ヒトの顎運動メカニズムの理解を深めるために, 我々はヒトに近い解剖学的構造と生理学的制御系をもつ自律顎運動シミュレータJSNを開発してきた. 我々ははじめに, 咀嚼の効率化に有効と考えられている, 1) 与えられた食片の剛性に応じた噛み分け, 2) 咬合力のフィードフォワード制御, 3) 咬合力と顎関節負荷の調節の3つをJSN/3に実装することにより, 咀嚼運動シミュレータJSN/3Xを開発した. JSN/3による咀嚼実験では, 硬い被検食片としてプラスチック製消しゴムを, 軟らかい被検食片としてスポンジ製耳栓を用いた. 咬合力条件は, 咬合相における咬筋・内側翼突筋の最大張力の非咀嚼側/咀嚼側比を0.8ないし0.4とした. 実験の結果, 食片弾性に応じた噛み分けは咀嚼効率の向上に, フィードフォワード制御は咬筋・内側翼突筋を主体とした自然で効率的な噛みしめに有効であった. さらに, 非咀嚼側の咬筋・内側翼突筋活動には, 咀嚼側の咬合力と顎関節負荷の両方を調節する機能が特に硬い食片咀嚼時に認められた.