女性学年報
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フェミニズムの歴史化における〈波〉区分を問いなおす
日本語圏では、なんのために、どんなふうに用いられたか
牧野 良成
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2020 年 41 巻 p. 41-62

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抄録

フェミニズムの歴史が語られるとき、〈波wave〉という概念に頼った区分の方法がしばしば用いられる。典型的には、1960年代なかばから70年代初頭にかけて運動が高まりをみせた時期が、19世紀なかばから20世紀初頭にかけての〈第一波〉に次ぐ〈第二波second wave〉と捉えられる。遅くとも1960年代アメリカにさかのぼるこうした用法については、〈第三波〉なる自称が現われた90年代以降の英語圏では、批判的な検討が始まっている。同時代の運動の昂揚とともに運動史への関心もまた高まる現在、日本語圏においても〈波〉概念が帯びる文脈性を踏まえたうえで歴史記述の方向性を探る必要は増していると思われる。そこで本稿では、1970年代以降のフェミニズムの歴史が語られるとき、日本語圏では〈波〉という区分がいかにして用いられてきたかを検証する。注目すべきは、70年代にはアメリカなど諸外国の動向を紹介する文脈で用いられていた〈波〉概念が、80年代なかばには日本語圏の動向をも指し示すものへと転じたことである。ここからは、女性学‐フェミニズムの観点を打ち立てるべく奮闘した者たちが、地域や争点を異にする同時代の運動や先行する運動をにらみながら選び取った、自己呈示と戦略とでも言うべきものが読み取れる。

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© 2020 日本女性学研究会『女性学年報』編集委員会
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