生物物理
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植物特有の膜脂質が駆動する葉緑体形成
吉原 晶子小林 康一
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2024 年 64 巻 6 号 p. 313-316

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Abstract

植物のもやしが緑化するとき,子葉細胞内ではエチオプラストという色素体から葉緑体への分化が起こり,その際,エチオプラスト内部の格子膜構造が層状のチラコイド膜へと劇的に変化する.これらの色素体の内部膜を構成する,3種の糖脂質と1種のリン脂質からなる植物特有の脂質組成の重要性を明らかにしたので紹介する.

1.  チラコイド膜の特殊な脂質組成

全ての生物において,生体膜は境界面や化学反応の場として不可欠である.多くの生物ではリン脂質が生体膜の主要な脂質成分であり,植物細胞の大半の膜においても同様であるが,植物独自のオルガネラである色素体は例外であり,糖脂質であるmonogalactosyldiacylglycerol(MGDG),digalactosyldiacylglycerol(DGDG),sulfoquinovosyldiacylglycerol(SQDG)が,色素体の膜脂質の多くを占める.光合成を担う葉緑体も色素体の一種であるが,葉緑体の内部に発達するチラコイド膜では,これらの糖脂質が全膜脂質の約9割に及ぶ(図11).このような脂質組成は他に類を見ないが,唯一,シアノバクテリアは,葉緑体とよく似た脂質組成を示す.シアノバクテリアもチラコイド膜で酸素発生型の光合成を行うことから,糖脂質の獲得とチラコイド膜の起源との関連性が想起される.リン脂質ではなく,光合成により合成できる糖脂質をチラコイド膜に用い,貴重な栄養素であるリンを節約するという点では,合理的な脂質組成である.その点からすると,チラコイド膜の脂質は全て糖脂質で構成されてもよさそうだが,実際には,シアノバクテリアでも葉緑体でも,リン脂質が10%程度含まれる.興味深いことに,チラコイド膜の主要なリン脂質は,他の真核生物の生体膜ではあまり見ないphosphatidylglycerol(PG)であり,PGの欠損は,植物とシアノバクテリアのどちらにおいても,致死的である.つまりPGは,酸素発生型の光合成を行う生物にとって必要不可欠な脂質となっている.

図1

チラコイド膜とプロラメラボディの脂質組成.文献2を参照し,主要な4種類の脂質のみを表示した.イラストは,MGDGがコーン型構造のノンラメラ脂質であるのに対し,DGDG,SQDG,PGはシリンダー型構造のラメラ脂質であることを示す.

近年,MGDG,DGDG,SQDG,PGがチラコイド膜の形成や光合成においてそれぞれ異なる役割を担うことが見出され,チラコイド膜の特殊な脂質組成の重要性が明らかとなってきた1)-3).一方,植物では,これらの脂質は葉緑体以外の色素体でも主要な脂質成分であるが,その役割はほとんど分かっていなかった.植物細胞の機能に応じて自在に形態や機能を変える色素体において,膜脂質が担う役割を解明するために,著者らは葉緑体の前駆体であるエチオプラストに着目し研究を行った.本稿では,その最新の知見を紹介する4)-8)

2.  葉緑体の前駆体であるエチオプラスト

地中などの暗所で発芽した被子植物は,長く伸びた胚軸の先端に黄色の子葉をつけた黄化芽生え(もやし)の状態になる(図2).黄色の子葉の細胞には,葉緑体のかわりにエチオプラストが発達する.エチオプラスト内部には,脂質二重層を土台とした格子膜構造(プロラメラボディ)が構築され,クロロフィルの前駆体であるプロトクロロフィリドと,プロトクロロフィリドを光依存的に還元するlight-dependent NADPH: protochlorophyllide oxidoreductase(LPOR)がそこに蓄積する2).暗闇ではLPORは活性をもたないが,黄化芽生えに光が当たると,プロトクロロフィリドはLPORによりクロロフィリドに変換され,さらに別の酵素によりクロロフィルへと代謝される.その後,LPORの分解と光合成膜タンパク質やクロロフィルの蓄積が進むことで,格子状のプロラメラボディは層状のチラコイド膜へと形を変え,エチオプラストは葉緑体になる.こうして黄色だった子葉は緑化し,光合成を開始する.

図2

もやしが緑化する際の葉緑体分化過程.

LPOR量の増減によりプロラメラボディのサイズも増減するため,プロラメラボディの形成にLPORが必要であることが示されていた.一方で,その際の脂質の役割は長らく不明であった.そこで,著者らは,シロイヌナズナの脂質合成変異体などを用い,エチオプラストの形成とそこからの葉緑体への分化における,各脂質クラスの役割の解明に取り組んできた4)-8)

3.  ガラクト脂質(MGDG, DGDG)の役割

極性頭部にガラクトースを1分子もつMGDGと2分子もつDGDGは,それぞれプロラメラボディの全膜脂質の約50%と30%を占める(図1).DGDGがラメラ脂質であるのに対し,極性頭部が小さいMGDGは,単独で脂質二重層を作れない非ラメラ脂質である.MGDGとDGDGの量比がチラコイド膜特有の構造に重要であることが示唆されていたが,プロラメラボディにおいてどうなのかは,分かっていなかった.著者らは,シロイヌナズナのMGDG合成酵素遺伝子の発現抑制株(amiR-MGD1)の解析から,MGDGの量が35%減少し(表1),MGDG/DGDG比が1に近づいても,プロラメラボディの格子構造やエチオプラストの形態には大きな影響がないことを明らかにした(図34).一方,DGDGの量が約80%減少し,MGDG/DGDG比が8程度にまで上昇したDGDG合成酵素遺伝子の変異体(dgd1)では,プロラメラボディの格子構造が乱れ,不規則になっていた5).この構造の乱れは,非ラメラ脂質であるMGDGの割合が極端に高くなることでLPORと脂質膜との相互作用に異変が生じることが要因と考えられる.

表1

シロイヌナズナ脂質合成変異株

変異株 脂質表現型
amiR-MGD1 MGDG含量の約35%の減少
dgd1 DGDG含量の約80%の減少
sqd1 SQDGの完全欠損
pgp1-1 色素体PG合成活性の約80%の減少
sqd1 pgp1-1 SQDGの完全欠損および色素体PG合成活性の約80%の減少
図3

シロイヌナズナ各株の黄化子葉におけるエチオプラストの形態.文献458より抜粋.バーは500 nm.白枠で囲んだ範囲(250 nm四方)のプロラメラボディの膜構造をトレースしたものを,各画像内に示す.

ガラクト脂質の量比の変化は,光照射後のプロラメラボディからチラコイド膜への変換にも大きな影響を与えた.シロイヌナズナ野生株の黄化芽生えでは,光照射後1時間でプロラメラボディの格子構造が解け,4時間後には扁平な膜構造(チラコイド膜前駆体)に変換されるが,dgd1変異体では,光照射10時間後でも,プロラメラボディの残存物と考えられる膜の凝集体が観察され,チラコイド膜の形成も遅かった6)dgd1で観察されたこのような凝集体は,光照射によりLPORが分解された後,極端に高い割合を占める非ラメラ脂質のMGDGがラメラ構造の形成を阻害した結果として生じた可能性がある.一方,MGDG合成が阻害されたamiR-MGD1では,プロラメラボディの格子構造は,光照射により扁平なチラコイド膜前駆体へと速やかに変換された.amiR-MGD1ではラメラ脂質であるDGDGの割合が高いため,ラメラの形成に大きな影響がなかったと考えられる.しかし,amiR-MGD1では,その後のチラコイド膜の発達が強く阻害された.この株では,チラコイド膜の形成に必要な光合成関連遺伝子群の発現が抑制されており6),7),それが原因の一つとして挙げられる.光合成関連遺伝子群の発現抑制は,MGDGの減少だけでなく,DGDGやPGの減少でも引き起こされるため,チラコイド膜脂質が全般的に関わる現象であるが,そのメカニズムはよく分かっていない.

ガラクト脂質の合成阻害は,クロロフィル合成経路にも強く影響する4),5).黄化芽生えでMGDGやDGDGの合成量が低下すると,プロトクロロフィリドの合成量も低下するが,その原因として,プロトクロロフィリドを作るための複数の反応段階が阻害されることが分かった.この阻害は,光照射後の葉緑体形成過程でも見られた7).阻害されたのは膜で起こる反応であったことから,それらの反応を担う酵素の局在や活性が,脂質二重層の量的・質的変化の影響を受けた可能性が考えられる.

4.  酸性脂質(SQDG, PG)の役割

ガラクト脂質が大半を占めるチラコイド膜において,SQDGとPGの占める割合はともに10%程度である(図1).これらはそれぞれ糖脂質とリン脂質であるが,どちらも極性頭部に負電荷をもち,酸性脂質に分類される.シアノバクテリアでも葉緑体でも,チラコイド膜のPGの30%以上は光化学系の内部に存在する3).一方,SQDGの大半は脂質二重層に存在すると見積もられている.SQDGの減少はPGで相補できるが,PGの減少はSQDGでは十分に相補できない1).これは,光化学系などにおいてPGが独自の機能をもつためであると考えられる.おそらくSQDGは,PGの脂質二重層における機能は相補できるが,光化学系における機能は相補できないのだろう.

光合成におけるPGやSQDGの重要性は盛んに研究されてきた一方,チラコイド膜をもたない非光合成色素体におけるこれら酸性脂質の役割は不明であった.著者らは,シロイヌナズナの変異体解析から,PGとSQDGの合成が共に損なわれると,葉の成長だけでなく,根の伸長や胚の発達も阻害されることを明らかにした9).このことは,PGとSQDGが,白色体などのチラコイド膜をもたない色素体の機能にも重要である可能性を示している.さらに最近,著者らは,黄化芽生えで発達するエチオプラストにおいて,酸性脂質が非常に重要な役割を担うことを突き止めた8)

エチオプラストのプロラメラボディにおけるPGとSQDGの割合は,葉緑体のチラコイド膜と同様,それぞれ10%程度である2).ただし,エチオプラストには光化学系がないため,これらの脂質は主に脂質二重層に局在すると思われる.色素体のPG合成活性が80%減少したpgp1-1変異体では(表1),プロラメラボディの格子構造が緩み(図3),プロトクロロフィリドの合成量も低下することが分かった8).さらに,プロトクロロフィリド量の低下は主に,Mg2+をプロトポルフィリンIXに挿入する反応の阻害によることが示唆された.pgp1-1では,PGの総量はほとんど減少しなかったことから,局所的なPG合成の低下が,プロラメラボディの構造やプロトクロロフィリドの合成に大きく影響したと考えられる.PGがエチオプラストにおいて特異的な役割を担うことを示唆する結果である.一方,SQDGの合成を完全に失ったsqd1変異体のエチオプラストは野生株とほぼ同じであり,SQDGにはPGのような必須の働きはないことが分かった8).ただし,pgp1-1sqd1の二重変異体では,プロラメラボディの構造異常やプロトクロロフィリドの合成阻害がpgp1-1よりも強くなったことから,SQDGはエチオプラストにおいても,PGの機能を部分的に相補すると考えられる.LPORの複合体形成や多量体化における脂質分子の重要性が示唆されており10),酸性脂質とLPORとの特異的な相互作用がプロラメラボディの構造形成に重要である可能性が極めて高い.プロトポルフィリンIXへのMg2+の挿入反応にPGやSQDGがどのように関わるのかについては,現在究明中である.

5.  終わりに

プロラメラボディの脂質組成はチラコイド膜とよく似ており,エチオプラストが葉緑体へと分化する際には,プロラメラボディの脂質がそのままチラコイド膜の構築に使われると考えられる.一方,著者らの研究から,エチオプラストの各脂質はチラコイド膜の材料としてただ蓄積するのではなく,機能的にも重要であることが明らかとなった.プロラメラボディの形成においても,プロトクロロフィリドの合成においても,脂質とタンパク質との相互作用が鍵を握ると考えており,今後さらに研究を進めていく予定である.

文献
Biographies

吉原晶子(よしはら あきこ)

大阪公立大学大学院理学研究科生物学専攻博士後期課程

小林康一(こばやし こういち)

大阪公立大学国際基幹教育機構准教授

 
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