人類學雜誌
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頭骨の観察項目からみたアイヌと日本人ならびにその祖先と近隣集団
Alexander KOZINTSEV
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1990 年 98 巻 3 号 p. 247-267

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抄録

筆者は日本学術振興会の招きで,1989年の3月から5月まで,日本国内の大学と博物館で骨人類学的研究を行なう機会に恵まれた.調査資料は,札幌医科大学,九州大学医学部,京都大学理学部,東京大学総合研究資料館および国立科学博物館に保管されている.東日本および西日本の縄文人,土井ヶ浜を中心とした西日本の渡来系弥生人,西日本古墳人,西日本現代人,東京在住の江戸ならびに現代人,南西諸島人,北海道アイヌ,サハリンアイヌおよび宗谷大岬出土のオホーック文化人の頭骨標本である.
9項目の頭骨非計測的形質を調査したが,そのうち,日本の諸集団の系統関係を明らかにするのに特に有効な項目は,横頬骨縫合痕跡(TZST),眼窩下縫合第2型(IOP II)および眼窩上孔(SOF)の3項目であった.これら3項目の高い集団間相関を考慮すると,日本列島の諸集団は二つの要素一縄文的要素とモンゴロイド的要素-の混合の度合いによって特徴づけられていることが強く示唆された.
そこで,この3項目の非計測的形質の出現頻度に基づいて,各集団に対してモンゴロイド•縄文示数(MJI)を算出したが,その結果から次のような事が明らかになった.
1.西日本縄文人→東日本縄文人→北海道アイヌ→サハリンアイヌ→南西諸島人→弥生人→古墳人→西日本現代人→東京現代人の順にモンゴロイド的要素が増大する.
2.弥生時代以降の日本人のモンゴロイド的要素は現代中国人のそれにきわめて近い.
3.モンゴロイド的要素の流入は弥生時代に突然に始まるが,それは明らかに大陸からの大量の渡来に起因する.
4.弥生時代以降現代までのモンゴロイド的要素の増加は僅かである.
5.現代日本人には明らかに縄文的要素の痕跡が認められ,しかもそれは西日本現代人により明瞭である.
6.北海道のオホーツク文化人は,ある特徴ではアムール河流域のツングース•満州系と近いが,別な特徴ではアイヌに類似する.

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