生物界においてエネルギー変換,生体防御,形態形成など重要な局面で働いているキチン質加水分解酵素について,以下の研究を行った.まず,加水分解とともに高能率に糖転移反応を触媒する卵白リゾチームにおいて,実際の反応を適正に再現しうる数理モデルを構築し,実験で得られた酵素反応の経時変化を速度論的に解析した.また,土壌細菌由来のキトサナーゼの特異性や反応機構を明らかにし,さらに,このキトサナーゼのNMR滴定実験より,三状態での基質結合モデルを提唱した.Paenibacillus sp.キトサナーゼに存在するキトサン結合モジュールのリガンド結合様式を,X線結晶構造解析,タンパク質NMR,等温滴定型熱量計によって明らかにした.一方,著者は植物GH18キチナーゼのX線結晶構造を明らかにし,糖転移反応の触媒能を発現する構造基盤を明らかにすることができた.また,植物GH19キチナーゼを用いてキチンオリゴ糖との複合体の結晶構造を得,これらの構造情報に基づいて加水分解酵素から合成酵素への変異戦略を確立した.これらの研究成果は,アミノ糖を含有する新たな有用糖質の生産を促進し,ひいてはキチン系バイオマスの利用技術に新たな展開をもたらすものと思われる.