データ駆動型解析により,タンパク質のダイナミクスと進化に共通する特徴の物理的起源が明らかになり,頑健性と可塑性のトレードオフが示された.さらに,AlphaFoldによって予測されたタンパク質構造データベースを基に,タンパク質進化の統計的傾向を分析し,進化的次元削減を実証し,生物学的複雑性の普遍的法則を強調した.
データサイエンスは「分子古生物学」に応用できる.分子系統樹から推定した遺伝子の配列から祖先型タンパク質を再現し,様々な実験により物性を解明することが可能である.本総説では,この方法をクジラやアザラシなど海洋再進出した動物種のミオグロビンの潜水適応メカニズムの解析に応用した例を解説する.
主としてテラヘルツ分光法を用いてタンパク質の水和状態を調べることで,タンパク質から「弱く影響を受けた水」が折り畳み構造の安定化に深く関わることを明らかにしてきた.有機低分子(オスモライト)を添加すると水の状態が変化し,それが間接的にタンパク質の安定性を変化させることもわかってきた.
細胞や組織の電子顕微鏡(電顕)画像から目的構造を抽出するには多大な労力を要する.本稿では筆者らが開発した対話型深層学習法による超高効率な電顕画像解析手法を紹介し,本手法によるミトコンドリア内膜クリステ構造の3次元再構築結果や,ミトコンドリア内膜局在OPA1欠損細胞における表現系の解析結果を解説する.
悪性のがん細胞の多くは,集団運動することによって浸潤や転移を効率よく起こす.しかし,がん細胞の集団運動を制御するメカニズムには未だ不明な点が多い.本トピックスでは,私たちの研究グループが近年解明したN-カドヘリンのエンドサイトーシスを介したがん細胞集団の運動制御機構を紹介する.
従来の抗体最適化設計においては煩雑な実験による検証が課題だった.我々は,ブレビバチルス発現系,ナノポアシーケンスおよびハイスループット解析技術を融合して,ハイスループットな相互作用解析系BreviAと熱安定性解析系Brevityを開発し,抗体の親和性・特異性・安定性の評価と最適化を効率化した.
植物のもやしが緑化するとき,子葉細胞内ではエチオプラストという色素体から葉緑体への分化が起こり,その際,エチオプラスト内部の格子膜構造が層状のチラコイド膜へと劇的に変化する.これらの色素体の内部膜を構成する,3種の糖脂質と1種のリン脂質からなる植物特有の脂質組成の重要性を明らかにしたので紹介する.
膜変形は,膜輸送を担う重要な生体システムの一つである.本トピックスでは,単純化した膜モデルから膜変形を設計し,一種類の光駆動分子を用いて膜変形,さらに膜輸送を実証した研究を紹介する.膜透過型輸送では輸送困難な巨大分子集合体であるウイルスを,小胞内部へ膜輸送し,ウイルスの生体内輸送へ展開した.
藍藻はバイオフィルム(BF)を形成し,様々な機能を発現させる.藍藻BFは藍藻と細胞外多糖などの分子で構成され,それらの分布の観察はBFの機能や形成機構の解明に繋がる.本研究では,超解像赤外分光イメージングにより,BF中の硫酸多糖と藍藻を非標識で可視化し,BFの形成機構や機能の新たな知見の獲得を目指した.