抄録
年齢17歳から33歳までの63名の男女について,椅座と仰臥の両姿勢における肺拡散能(DL),膜拡散能(DM),および肺毛細管血液量(Vc)が求められた.これらの測定値と形態的要素との関係から,DL とその姿勢変化の性差が調べられ,さらにDLの人種差が検討された.男子の DL は平均値においていずれの姿勢でも女子より約35%大きく,身長や体表面積のような体格の差で補正してもなお有意な性差が認められた.これらの差は,肺胞容量で補正したときはじめて消失した.すなわち,男女間の全身的な大きさ,およびこれと肺容量問の相対比の違いによって DL に性差が生じるものと考えられた.
DL の姿勢差は男女に共通してみられ,いずれも Vcの姿勢差に依存することが示された.Vc の姿勢差は,身長との関係から男女いずれも直立した肺の垂直方向の高さの高いものほど大きくなることが示された.単位肺胞容量当たり DL の姿勢差と身長との関係では,身長の低い集団である女子のみにおいて有意な関係が認められた.
他文献との比較の結果,日本人とコーカソイドとの間では DL を体格の違いで補正してもなおコーカソイドは高い値を示したが,DL を肺胞容量で補正すると人種間の差は認められなかった.したがって日本人とコーカソイド間にみられた人種差の主な原因は,日本人の DL の性差にみられた原因に類似するものと考えられた.