2023 年 63 巻 3 号 p. 173-174
概日リズムはアロステリーに基づくタンパク質の機能制御によって支えられている.時計タンパク質KaiCでは,ATP加水分解とリン酸化/脱リン酸化を担う2つのドメインがアロステリックに相互制御しており,概日リズムの自律的に振動する性質,周期・活性が温度に依存しない性質,分子間で同調する性質が実現されている.

シアノバクテリアの概日リズムは,3種の時計タンパク質KaiA,KaiB,KaiCとアデノシン3リン酸(ATP)を混合することで,試験管内に再構成できる1)(図1a).これら3種の時計タンパク質のサイクリックな離合集散を指揮しているのが,2種類の触媒活性を組み合わせて機能するKaiCである.

シアノバクテリアの概日リズムを生み出すKaiCのアロステリー.(a)地球の自転周期を内包した時計タンパク質システム(b)自律振動性を支えるC1-C2アロステリー(c)温度補償性欠損変異体のスクリーニング(d)C1-C2アロステリーを介したKaiAの活性化作用と自己触媒的な複合体解離.
六量体KaiCのN末端側(C1)ドメインでは,ATP加水分解反応が進行し,その反応速度がリズムの周期を決定している(C1-ATPaseサイクル).C末端側(C2)ドメインでは,S431とT432という2つのアミノ酸残基の(脱)リン酸化による4種の生化学的状態を経る反応が進行し(ST→SpT→pSpT→pST→ST,S = S431,T = T432,p=リン酸化),これがKaiCの動作をリズミックにしている(C2-リン酸化サイクル).活性部位が4 nm離れているにもかかわらず,2つのドメインは相互に活性制御しており(C1-C2アロステリー),どちらか一方でも失活すると,概日リズムは消失する.
この試験管の概日リズムは,①自律的に発振し,②その周期は温度にほとんど依存せず,③同調能を備えている.どのようにしてKaiCは,C1-C2アロステリーを生み出し,その構造変化をこれら概日リズム3要素へと変換しているのだろうか.
C1-C2アロステリー機構を解明するため,KaiCのX線結晶構造解析を行い,C2-リン酸化サイクル全体を可視化した.SPrin-8で解析した2.2-3.1 Å分解能の13種のKaiC六量体モデル2)-4)を詳細に比較検討し,以下の知見を得た(図1b).
はじめて明らかになったC2-リン酸化サイクルのメカニズムは意外なものであった.生化学的に同定される4種の状態(ST, SpT, pSpT, pST)が,たった2種の構造(ヘリックス構造,ほどけた構造)に分類されてしまったのだ.C2-リン酸化サイクルは,S431のリン酸化状態によって生じる側鎖体積の変化と水素結合の切り替えによって制御されるスイッチ機構であった(Phospho Switch, C2-PSw)2).このダイナミックな二次構造転移が溶液相でのリズム発振中に起こっていることは,プローブとして挿入したTrp残基の蛍光強度変化の観察によって裏付けられた4).
C1-ATPaseサイクルは,C1-C2界面の水素結合の切り替えを通じて,C2-PSwと連携していた.C1ではプロトマー界面でドメイン全体が上下にズレて(C1-ドメインスライド),これがC2-PSwと連動していた2).C1-ATPaseサイクルの正体は,生成物であるアデノシン2リン酸(ADP)とATPの交換や求核性水分子の再配置など,活性部位の局所構造変化と連関するドメイン全体の運動であった3).
KaiCの自律振動性は,C1-ドメインスライドとC2-PSwという密に連携した2つの運動によって生み出されていた.この発見は,KaiCがS431の(脱)リン酸化のみに依存し,T432の状態変化は振動性には本質的にかかわっていないことを示唆している.実際,T432をValに変異しても(KaiC-SV),振動性は損なわれなかった2).時計タンパク質に存在する複数のリン酸化部位は等価な役割を有しているわけではなく,分子全体のアロステリーに対してそれぞれ異なる寄与を持っているのであろうと考えらえる.
KaiA,KaiB共存下で試験管内に再構成されるC2-リン酸化サイクルの周期は,25-45°Cでほとんど一定に保たれている(Q10 = 1.0,Q10は10°C上昇時の反応速度比,一般的な化学反応は2-3).これはKaiC単独のATP加水分解活性が一定であることに由来すると考えられている(Q10 = 0.9).この温度補償性と呼ばれる特異な性質も,2つのドメインの適切な配置・連携によって成り立っていることが分かった5).
C1-C2接触界面に影響を及ぼすアミノ酸変異を導入すると,KaiCのQ10は温度に対して加速的(Q10 = 1.7)もしくは減速的(Q10 = 0.5)になったのである(図1c).J-PARCで測定した中性子準弾性散乱は,これらの変異が原子ダイナミクスに影響を与えたというよりは,C1-C2全体にまたがる分子ダイナミクスに変調を及ぼしたことを示している.
夜間に形成されたKaiA-KaiB-KaiC三者複合体は,夜明けに自律的に解離する.しかし解離速度が極端に遅い安定な複合体6)が,どのように一斉に離散するのかは理解されていなかった.実は,この分子間同調にかかわる過程にも,C1-C2アロステリーが関与していたのである.
生化学実験により,三者複合体から脱離したわずかなKaiAがC2尾部に引き起こした構造変化が伝播し,最終的にC1が活性化されることが分かった(図1d).C1-ドメインスライドによってKaiA,KaiBの脱離が促進され,遊離のKaiA濃度が加速度的に上昇する(遊離KaiAが結合KaiAを解離させる).すなわち先ほどまで安定だった複合体が一挙に解離することになる.これは振動現象によくみられる自己触媒反応であり,C1-C2連携が鍵となっていた3).
これまでみてきたように,KaiCは活性部位における原子レベルの化学反応を二次・三次・四次構造の運動へと統合的に変換し,概日リズム3要素(自律振動性,温度補償性,同調性)を実現していることが分かった.こうした階層をまたぐ系に対しては,原子,分子,複合体スケールをシームレスに捉えるため,生物物理学の種々の手法を多彩に組み合わせることが必要であると実感している.
分子科学研究所の秋山修志教授の研究室において向山厚助教らと共に実施しました.文献2)-6)にありますように,多くの専門家のみなさまとの共同研究です.またSPring-8,J-PARCなど実験施設の方々にもお世話になりました.お礼を申し上げます.