抄録
秋田県特産のハタハタ漁獲量は一時期年間約70トンまで激減したが、漁業関係者の努力で3,000トンまで回復した。漁獲量が安定すると品質保持技術、品質特性把握および新規加工技術開発などの研究開発ニーズが大きくなってきた。しかし、ハタハタを食料や加工原料としてとらえた研究は少なく、ハタハタ利用加工を進める上で多くの科学的な基礎知見が必要であった。本研究は秋田県を代表する地域特産食品ハタハタを研究対象とし将来的にも地域特産食品として存続させるため、その食品科学特性を明らかにし、問題点の解決と品質改善のための技術開発を行ったものである。
これまでほとんど研究されていなかった地域特産食品ハタハタの多くの特徴を明らかにした。ハタハタの漁獲時期では9月の脂質含量が多く美味しい条件を備えており、新しい旬の時期であることを明らかにした。その脂質は強い抗酸化性があることも科学的に証明した。ブリコの粘り物質は新規なタンパク質であり、ブリコの接着と硬化は海水塩濃度で作用する酵素が関与する可能性を明らかにした。また、ハタハタずしは乳酸発酵の有無で2つに分類できることを科学的に明らかにした。ハタハタの9月漁獲、ハタハタ脂質の抗酸化剤としての利用、ハタハタずしの味の選択性など新たに提案できる。また、現在のハタハタ利用上の問題点について解決技術を検討し、12月の短期集中漁獲による魚価低下を避けるため、畜養による出荷調整技術を開発した。冷凍保存と魚卵加工の障害原因が酵素作用である可能性から、加熱による酵素失活処理を検討し冷凍保存法と魚卵加工技術を新たに開発した。乳酸発酵が不安定であった問題から、ハタハタずしに乳酸菌を添加し乳酸発酵を改善した品質安定化技術を開発した。今後はハタハタが地域特産食品としてより長く続いて行くよう、高品質な新しい地域特産食品をめざし今後も研究開発を進めていく必要がある。