人類學雜誌
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日本人における赤血球酵素 SAHH の変異の欠如
針原 伸二大坪 燈中村 貴子原田 勝二三澤 章吾
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1990 年 98 巻 3 号 p. 353-357

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抄録

山形県,茨城県,東京都および山口県在住の日本人,計640名の,赤血球酵素 S-adenosy1 L-homocysteine hydrolase(SAHH)の変異の検索を行なった.この赤血球酵素は,ヨーロッパ白人のいくつかの集団では,澱粉ゲル電気泳動のパターンの差異として観察される多型がみられることが報告されている.しかしながら,今回の研究では,日本人全個人の SAHH のタイピングは1となり,1例の差異も見い出されなかった.この結果は,日本人における多型を報告した AKIYAMA et al.(1984)の報告とは矛盾する.実験における SAHH の型判定の妥当性を検証するため,茨城県つくば市在住の白人21名と米国オルソ社製のパネル赤血球10検体分の SAHH の型判定を同様に行なった.その結果,白人集団に2名の3-1型がみられたほか,パネル赤血球にも1検体に2-1型黍みられ,変異型を検出できることから,判定法は妥当なものと考えられた.AKIYAMA etal.(1984)の判定が誤っていたとすると,それは SAHH の保存効果により電気泳動パターンが変化したことによるものと思われる.

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