抄録
在宅医療を始めた動機は福祉事務所の要請を受けて、昭和46年から始めた重度身体障害者訪問診査にある。訪問対象は大分県南西部11ヶ町村、総人口7万余、面積千平方キロ強、人口密度70.6人、平均老齢化率20.4%典型的な過疎と老化の地域である。福祉事務所職員2名、保健所保健婦1名、町村保健婦1名、町村職員1名のプロジェクトチームを与えられたが、医療チェックのみに止らず患者の置かれている家庭環境迄広く調査している。訪問は民生委員の情報をもとに障害度の高い冬期に行う。年次別に重複するケースも希にはあるが、一会の機会に終わる事が多いので本年度から退院患者を主体にして30km以内の訪問看護を併せて行っている。訪問診査開始当初の2年間は家庭の片隅に打ち棄てられた物言わぬ群像の余りにも悲惨な姿に自失してなす術を知らなかったが、昭和48年度から何とか写真記録を残すよう努力している。記録開始から16年間の訪問総数660例、男性305名、女性355名、最低16才、最高94才、平均年齢75才。障害原因:脳血管障害391例59.2%、骨関節疾患93例14.1%、骨折外傷68例10.3%、背髄神経筋肉障害57例8.6%、脳神経障害22例3.4%、廃用19例2.9%、腫瘍15例1.2%、その他2例、0.3%。以下当地に於ける在宅重度身体障害者訪問診査から改善が望ましい在宅ケアの諸問題を列挙する。