抄録
近年、医療技術の進歩によって様々なIVR(Interventional Radiology)が行われるようになった。それに伴い、術者の被ばく線量の増大が懸念されている。特にオーバーチューブ型X 線TV 装置では、術者の上半身への散乱線が多く、水晶体障害が報告されている。本研究では、オーバーチューブ型X 線TV 装置を用いた腹部領域のIVR における術者立ち位置で空間線量分布を把握することで、水晶体への被ばくについて推定することを目的とした。寝台周辺および照射野中心での高さ方向の空間線量率や、模擬患者の水平断面における空間線量率の計測を行い、術者立ち位置における空間線量率マップを作成した。その結果、照射野中心において床からの高さ120 cm の地点で最も高線量率となった。つまり、側方散乱に比べて後方散乱の影響が高いことが示された。床から130 cm 以上の高さでは110 cm 以下に比べ、線量率の低下がやや緩やかになった。空間線量率マップにおいては、術者立ち位置は照射野中心から外側50 cm 程度とし、その地点の床から160 cm 高さの線量率は約108 μGy/min であった。内視鏡的逆行性胆管膵管造影(Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography:ERCP)の透視時間を30 分とした場合、術者の水晶体への被ばくは1 検査当たり約3.2 mGy となる可能性が示唆された。白内障のしきい値は0.5 Gy 程度であるとされているため、156 回検査を行うと、しきい値を超えると可能性が考えられる。