木質細胞壁や甲殻類外骨格などに見出されるセルロースやキチンは構造多糖であり,食料生産と競合しないバイオマス資源である.しかし,高結晶性繊維のため,水や一般的な有機溶媒に難溶で加工性に乏しい問題がある.こうした構造多糖のバイオプラスチック製造技術やバイオ燃料変換技術などは研究・実証段階であり,ミクロレベルの基礎的知見の不足が技術開発上のボトルネックとなっており,分子シミュレーションによる理論的解析が期待されている.新規な優れた溶媒を開発するために,セルロース・キチン溶解シミュレーションを実施し,結晶構造における分子間水素結合の切断に伴う分子鎖剥離に伴う溶解機構を提案した.さらに,溶解度予測に基づく溶媒探索を目指したスクリーニングとして,機械学習を組み合わせたマテリアルズインフォマティクスを試みた.セルロースやキチンが生体由来であることから,自然界にはこれらの構造多糖を基質とする様々なタンパク質が存在する.酵素反応を伴わない糖鎖認識のみの機能を持つ糖結合性タンパク質の場合,糖鎖との複合体の立体構造と糖結合性タンパク質の機能を直観的に関連づけることは容易でない.そこで,複合体立体構造に分子シミュレーション解析を適用し結合界面におけるダイナミクスや相互作用等を評価することで,複合体構造の多面的な理解が可能となり糖結合性タンパク質の機能を解明する手がかりが得られる.本記事では,セルロース生合成機構において結晶性繊維形成に関わるとされるセルロース合成酵素サブユニットD,およびキチン細胞壁に特異的に結合し植物の防御機能に関与するとされるヘベインを対象とした分子シミュレーション研究について報告する.