生物物理
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総説
電荷ブロック型液-液相分離の仕組みとリン酸化による制御
山崎 啓也吉村 成弘
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2023 年 63 巻 3 号 p. 153-156

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Abstract

タンパク質のリン酸化は,非構造領域(IDR)で高頻度に生じる.この事実は,リン酸化によるタンパク質機能制御が,従来の「立体構造特異性」のみでは説明しきれないことを示す.本稿では,IDRにおけるリン酸化が,電荷ブロックを形成・消失させることで液-液相分離を促進・抑制するという新しい仕組みを概説する.

Translated Abstract

Phosphorylation regulates protein function by altering stereospecific interaction with its substrate or partner proteins. However, recent studies demonstrated that phosphorylation preferably occurs in intrinsically disordered regions (IDRs), which do not have three-dimensional structures. Here, we describe how phosphorylation occurred in IDRs regulates the protein function. Mitotic phosphorylation in the IDRs of Ki-67 and NPM1 promotes or suppresses the liquid-liquid phase separation, respectively, by altering the “charge blockiness” along the polypeptide chain. The phosphorylation-mediated regulation of liquid-liquid phase separation by enhancing or suppressing “charge blockiness”, rather than by modulating stereospecific interaction, provides a new mechanism of protein regulation by post-translational modifications.

1.  はじめに

リン酸化をはじめとするタンパク質翻訳後修飾は,シグナル伝達や細胞周期の進行等に重要な役割を果たしている.質量分析法を用いた大規模な解析により,10,000種類を超えるヒトタンパク質において,40,000箇所以上のリン酸化部位が同定されてきた.これらは約520種類のキナーゼおよび約150種類のホスファターゼによって制御されており1),2),リン酸化部位と対応するキナーゼの同定は,生命現象の理解において極めて重要である.リン酸基は,タンパク質の立体構造変化や,それに伴うタンパク質間(もしくは酵素-基質間)の相互作用を変化させることで,その機能を制御すると考えられてきた.しかし実際には,リン酸化はタンパク質の非構造領域(Intrinsically-disordered region, IDR)でよりよく起こる.本稿では,IDRのリン酸化の意義とはたらきについて,タンパク質の液-液相分離の観点から筆者らの研究成果をもとに概説する.

2.  IDRは高い頻度でリン酸化される

翻訳されたポリペプチド鎖の多くは,折り畳まれて固有の立体構造を形成することで,特異性の高いタンパク質間相互作用や,タンパク質-小分子相互作用を生み出す.教科書では「カギ」と「カギ穴」に例えられるこの「立体構造特異性」は,タンパク質の機能を理解する上で最も重要な要素である.結晶構造解析やNMR,電子顕微鏡による単粒子解析などの立体構造解析技術の進歩とともに,タンパク質の構造-機能の関係性に関する多くの重要な知見が得られた.リン酸化はセリン,スレオニン,チロシン側鎖の水酸基にリン酸基が転移する反応であり,非修飾状態と比べて側鎖の嵩が大きくなり,負の電荷を持つようになる.これがタンパク質の内部エネルギーの変化や,分子内・分子間相互作用の変化をもたらし,立体構造特異性に影響を及ぼす.例として,アクチン結合タンパク質デマチンのカルボキシ末端ドメインへのリン酸化による構造変化や3),プロリンのシス・トランス異性化エネルギー障壁の変化が挙げられる4)

しかし,ヒトで40,000箇所以上に及ぶすべてのリン酸化が立体構造特異性に変化をもたらすのであろうか.筆者らが2020年に発表した論文では,分裂期移行に伴うリン酸化を網羅的に同定・定量解析し,約10,000箇所のリン酸化セリン/スレオニン残基のうち約6割がIDR(30残基長以上)に存在することを示した5).IDRに存在するセリン/スレオニン残基が全体の約2割であることをふまえると,これは有意に高い数字である.IDRへのリン酸化が立体構造特異性を変化させる仕組みとして,立体構造形成の可能性が考えられる.しかし,ごく短いペプチドの例6)を除けば,このような現象は報告されておらず,様々なペプチドを用いた実験や,構造シミュレーションでも支持する結果は得られていない.

3.  IDRにおけるリン酸化は液-液相分離を制御する?

IDRにおけるリン酸化の意義を探るため,IDR研究の進展に目を向けると,2013年頃から核小体やストレス顆粒等に代表される「細胞内非膜オルガネラ」の形成原理が,液-液相分離であることが次々に報告されている.生物における液-液相分離にはIDR同士やIDRと核酸の間の「弱い」相互作用が数多く存在すること(多価相互作用)が重要である.これらの「弱い」相互作用が分子の集合を生み出し,濃度の高い相と低い相の二相を出現させる.「弱い」相互作用の正体は,主に静電相互作用やカチオン-π相互作用であることから,すべてのIDRが液-液相分離を引き起こすわけではなく,その程度はアミノ酸組成や配列に依存する.

–2の負電荷を持つリン酸基は静電相互作用を大きく変化させ得ることから,液-液相分離を制御するのではないかと予想される.実際に,リン酸化が液-液相分離や細胞内非膜オルガネラの形成・崩壊を制御する例が報告されている7)-10).しかし,液-液相分離がIDRの多価相互作用により進行することをふまえると,少数の特定残基における負電荷の増加の影響は小さいように思える.ではどのような仕組みがはたらいているのであろうか.

4.  リン酸化による電荷ブロックの形成・消失が液-液相分離を制御する

筆者らは,この問いへの答えの1つとして,リン酸化による「電荷ブロック」の変化が液-液相分離を制御することを突き止めた11).CDK1/cyclin B等のキナーゼによるタンパク質リン酸化は,細胞周期がG2からM期へ移行する際の大規模な細胞内構造変化(核膜消失,染色体凝縮,動原体・紡錘糸形成など)の引き金となる.核小体は,間期では液相非膜オルガネラとして核内に存在するが,分裂期移行に伴い崩壊・離散し,構成タンパク質の多くは細胞質に拡散するか,染色体辺縁部(chromosome periphery)という新たな液相非膜オルガネラに局在する.NPM1は,間期核小体で液-液相分離する主要なタンパク質であり,分裂期キナーゼでリン酸化されることが知られていた.一方,Ki-67は,間期核小体の周囲に結合し,分裂期移行時にリン酸化され,染色体辺縁部を形成する.筆者らが行った比較定量質量分析では,NPM1で15,Ki-67では100以上の残基で分裂期特異的なリン酸化が検出された5)図1a).それらの多くはIDRに存在し,特にKi-67ではリピートドメインに集中している.in vitro液-液相分離アッセイでは,NPM1のIDRおよびKi-67のリピートドメインの液-液相分離が,CDK1によりそれぞれ抑制,促進された11)

図1

a)Ki-67とNPM1のドメイン図とリン酸化部位.分裂期リン酸化部位は紫色,脱リン酸化部位は緑色三角形で表す.b)Ki-67の12番目のリピート(R12)(上)とNPM IDR(下)の間期型(灰色)および分裂期型(赤色)の電荷プロット(ウインドウサイズ:25アミノ酸).分裂期リン酸化部位は紫色,分裂期脱リン酸化部位は緑色三角形で表す.c,d)分裂期リン酸化により電荷ブロックが形成(c),消失(d)することで液-液相分離が促進(c),抑制(d)されると考えられる.(文献11より改変).

このメカニズムを解明するにあたり,筆者らはKi-67のリピートドメインとNPM1のIDRにおける電荷分布に注目した.NPM1のIDRでは,正と負の電荷の偏りが見られる領域(電荷ブロック)が交互に並んでいる(図1b).このプロットに11箇所の分裂期リン酸化を重ねると,2つの正電荷ブロック内に集中していることが分かる.リン酸基が–2の負電荷を持つとして計算すると,分裂期リン酸化型では,2つの正の電荷ブロックが消失している.一方,Ki-67のリピートドメインの1つ(12番目のリピート(R12))に着目すると,間期型(非リン酸化型)では,正のブロックのみが見られるが,9つのリン酸化が生じる分裂期型では,前半の正電荷ブロックはそのままで,後半に負電荷ブロックが出現する.

ソフトマター物理学の分野では,荷電ポリマーにおける電荷分布と相分離との関係性に関する知見が得られていた.例えば,同数の正,負に荷電したモノマーから構成される荷電ポリマー(総電荷は0)の場合,鎖上の電荷の偏りと液-液相分離との間には正の相関が見られる12)-15).この仕組みはまだ完全には解明されていないが,電荷の偏りが小さいと隣接した位置に対電荷が存在する確率が高く,これが分子間静電相互作用を打ち消す(弱める)効果を発揮するからであろうと考えられている.この考えに基づくと,NPM1ではリン酸化により正・負交互の電荷ブロックが消失し相分離が抑制され,逆にKi-67はリン酸化により電荷ブロックが出現し相分離が促進されていると予想される(図1c, d).

筆者らはKi-67のリピートドメインとNPM1のIDRについて,[1]分裂期にリン酸化される残基をすべてグルタミン酸(E)に置き換えたリン酸化模倣変異体と,[2]電荷ブロックの分布を分裂期リン酸化型に似せた人工配列を持つ電荷ブロック模倣変異体を作製した.これらを用いてin vitro液-液相分離アッセイを行ったところ,[1][2]共に野生型と比べて,Ki-67では相分離の臨界濃度の低下が,NPM1では上昇が見られた(図2a).しかしこれだけでは総電荷が負に傾く効果による可能性を排除しきれない.そこでKi-67のリピートドメインの配列をベースにして,様々な電荷ブロックや総電荷を持つペプチドを設計し比較を行った.この結果,臨界濃度は総電荷ではなく電荷ブロックの強さに対して,負に相関することが分かった(図2b).さらに,HeLa細胞で[1][2]を発現させると,非リン酸化型変異体(リン酸化残基をアラニンに置換)と比較して,Ki-67は分裂期細胞において染色体辺縁部へ強く局在し(図2c),NPM1は間期細胞において核小体から核質へ漏れ出した(図2d).これらの結果は,IDR上の電荷の偏りと相分離との間に強い相関があることを支持する.また,[1]や[2]のタンデムリピートをリピートドメインとして持つKi-67変異型をKi-67ノックアウト細胞に発現させたところ,[1]のみならず[2]でも表現型の回復が見られ,電荷ブロックによる相分離制御がタンパク質機能に密接にリンクすることが示された.

図2

a)Ki-67のR12(左)とNPM IDR(右)の野生型,変異型の電荷プロット(ウインドウサイズ:25アミノ酸)と,in vitro液-液相分離で形成された液滴の蛍光像.BLCは電荷ブロック強度を,Csatin vitro液-液相分離の臨界濃度を表す.b )様々な電荷ブロック強度や総電荷を持つペプチドのCsatBLCに対してプロットした.c)R12の野生型,変異型を12個繋げ,EGFPとLR領域を付加したタンパク質の,分裂期HeLa細胞における局在を観察した.野生型,リン酸化模倣,電荷ブロック模倣が染色体の周囲(Hoechstシグナルの外周,染色体辺縁部)のみに強く局在するのに対して,非リン酸化型は染色体内部(Hoechstシグナルと重複)にも局在している.d)野生型または変異型mCherry-NPM1の間期HeLa細胞における局在を観察した.スケールバー:50 μm(a),10 μm(c, d).(文献11より改変).

5.  まとめと展望

「電荷ブロック」型制御の特徴と重要性は,以下にまとめられる.

①特定のアミノ酸残基のリン酸化ではなく,より巨視的な「ブロック」単位での電荷変化が重要である.

②正・負両方のブロックがIDRに存在すると相分離は促進される.一方のブロックしかない,もしくは明確なブロックが存在しない場合は相分離が生じにくい.

③ブロックの大きさは,数十アミノ酸程度が多い.従来の「立体構造特異的」なリン酸化の考え方では,リン酸化部位は立体構造上の特定の残基に生じることが重要であり,多くの重要なリン酸化部位は種間での保存性が高い.これに対して,「電荷ブロック」制御では,残基レベルでの特異性ではなく,数十アミノ酸程度の「巨視的」な領域の総電荷が重要であり,従来の考え方とはまったく異なる.

そもそもIDRは立体構造をとる領域と比べてアミノ酸保存性が低く,リン酸化部位の保存性も低い.ヒトとアフリカツメガエルのNPM1を比較すると,構造領域と比較してIDRの同一性は低く,アフリカツメガエルでもアミノ酸残基が保存されている(セリンとスレオニンの置換は保存されているとみなす)リン酸化部位は,11個中6つだけである.(図3a).それに対して,電荷ブロックは種間で保存されており,この型の制御の重要性が窺える(図3b).ヒトプロテオーム内のIDRの電荷分布を解析すると,NPM1,Ki-67以外にも多くのタンパク質でリン酸化による電荷ブロック制御を見出すことができる11).これらのタンパク質の液-液相分離が実際にそのような制御を受けているかは,今後の研究成果を待たねばならない.また②に関しては,単成分系の相分離における特性であるが,多成分系での相分離における電荷ブロックの役割は,非常に興味深いテーマである.現時点では,多成分系相分離に関する研究は大きく遅れているため,今後の研究展開を期待したい.

図3

a)ヒトとアフリカツメガエルのNPM1のアミノ酸配列アラインメント.ヒトIDRをオレンジ色,ヒト分裂期リン酸化残基を三角形で表す.b)ヒトとアフリカツメガエルのNPM1の電荷プロット(ウインドウサイズ:25アミノ酸).IDRを赤線で囲んだ.

リン酸化以外の翻訳後修飾も液-液相分離を制御しうることから16),17),電荷の変化を伴う他の翻訳後修飾でも電荷ブロックの原理がはたらいている可能性が高い.リン酸化のみならず,アセチル化やメチル化もIDRに生じやすく,かつ群がる傾向がある18).アセチル化は,リジンおよびアルギニン残基の正電荷(+1)を消失させる.一方メチル化は,リジンとアルギニン残基の正電荷は消失させないが,メチル基という疎水性官能基により,アミノ基の正電荷をマスク(シールド)すると考えられている.よって,アセチル化と同様,メチル化による正電荷ブロックの消失が液-液相分離を制御している可能性も十分に検討に値する.現時点ではこれらの事実を示す実験結果は得られておらず,今後の研究の進展が期待される.

文献
Biographies

山崎啓也(やまざき ひろや)

東京大学大学院理学系研究科・助教

吉村成弘(よしむら しげひろ)

京都大学大学院生命科学研究科・准教授

 
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