人類學雜誌
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94 巻, 1 号
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  • 佐藤 陽彦
    1986 年 94 巻 1 号 p. 1-18
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ヒトの骨格筋の筋繊維組成の大枠は遺伝により決定されているが,動物実験の結果やヒトにおける筋繊維型の転換を示唆する知見から,ヒトにおいても筋繊維型の転換が生じていると考えられる。持久性訓練或いは日常活動によってII B 型→II A 型→I型の方向に繊維型が変化する。II C 型II A 型から I 型に変化する過程での過渡的な型である。この変化は可逆的で,訓練の中止や不活動によって逆方向の変化が生じる。この逆方向の変化を別にすれば,I型繊維からII型繊維への転換はより困難であると考えられる。運動選手における筋繊維組成や筋繊維組成の年齢的変化は,このように考えると説明できる。喫煙や栄養状態や甲状腺ホルモンも筋繊維組成に影響を与える。
  • 安河内 朗
    1986 年 94 巻 1 号 p. 19-32
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    年齢17歳から33歳までの63名の男女について,椅座と仰臥の両姿勢における肺拡散能(DL),膜拡散能(DM),および肺毛細管血液量(Vc)が求められた.これらの測定値と形態的要素との関係から,DL とその姿勢変化の性差が調べられ,さらにDLの人種差が検討された.男子の DL は平均値においていずれの姿勢でも女子より約35%大きく,身長や体表面積のような体格の差で補正してもなお有意な性差が認められた.これらの差は,肺胞容量で補正したときはじめて消失した.すなわち,男女間の全身的な大きさ,およびこれと肺容量問の相対比の違いによって DL に性差が生じるものと考えられた.
    DL の姿勢差は男女に共通してみられ,いずれも Vcの姿勢差に依存することが示された.Vc の姿勢差は,身長との関係から男女いずれも直立した肺の垂直方向の高さの高いものほど大きくなることが示された.単位肺胞容量当たり DL の姿勢差と身長との関係では,身長の低い集団である女子のみにおいて有意な関係が認められた.
    他文献との比較の結果,日本人とコーカソイドとの間では DL を体格の違いで補正してもなおコーカソイドは高い値を示したが,DL を肺胞容量で補正すると人種間の差は認められなかった.したがって日本人とコーカソイド間にみられた人種差の主な原因は,日本人の DL の性差にみられた原因に類似するものと考えられた.
  • A. K. BHALLA, Vijay KUMAR
    1986 年 94 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    パンジャブ州の都市在住の幼児154名の体重と身長を縦断的に測定し,対照群として同じ都市の幼児721名を横断的に調べた.最初の4,5ケ月の間は両群の間に差はなかったが,それ以後は縦断的研究群の値の方が横断的研究群の値に比し有意に大きい(P<0.05).このような生長パターンの差異は本論文においてホーソーン効果に基づいて考察されている.そして,生長の縦断的研究資料を論じる際にはホーソーン効果の役割が考慮されるべきことが分った.
  • 第2部ノンパラメトリック統計解析
    遠藤 萬里, 馬場 悠男
    1986 年 94 巻 1 号 p. 39-49
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    すでに第1部において,日本国内の更新世の堆積から出土したとされる寛骨を対象に非計量的諸性質について観察し,記載を行い,これらの諸性質について,アウトラロピテクス段階から完新世サピエンス段階に至る各段階の寛骨と比較検討した.その際,非計量的諸性質をできるかぎり客観化して表現するため,各観察項目について順次カテゴリー法を用いた.すなわち,まずカテゴリー値を定義した後に,対象の諸性質を定義に従って分類して,カテゴリー値で示す方法をとった,その結果,明石人寛骨を除く日本更新世人寛骨はかなりの程度に共通した特微があることが明らかになった.ただし,明石人寛骨は現代日本人寛骨でも華奢な寛骨のなかのいくつかに類似し,完新世人寛骨であると考えられた.
    この第2部においては,寛骨の進化傾向と,そのなかにおける日本更新世人寛骨の占める位置を明らかにするため,順次カテゴリー値を使用して3種のノンパラメトリック統計解析を行なった.それらの結果は以下の通りである.
    まず,KRUSKAL のノンメトリック多次元尺度法をもちいて,対象および比較標本を3次元に展開する.その結果を Fig.2に示したが,第1軸と第2軸のなす平面において,エレクト段階からネアンデルタール段階,更新世サピエンス段階を経て完新世サピエンス段階へ連なる,かなり直線的で明瞭な流れを見ることができる.このなかで,明石人寛骨を除く日本更新世人寛骨は更新世サピエンス段階に位置している.明石人寛骨のみは完新世人寛骨群の最先端付近に位置している.なお,アウストラロピテクス段階はこの流れに合致しない.
    このようなエレクトス段階から完新世サピエンス段階に至る明瞭な流れは,各項目のカテゴリー値すべてに相互の相関があることを示唆するものである.この相関を検出するため,カテゴリー値を順位値に変換し,KENDALL の一致度係数を計算した.係数値はとくに高いとはいえないが,その X2 値から有意性を検定すると,無相関の確率は.00000001以下であって,明確に全項目の相互の相関が証明された.したがって,ここで用いた寛骨の非計量的諸性質には,人類進化の流れと合致する一方向性の流れがあるとみなしうる.
    次に,このような一方向への流れのなかでの位置を検出する方法として,LIKERT 法を用いた.これには再び順次カテゴリー値を使用した.ただし,本来の方法による評点は各項目の評点の総和であるが,改変して平均評点を求めた.結果の信頼性係数は0.8483であって,結果は充分に有効である.その結果(Fig.3)をみると,更新世サピエンスは特定の評点区間に集まり,明石人を除く日本更新世人はみなこの区間に入る.すなわち,寛骨の進化において更新世サピェンス段階は明瞭に存在する.したがって,第1部で述べた日本更新世サピエンスの諸特徴がこの段階のものであることが明白となった.明石人寛骨は完新世サピエンスである現代日本人集団のなかでも非常に現代的位置を占めている.
    これまでの形態学的研究の結果に関するかぎり,明石人寛骨はあらゆる面で華奢な完新世人の寛骨であり,現代人的である.
  • 尾本 恵市
    1986 年 94 巻 1 号 p. 51-63
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    岩手県在住の健康な献血者500名よりえた血液試料につき,デンプンゲル電気泳動ならびに一部は等電点分画により下記の赤血球酵素ならびに血清蚕白の多型を検査し:ACP, PGM 1, ESD, GPT, Hp, Tf,PGM 1亜型および Gc 亜型,各形質に関し推定された表現型および対立遺伝子の分布は,日本の他地域より従来報告されていたものと基本的に同様であった。しかし,Gc 亜型の頻度を沖縄を除く日本各地のデータ間で比較したところ,Gc*1F および Gc*2 の頻度に統計上高度に有意な地理勾配が検出された.
  • 大中 忠勝
    1986 年 94 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    12歳から52歳までの日本人男子被検者64名の体組成を水中体重定法により測定した.同時に実施した皮脂厚及び周径の測定値から,身体容積を推定する式を作成した.ステップワイズ重回帰分析により,体重(BW),胸囲(CG),腹囲(AG),及び年齢(AGE)を説明変量とする以下のような身体容積(TBV)の推定式が得られた.
    TBV(l)=0.9424BW(kg)+0.1188AG(cm)-0.0695CG(cm)-0.0029AGE(years)-2.893 (R=0.998,SEE=0.586)
    体脂肪比率(%Fat)は BROZEK ら(1963)の体脂肪算出式に上記の身体容積推定式を代入して求めた.
    %Fat=•(16.48BW+54.29AG-31.76CG-1.33AGE-1322)/BW (R=0.651,SEE=3.5)
    これらの推定式の精度は別に測定した20名の被検者(13-48歳)のデータにより,検討した.測定値と推定値との差の絶対値の平均は身体容積で609ml,体脂肪比率で4.2%であった.本研究において求められた推定式の精度は他の研究の式と比較して推定誤差をより少なくするものであった.さらに,本研究の推定式は他の研究で説明変量として採用される場合が多い皮脂厚を含んでいない.体重と周径及び年齢のみで推定が可能であり,皮脂厚測定に伴う測定誤差が除かれる.また体重計と巻尺のみで計測できることから,野外での使用が簡便である.
  • M. Sharif KAMALI
    1986 年 94 巻 1 号 p. 75-79
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    イラン東北部に在住するモンゴル系移住民カザク族の男性83名について指掌紋を採取した.かって遊牧民であったカザク族も,現在では定住し,ほとんどが労働者となっている.
    調査したのは,指紋,掌紋, D 線終末型,副三叉線,C線終末型,指紋隆線数,紋型強度示数,掌紋隆線数,および主線示数である.
    カザク族の特徴としては,C 線終末の P (近位)型とA (欠如)型の頻度がひじょうに高く,指紋隆線数の指間の変異と左右の差が著しい点を挙げることができる.イラン在住のほかの集団との比較では,第9表に示したように,多くの項目において有意の差が認められた.
  • 百々 幸雄
    1986 年 94 巻 1 号 p. 81-93
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    北アメリカ由来のモンゴロイド5集団と東アジア由来のモンゴロイド2集団およびコーカソイド1集団の頭骨について,3組の顔面平坦度計測をおこなった.モンゴロイド集団は,オンタリオ•イロコワ,カナダエスキモー,イヌピック系とユピック系のアラスカエスキモー,アレウト,モンゴル人,グアム島のミクロネシア人で,コーカソイド集団は東インド人である.調査した資料の詳細は表1に示した.このほかに,YAMAGUCHI(1973)が報告したアイヌと日本人の計測データを比較に用いた.
    計測法はYAMAGUCHI(1973,1980)にしたがい,前頭部,鼻骨および頬上顎部の平坦度計測がおこなわれた.その結果は,それぞれ表2,3,4に示すとおりである.前頭,鼻骨,頬上顎の各平坦示数の男女間の相関を SPEARMAN の順位相関係数で計るとかなり高い値が得られ,いつれも1%水準で有意であった.
    3つの平坦示数の3次元分布図(図2と図3)を描くと,鼻骨平坦示数は変異の幅が大きすぎるので,前頭平坦示数と頬上顎平坦示数の組合わせが,モンゴロイドとコーカソイドを分類するのにより有効であると思われた.モンゴル人は男女とも,いつれの示数も小さく,顔面がとくに平坦であることがうかがわれた.
    平坦示数のみの比較では不十分と思われたので,前頭部,鼻骨および頬上顎部の6項目の計測値を用いてPENROSE の形態距離を求めたが,その結果は表5に示した.形態距離も男女間の相関が高く,SPEARMANの順位相関係数は0.97で,0.1%の水準で有意であった.距離マトリックスを類似度マトリックスに変換して,主座標分析をほどこしたが,その結果を2次元に展開したのが図4である.各集団の位置関係は男女間でほぼ完全に一致している.また,エスキモー3集団の位置関係も,地理的•言語学的関係とほぼ一致している.日本人とオンタリオ•イロコワが比較的近い位置を占めているが,この関係は山口(1981)が頭骨計測値の判別分析ですでに指摘したところである.
    エスキモーの鼻骨平坦示数は東インド人のそれと同等か,それをやや上まわる値となっているが,これはエスキモーの鼻骨が幅狭くしかも突出している(いわゆる "pinched")ためである.エスキモーの "pinched nasalia" については, HYLANDER (1972) が結論したように,生物力学的観点から説明するのが妥当かと思われるが,より厳密な解釈にはな一層の研究が必要であろう.
  • 遠藤 萬里, 諏訪 元, 服部 昌男
    1986 年 94 巻 1 号 p. 95-105
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    一般に,X 線断層撮影装置は医療用に作られているために大きく,しかも患者を載せたり固定したりするために大きな付属品が多く装着されていて,一般の人類学の研究室で使用するのに適していない.コンピューター断層装置はその原理からみて,大いに有用にみえるが,やはり大きくまた高価すぎる.人類学においては,この種の装置は小さいほうが望ましく,場合によっては携帯できるものがよいと思われる.
    FENART(1969)は,半規管面を基準とする頭蓋骨研究のために,小型で携帯可能な X 線断層撮影装置を考案し,これを vestibulograph と呼んだ。しかし,彼の記述には,どのような原理で断層撮影ができるのかということについてほとんど書かれていない.それは全く不明といってよい.
    筆者らはこのような小型の断層撮影装置の必要性を感じた.そのため彼の装置における断層像の撮像の原理を解明した.彼によると,断層面とフイルム面が,一定範囲の角度内で,平行しつつ回転するとのことであったので,これを前提条件として解いた.
    つぎに,その原理にもとづき,角運動型 X 線断層撮影装置を試作し,それによって得られた断層像がFENART の装置で得られたものに匹敵しうることを確認した.
  • 中嶋 八良
    1986 年 94 巻 1 号 p. 107-110
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    著者は以前(1978)に,少数例(520例)の日本人赤血球試料について Cob(Colton) 血液型抗原をしらべ,日本人の間では Cob 遺伝子がないか或いはごく低い頻度でしか存在しないことを報告した.その後さらに東京及び千葉県在住の日本人から集めた4,000例の血球試料につき Colton 血液型の追加調査を行なった結果,0.45%の頻度で Co(a+b+) 型者の存在が認められ,これよりCob 遺伝子の頻度は 0.002 と推定された.この遺伝子頻度は,これまでに報告されている白人におけるそれ(平均約0.04)よりはるかに低く,Colton 血液型が人類学的研究に有用なことを示唆している.また,今回の調査で, Cotton が Diego システムとは独立遺伝することを示す一家族がみつかった.
  • 松谷 暁子
    1986 年 94 巻 1 号 p. 111-118
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    アワ•ヒエ•キビの三者は,栽培の歴史が古く,繩文時代に湖るのではないかと,しばしば取沙汰されるが,まだ実証されていない.小形のため,炭化したものの外形からの識別は,時代の新しいものについても容易とはいえない.しかし,内頴や外頴の表皮細胞が残存して観察されれば,その形態的差異により識別可能であることは,例は少ないが,灰像法による報告で示されている.
    走査型電子顕微鏡(SEM)を利用すると,炭化粒を灰化する必要もなく,細胞の位置関係などの情報が増し,識別がより明確になる.本報告は,最もよく知られているアワを例,SEM でどのような像が観察されるかを,平安時代の岩手県江刺家遺跡出土粒と,現在の栽培アワで示した.繩文時代の出土物との比較の際に役立つと考えられる.
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