抄録
縄文時代から現代人までの男女合計168体220側の膝蓋骨を用いて,その上外側縁に生ずる切痕の時代差を検討した。切痕の出現率および相対長は,時代が進むにつれて減少する。切痕の形には著しい時代差•性差は認められない。
一般に縄文早期人は縄文中後晩期人に比べて骨格はきゃしゃであり,長骨骨幹も細いといわれる。膝蓋骨切痕の出現率•相対長は前者が後者より大きく,両者の差は他の1時代分の差にほぼ匹敵する。膝蓋骨切痕の形成度が大腿四頭筋の発達と生長期の栄養不良とをある程度反映すると仮定すれば,縄文早期人は骨格筋をよく使用したにもかかわらず,生長期に栄養不足に見舞われがちであったので,その四肢長骨が細いと説明できよう。