウの収穫体験イベントに参加したことが東大阪市での農業やFM運動を知る有効な機会になっていることが確認できた.

表3. 参加者の東大阪市のエコ農産物生産とFM運動の認定状況 単位:人(%)
東大阪市のエコ農産物生産 FM運動
以前からよく知っていた 4(13.3) 3(10.0)
なんとなく知っていた 5(16.7) 0(0.0)
全く知らなかったが今日でよく理解できた 21(70.0) 27(90.0)
合計 30(100.0) 30(100.0)

資料:アンケート調査より作成.

(3) 都市住民が望む都市農業への支援方法

東大阪市の農業に支援できることは何かを尋ねたところ,表4のとおり「東大阪市産の農産物や加工品を近隣店舗で購入することで支援する(70.0%)」が最も多く,「学校給食に応援したい農産物の割合の増加を要望する(46.7%)」という回答が次に多かった.自分の居住地において都市農業の支援につながる購買行動を行うことを選択する回答が多かった.「東大阪市での農業イベントに参加する(23.3%)」,「市民農園や体験農園を利用する(20.0%)」,「東大阪市内の直売所で購入する(10.0%)」という回答がみられた.

表4. 東大阪市の農業に対して出来ると思う支援方法と居住地(複数回答) 単位:人(%)
大阪市 東大阪市 松原市 八尾市 合計
東大阪市産の農産物や加工品を近隣店舗で購入する 16(88.9) 0(0.0) 2(100.0) 3(100.0) 21(70.0)
学校給食に応援したい農産物の割合の増加を要望する 7(38.9) 4(57.1) 1(50.0) 2(66.7) 14(46.7)
東大阪市での農業イベントに参加する 0(0.0) 7(100.0) 0(0.0) 0(0.0) 7(23.3)
市民農園や体験農園を利用する 4(22.2) 0(0.0) 1(50.0) 1(33.3) 6(20.0)
東大阪市内の直売所で購入する 0(0.0) 3(42.8) 0(0.0) 0(0.0) 3(10.0)
有効回答者数 18(100.0) 7(100.0) 2(100.0) 3(100.0) 30(100.0)

資料:アンケート調査より作成.

居住地とのクロス集計でみたところ,「東大阪市での農業イベントに参加する(23.3%)」,「東大阪市内の直売所で購入する(10.0%)」といった東大阪市で応援するという回答を選択した者は全員,東大阪市在住者であった.

都市農業を購買行動で応援する方法として,遠方での農業体験イベント参加や直売所に出向くよりは,居住地にいながらにして,できることに取り組みたいという回答が多くみられた.

(4) イベント参加前後による意識の変化

ホウレンソウの収穫体験イベントへの参加前後で,気もちに変化があったかを尋ねたところ,表5のとおり「このような取組をしている鳴門屋のパンをまた買いたいと思う(66.7%)」が最も多く,次いで「収穫体験にまた参加したい(63.3%)」,「東大阪市の農家と会えて良かった(40.0%)」,「東大阪市の農産物が売られていたら買いたい(20.0%)」という回答が得られた.

表5. イベント参加前後による意識の変化(複数回答) 単位:人(%)
合計
このような取組をしている鳴門屋のパンをまた買いたい 20(66.7)
収穫体験にまた参加したい 19(63.3)
東大阪市の農家と出会えて良かった 12(40.0)
東大阪市の農産物が売られていたら買いたい 6(20.0)
有効回答者数 30(100.0)

資料:アンケート調査より作成.

鳴門屋が都市農地を保全するためのFM運動に参画していることを評価し,都市農業にも共感し,今後もそのような取り組みを行っているからという理由で鳴門屋の商品を購入するエシカル消費4を行うという回答が得られた.また,鳴門屋の収穫体験イベントに参画した消費者は,東大阪市外の在住者が多く,鳴門屋の介入によって都市農業に理解を示し,エシカル消費を実践する消費者が地理的にも量的にも拡大しているといえる(図2).

図2.

実需者の関与による顧客の拡大

資料:筆者作成.

5. 考察とまとめ

本稿では,東大阪市におけるFM運動の展開経緯を整理し,従来のJAの直売所を拠点とした生産者と消費者の一次産品を介した直接的な地産地消の取り組みと,食品事業者である鳴門屋製パンがFM運動に参画することによってどのような違いがあるかを明らかにし,消費者の都市農業に対する理解醸成や購買行動などに影響をもたらすかを調査してきた.その結果,以下のような分析結果が得られた.

1つ目は,近隣市町村に拡がる出荷先をもつ鳴門屋がFM運動に関わることで,東大阪市以外の地域在住の消費者をもターゲットにすることができたということである.鳴門屋が関わらなければ,東大阪市内の直売所を介した農家と消費者とでほぼ完結していた地産地消をすすめる対象区域を,近隣市町村に拡大することができた.

2つ目は,単なる収穫体験であれば「楽しかった」や「美味しかった」といった参加者の満足感だけで終わる可能性が高いが,生産者や東大阪市の農政課の職員,鳴門屋のスタッフによる都市農業に関する内容の話をする時間を設定したことで,消費者が都市農業について理解し,都市農地を存続させようとしているFM運動の趣旨も理解する食農教育の機会となったことである.また都市農業を応援する鳴門屋の想いに触れて,今後もそのような鳴門屋のパンを購入しようと思うエシカル消費につながっていた.

3つ目は,都市農業について学び,その存続の必要性に共感した都市住民が,都市農業を購買行動で応援する形として,イベント参加や遠方の直売所に出向くよりは,自宅近辺で応援したい都市農業の農産物や加工品を購入したり学校給食への導入を望んでいたりするということである.食品事業者が都市農家と共同開発した商品を日頃から消費者の地元で応援消費できることが望まれていることがわかった.

今後の研究課題として,FM運動に賛同・参画する他の事業者と都市農家の連携に関する事例調査を積み重ね,消費者のエシカル消費の動向や都市農業の振興及び都市農地の保全に資する仕組みや施策のあり方についても研究を深めていきたい.

1  「ファームマイレージ2運動」の2は上付き文字であり,脚注番号ではない.

2  大阪府のエコ農産物は,品目ごとに農薬の使用回数や化学肥料の窒素とリン酸の使用量が定められている.東大阪市では大阪府のエコ農産物では基準が策定されておらず,認証対象にはならない品目についても,農薬と化学肥料の両方を一切使用しない栽培方法であることを条件として,東大阪市産のエコ農産物としてJAが独自認証を行っている.

3  ホウレンソウの栽培面積を約33cm四方だとすると,その面積は1,089cm2センチメートルとなる.エコシール48枚分の野菜が植わっていた農地面積は52,272m2=約5m2となる.

4  消費者庁が開催した「倫理的消費調査委員会」によれば,エシカル消費とは「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮し,そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」とされる.具体的には,障がい者支援につながる商品やフェアトレード商品,リサイクル商品,地産地消や被災地産品,動物福祉など配慮の対象は多岐にわたる.本論文においては,農薬と化学肥料の使用量を通常の半分以下に抑えたエコ農産物の購入と,FM運動に参画し,都市農業を応援している鳴門屋製パンの商品を購入することをエシカル消費のひとつとして取り上げた.

引用文献
 
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