2024 年 45 巻 p. 45-72
1970年代、家事労働に賃金を要求する運動はフェミニズムの争点の一つであった。本論考では、その運動をイタリアで展開したマリアローザ・ダラ・コスタと家事労働賃金要求委員会が発行していた新聞『家庭労働者』の創刊号からいくつかの記事を紹介する。そしてこの運動が掲げた労働概念の拡張と、闘いによる女性の解放を目指したダイナミズムを明らかにすることを第一の目的とする。
日本でダラ・コスタは「マルクス主義フェミニスト」であり、「家事労働論者」としてのイメージが定着してしまっているが、彼女と運動体が起こしたこの運動は、当時のイタリア・フェミニズム最大の懸案の一つであった中絶の合法化を求める運動や婦人科医学の知識と情報を女性に戻すための対抗的情報センター作り等、女性が身体の自律性を取り戻すための多様な運動の結節点になっていたことを明らかにし、ダラ・コスタの運動家としての面貌を浮き彫りにしようと試みた。
彼女と運動体が国に求めた家事労働者への直接の賃金支払いは結局実現しなかったし、1970年代に勝ち取られた中絶の自由という女性の身体の自律性は今日も多くの国で政治の争点となっている。女性に家事や育児、介護労働を安く負担させて搾取しようとする国や資本の企みは昔も今も変わっていないため、女性の連帯と闘いがなければ女性の身体の自律性はいつ何時でも奪われてしまう。ゆえにダラ・コスタたちが1970年代に展開した女性の身体の自律性をかけての壮絶な闘いは依然として多くの再生産労働の負担を抱えながら生きる現代の女性たちに自律的に生きるためのヒントを与えてくれる。