人類學雜誌
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日本の古人骨(縄文および弥生時代)における元素組成の変動
小杉 弘子埴原 和郎鈴木 継美河辺 俊雄姫野 誠一郎本郷 哲郎森田 昌敏
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1986 年 94 巻 3 号 p. 275-287

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抄録

縄文および弥生時代の遺跡から発掘された99資料の助骨,および3体の人骨の5部位について,19の元素濃度を測定した.洗源乾燥後の資料(助骨)において,遺跡の場所による差がなかった元素はボロン,カルシウム,銅,ニッケル,鉛で,他方大きな変動を示したものはアルミニウム,コバルト,鉄,ストロンチウム,チタン,バナジウムであった.
縄文と弥生とを比較した時有意差のあった元素はカドミウム,マグネシウム,ニッケル(弥生が高値)と燐(弥生が低値)であった.
因子分析によって抽出された4因子(第1因子は土壌の因子,第2因子は骨無機成分の因子,第3因子は銅とバナジウムに関連する因子,第4因子はナトリウムとマグネシウムに関連する因子)によって,総変動の約90%が説明され,第1因子のみで約43%,第1,第2両因子により66%が説明された.この結果から,古人骨の元素組成の変動を考える場合,土壌による汚染と骨の本来の成分であるカルシウムと燐の変化の2つに注目すべきことが示唆された.また,洞穴からえられた骨とそれ以外(貝塚,砂丘等)の骨とを比較すると後者は土壌による汚染が大きく,前者は水が骨を洗うことによって生じた変化に注目すべきことが示された.
なお,骨格を構成する骨の中では手基節骨に土壌による汚染が少なかった.

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