応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌
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巻頭言
総説―応用糖質科学シンポジウム―
  • 元内 省, 今場 司朗, 小林 海渡, 中井 博之, 中島 将博
    2025 年15 巻2 号 p. 70-78
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    Osmoregulated periplasmic glucans(OPG)は,プロテオバクテリア門を中心に様々な微生物が生物間相互作用に関わる因子としてペリプラズムや細胞外に合成する糖鎖である.これらの多くはβ-1,2-グルカンを共通の主鎖とする一方でその詳細な構造は多様性に富んでおり,その合成に関わる酵素群の多くは未同定であった.本総説ではOPGの合成酵素ファミリーとして筆者らが発見したGH186のうち,ユニークな反応経路が提唱された反転型エンドβ-1,2-グルカナーゼであるEcOpgD(大腸菌由来GH186)と,反転型transglycosylaseであるXccOpgD(Xanthomonas campestris pv. campestris由来GH186)に関して機能と構造の両面で紹介する.特にGHにおいて極めて稀な反転型transglycosylaseがどのような経緯で見つかったのかを紹介し,また,なぜその反応が可能であるのかについて反転型β-1,2-グルカナーゼであるGH162との比較も踏まえて考察する.

  • 田辺 賢一, 谷 佑馬, 横山 明幸, 岸本 由香, 中村 禎子
    2025 年15 巻2 号 p. 79-85
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    わが国における糖質科学分野の技術力は高く,新規糖質の開発が盛んである.これらの新規糖質は生体内で各々特徴的な代謝経路を有しており,その特性を活用して実用化されている.新規糖質の中には,経口摂取後,消化管腔内において生体由来の糖質消化酵素によって消化されにくい,かつ/または,吸収されにくい特徴を有する難消化吸収性糖質がある.その代謝的特徴から難消化吸収性糖質は,低エネルギーの甘味料(難吸収性単糖や糖アルコールなど)あるいは,澱粉の代替(食物繊維)として加工食品に利用されている.難消化吸収性糖質を食品素材として商品・実用化する際の食品表示上の課題として,熱量算出時のエネルギー換算係数および分類がある.本稿では,難消化吸収性糖質のエネルギー換算係数の評価方法および運用に関する(一社)日本食物繊維学会の取り組みに関して簡単に紹介する.また,海外における難消化吸収性糖質の食品表示ならびに製品開発における難消化吸収性糖質の利用について紹介し,我が国の難消化吸収性糖質・糖類の食品表示上の分類に関する課題を共有する.

  • 近藤 修啓, 山川 早紀, 郡上 彰, 片野 貴章, 加藤 光
    2025 年15 巻2 号 p. 86-91
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    現代社会では,腸内フローラや口腔フローラのバランスが全身の健康に密接に関わることが注目されている.不均衡は消化器疾患や免疫異常,全身性疾患に関連するとされ,その改善が重要な課題となっている.当社ではこの課題に対応するため,オリゴ糖素材を製造販売しており,本総説では腸内フローラケア素材「Kestose」と口腔フローラケア素材「CIデキストラン」を紹介する.Kestoseはビフィズス菌や酪酸産生菌に利用され,大腸で酪酸を生成し,抗炎症作用や糖代謝改善に寄与する.特にアトピー性皮膚炎の犬における試験では,皮膚炎の症状スコアが改善し,ステロイド使用量の減少が確認された.これにより,ペットと飼い主の生活の質向上に貢献する.CIデキストランは歯垢形成を抑制し,虫歯菌や歯周病菌の増殖を防ぐ効果がある.sucroseが存在する環境でも有効で,従来のオーラルケア素材と差別化されている.臨床試験では,CI配合タブレットの摂取により歯面のプラーク形成が有意に抑制されることが確認されている.これらの素材を活用し,新たな健康ケアの可能性を提案する.

  • 藤田 清貴
    2025 年15 巻2 号 p. 92-98
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    カラメル化糖とは,フルクトース(Fru)の加熱に伴う脱水縮合により生じる五員環構造のfructofuranose(Fruf)や六員環構造のfructopyranose(Frup)をもつ二糖及び,さらに脱水縮合して生じるdi-fructose dianhydride(DFA)やdi-heterolevulosan(DHL)等のジアンヒドロ糖である.植物の貯蔵多糖であるイヌリンやレバンがβ結合のFrufに限定されるのに対し,カラメル化糖はFrufとFrupがαもしくはβ結合にて様々な結合位置で重合した多様な異性体の混合物である.我々は,主要なカラメル化糖であるDFA I(α-Fruf-1,2′:2,1′-β-Fruf)及び,DFA III(α-Fruf-1,2′:2,3′-β-Fruf)の腸内細菌が持つ分解酵素の同定と分解代謝経路の解明に成功した.本総説では,ビフィズス菌由来の糖質加水分解酵素(GH)ファミリー172(GH172)に分類されるDFA I分解酵素と,Blautia属細菌由来のGH91 DFA III分解酵素の機能解析から見えてきた腸内細菌によるカラメル化糖の資化戦略を紹介する.

  • 澄田 智美
    2025 年15 巻2 号 p. 99-107
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    β-N-アセチルガラクトサミン(β-GalNAc)含有糖鎖は複合糖質として生物に普遍的に存在し,多様な生命現象の一端を担っている.β-GalNAcを特異的に認識して加水分解する酵素はβ-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(β-NGA)と呼ばれるが,我々は以前,非還元末端のβ-GalNAcのみに作用する細菌由来のエキソ型β-NGAを報告し,糖質分解酵素ファミリーGH123を設立したが,これまでの報告では,陸上土壌と宿主感染型の細菌由来のβ-NGAに限られていた.そこで本研究では,既報の酵素が発見された環境とは全く異なる,深海環境ゲノム情報とドメイン検索を用いて新規酵素の探索を行った.その結果,細菌・古細菌・真核生物のすべてに分布する4系統の新規酵素グループを同定した.すべてのグループの酵素の機能解析と立体構造解析から,既報のGH123酵素を含む5系統の酵素は,系統的にかなり離れているが,酵素の立体構造からすべての酵素はホモログ酵素であり,アミノ酸配列の変異や挿入の蓄積によって,基質特異性がオリゴ糖遊離型,オリゴ糖/単糖遊離型,単糖遊離型と多様化していることが明らかとなった.

ミニレビュー―応用糖質科学フレッシュシンポジウム―
  • 竹満 初穂, 佐古 圭弘, 北村 進一
    2025 年15 巻2 号 p. 108-114
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    連続式過熱水蒸気炊飯技術は,炊飯米の品質向上を実現する革新的技術として注目されている.本稿では,同技術がもたらす食味や品質向上のメカニズム,ならびに最新の研究成果について概説する.過熱水蒸気を用いた連続炊飯では,コメはベルトコンベア上で蒸気による均一な加熱と上部からの加水により中心まで糊化される.その結果,米粒内部の細胞構造が保持されており,澱粉粒のなかのアミロースが溶出しにくいため,炊飯米を保存しても老化しにくく,おいしさが保たれる.また,炊飯米の冷凍耐性が向上するメカニズムについても,細胞構造の保持とアミロース溶出の抑制の観点から考察した.さらに,蒸気炊飯過程における上部からの加水が,無機ヒ素を効率的に低減する効果を有することが示された.大麦への応用においては,香気化合物の分析と官能評価の結果から,蒸気炊飯により大麦特有の風味を改善できることが確認できた.これらの成果は,食品の安全性向上や官能特性の改善のみならず,フードロス削減といった社会的課題の解決にも寄与する.我々は,今後もこの技術の応用展開を推進し,さらに詳細なメカニズムの解明に取り組んでいきたいと考えている.

  • 松居 翔
    2025 年15 巻2 号 p. 115-119
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    糖質の過剰摂取は肥満を誘発し,生活習慣病の主要な危険因子となるため,その対策は喫緊の課題である.筆者は,糖の摂取を制御する臓器間シグナルとして「FGF21(fibroblast growth factor 21)-OXT(oxytocin)系」を新たに発見した.このシステムの機能不全が,肥満症患者における糖摂取量の増加と関連する可能性が示唆されている.肥満症の患者には通常,糖質制限を含む食事療法が推奨されるが,脳内FGF21の機能が低下している場合,糖の摂取後でも「満足感」を得にくいことがあると考えられる.このため,満足感を補うために糖を過剰摂取する傾向が生じ,糖質の過剰摂取と肥満の悪循環を助長する可能性がある.このメカニズムは,新しい治療法や予防策のターゲットとして注目されている.筆者は,この課題に対処するための候補物質として希少糖に着目し,その糖質欲求抑制効果や肥満予防効果を動物実験で検証した.これにより,糖質過剰摂取の悪循環を断ち切る新たな生活習慣病対策法の開発を目指している.

  • 河内 護之
    2025 年15 巻2 号 p. 120-124
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    白色腐朽菌は担子菌類に属し,木材や農産廃棄物などのリグノセルロース性の資源を培地として効率的に成長可能な特異な生物群である.その菌糸体はサステイナブルな素材として注目され,マッシュルームレザーなどの代替マテリアル産業は,欧米を中心に急速に発展し,将来の循環型社会を支えるマテリアルとして市場拡大が進んでいる.現在その開発には,用途に応じて天然からスクリーニングされた菌が利用されているが,それらでは実現できないような強度や機能性を持つマテリアルを開発するには,白色腐朽菌を育種し性質改変できるような技術開発が必要となる.菌糸マテリアルの性質には,菌糸の細胞壁構造が関係していることが報告されているが,一般的に糸状菌の細胞壁は,β-1,3/1,6-グルカン,キチン,α-1,3-グルカンといった多糖とタンパク質を主成分としており,子嚢菌を中心にその構造が解析されてきた.一方担子菌類の細胞壁は,構造・合成・制御機構の何れもほぼ研究が進んでいない.本稿では,白色腐朽菌の細胞壁多糖構造・合成・制御機構の解明及びその改変技術の確立に向けて,ヒラタケPleurotus ostrearusをモデルに実施中の取り組みを紹介する.

  • 佐々木 優紀
    2025 年15 巻2 号 p. 125-130
    発行日: 2025/05/20
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    アラビアガムは,マメ科アカシア属“セネガル種”または“セヤル種”から得られる滲出物であり,乳化剤やプレバイオティクスとして食品用途で広く利用されている.我々はこれまでの研究で,ヒト由来ビフィズス菌Bifidobacterium longum subsp. longumの一部の株が“セネガル種”アラビアガムを資化すること,またその増殖には糖質加水分解酵素(GH)ファミリー39(GH39)酵素3-O-α-D-ガラクトシル-α-L-アラビノフラノシダーゼ(GAfase)が重要であることを見出している.本酵素のホモログ検索および機能解析を行ったところ,他のビフィズス菌由来のGH39はそれぞれ異なる機能を有しており, Bifidobacterium pseudocatenulatumにおいては3-O-β-L-アラビノピラノシル-α-L-アラビノフラノシダーゼ(AAfase),またBifidobacterium catenulatumにおいてはβ-アラビノオリゴ糖遊離型AAfase(βAOS-AAfase)として機能することが明らかとなった.本総説ではこれら3種のビフィズス菌由来GH39の機能を比較するとともに,βAOS-AAfaseの発見によって解明された“セヤル種”アラビアガムの糖鎖構造とその分解機序を紹介したい.

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支部たより«定期便»―北から南まで
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