秋田県総合食品研究センター報告
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ヒト肝細胞の形成過程におけるリポタンパク質産生能の獲得機構に関する研究
佐々木 玲
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2018 年 2017 巻 19 号 p. 15-28

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抄録
 本研究では、肝細胞の形成過程におけるリポタンパク質産生能の獲得機構について明らかにすることを目的に行った。はじめに、肝細胞分化マーカー遺伝子群の発現パターンにより、ヒト培養肝細胞株(6種)を未分化型、高分化型および正常型に分類した。また、これらの肝細胞株が分泌するリポタンパク質を精密に分析することにより、未分化型はリポタンパク質を産生しないこと、高分化型と正常型が産生するリポタンパク質の粒子サイズに違いがあることを明らかにした。これらの成果は、分化段階によって肝細胞により産生されるリポタンパク質の種類が異なることを示している。またリポタンパク質の精密な分析は、肝細胞の分化段階を判断する上で適切であることから、新規な分化マーカーとして応用することを提案した。  VLDL(超低密度リポタンパク質)の形成には、ApoB100遺伝子(アポリポタンパク質B100)およびMTP(ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質)遺伝子の発現が必須であり、これらは肝細胞の分化に関与するHNF(肝細胞核因子)タンパク質群の制御下にある。そこでヒト間葉系幹細胞株UE7T-13細胞を用いて、HNFタンパク質群が肝細胞の形成およびリポタンパク質産生能に与える影響について検証した。遺伝子工学的な手法によるHNF4/HNF1タンパク質の同時強制発現は、間葉系幹細胞から肝細胞への分化を促し、さらにMTPタンパク質の発現を誘導することを明らかにした。しかしながら、ApoB100遺伝子の発現は誘導されたものの、ApoB100タンパク質の発現は非常に低く、またリポタンパク質は検出されなかった。以上の成果より、HNF4α/HNF1αタンパク質の同時強制発現は、肝細胞への分化およびMTPタンパク質の発現を誘導できること、一方、リポタンパク質産生能の獲得には、さらなる要因によるApoB100遺伝子の活性化が必要であることを提唱するに至った。  本研究の成果は、肝細胞におけるリポタンパク質産生機構について新たな知見を提供するものである。またこれらの知見は、新たな作用機序による、リポタンパク質を標的とした脂質異常症改善薬の開発につながるものである
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© 2018 秋田県総合食品研究センター
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