抄録
マンモグラフィでは低エネルギーX 線で乳房を中心とした狭い範囲に対し照射するため、水晶体などの被ばくを考慮する必要がないとされている。しかし、実際には少なからず散乱線が発生しており被検者への被ばくを明確にする必要があると考えられる。また、国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection : ICRP)では計画被ばく状況における職業被ばくに対する眼の水晶体の等価線量限度を5 年間の平均で20 mSv/年、年間最大線量は50 mSv にすべきと勧告された。さらに公衆被ばくに対しては、組織における年等価線量は職業人線量限度の1/10 とされている。そのため水晶体に対する被ばく線量を明確にするために、マンモグラフィでの受診者の立ち位置及びその周辺の空間線量を測定し、受診者の各部位における被ばく線量を算出した。その結果、散乱X 線のピークは、頭尾方向(CC)撮影では乳房支持台の高さよりも10 cm 高い位置となり、内外斜位方向(MLO)撮影では乳房支持台の高さとなった。これはともに後方散乱が強く影響したと考える。また、CC 撮影およびMLO 撮影における水晶体付近の空間線量は、左右CC 撮影で72.8 μGy、 左右MLO 撮影で57.0 μGy であり、 1 回のマンモグラフィ検診による水晶体被ばくを想定した場合、線量は合計で0.13 mGy と推定される。水晶体の公衆被ばくの限度は5 mSv/年と想定されるので38.5 回のマンモグラフィ検診を受けないと公衆被ばくの線量限度を超えないため、水晶体については積極的な散乱線防護を行う必要が無いと結論付けた。