抄録
アリゾナ州立大学人類学教室に保存されているアフリカの3人種の歯列弓石膏模型から得られた上顎第1大臼歯についてモアレ法による立位計測を行った.材料は1960年代に南アフリカで採得されたもので,Bushman(San,30個体,性別不明), Bantu(Sotho,男性14,女性16), Asiatic Indian(コーカソイド系,男性18,女性15)である.上顎第1大臼歯は咬耗のほとんどない若年個体からのみ印象をとり,3咬頭頂平面を基準とし,ピッチ0.2mm のモアレ撮影を行った.得られた写真上に11の計測点を求め,点間の距離や咬頭の高さを計測した.
Bushman の歯は咬頭頂間距離が今回のサンプルの中では最も小さく,また咬頭も低い.一方, Bantu は咬頭頂間距離,咬頭の高さともに Bushman を上まわる. Asiatic Indian は人種的に前二人種との関連はうすいが,計測値からみると Bantu よりも咬頭頂間距離は小さく,咬頭は高い.この小咬合面,高咬頭の傾向はすでに調べられたオランダ白人にも見られたことから,コーカソイド系共通の特徴であると思われる.Bantu と Asiatic Indian について調べられた性差は咬頭頂間距離に見られたものの,咬頭の高さには見られなかった.