抄録
本稿の目的は,縄文時代の遺跡における実際の住居の数を復元することである.縄文時代の遺跡では,通常,複数の竪穴住居址が発見されるが,現在の自然科学的な年代測定方式等をもってしても,同時に存在した住居の数を推定することは困難である.一方,縄文時代の考古学では,非常に精緻な土器の分類学的編年研究が行われている.分類の最小単位は,土器の細分型式であり,これに基づいて設定された細分型式期は,現時点で使用可能な最小の時間単位である.この研究の成果を用いて,遺跡を構成する複数の竪穴住居址を,各細分型式期にグルーピングする.もし,この基準でグルーピングされた住居址は同時に存在していたと仮定するならば,各細分型式期における住居の数を推定することができる.このような研究は,縄文時代における居住形態や集落人口などの人類学的な問題を考えるための基礎的な資料となる.ここでは,関東地方の一都三県(東京•神奈川•埼玉•群馬)に分布する,縄文時代前期後半諸磯式期(約5000年前)の遺跡を対象として,同時に存在したと考えられる住居の数の推定を試みた.