抄録
本論文では、21世紀になって日本で拡大してきた芸術祭について検討する。芸術祭は、美術を扱った社会教育という側面を持ちながら、学校教育の連携先ともなってきた。藤田直哉は芸術祭について「アートの批評性」が失われていると批判している。しかし先行研究の多くでは、芸術祭に対する批判的な検討は極めて少ない。そこで第一に、C.クラウチのポスト・デモクラシー論を援用して、社会構造における美術と教育の位置づけを考察した。第二に、日本の芸術祭に影響を与えてきたドクメンタとヴェネツィア・ビエンナーレの経緯について整理した。第三に、ドクメンタとヴィエンナーレと、日本の主要な芸術祭との比較分析をした。その結果、欧州の芸術祭は芸術専門家を中心とした組織による主催であること。日本の芸術祭は政治、行政、経済のエリートを中心とした組織による主催であることが、浮き彫りとなった。最後に、ポスト・デモクラシー下にある芸術祭の構造を明確にして、現状の課題について新たな認識を提示し、今後の展望について論じた。