抄録
2022年8月13日に神奈川県藤沢市鵠沼海岸(北緯35度18分55秒、東経139度27分57秒)に座礁し、その後死亡した鯨類について形態調査、解剖調査、血液検査および遺伝解析、を実施した。当該個体は、体長241.2 cm、体重130.2 kgのメスで、体長に対して小さい胸鰭、短い吻、体表の模様などの形態的特徴がサラワクイルカと一致した。また、ミトコンドリア制御領域の配列がサラワクイルカのものと高い相同性(99.06 %)を示したことから、当該個体をサラワクイルカと同定した。神奈川県内でのサラワクイルカの座礁・漂着・混獲・迷入(ストランディング)は本個体が初記録となる。本種は本来熱帯域に分布するとされるが、本個体の座礁日の前後には周辺の海面水温が25 ℃を上回り、本来の分布域に相当する温度が観測された。相模湾では例年、夏季に25 ℃を超える海面水温が記録されており、高い海水温に加えてその他の環境条件がそろえば、今後も本種が神奈川県沿岸に来遊することが示唆された。今後は本種の成熟様式の解明に向けて、年齢査定と組織観察、骨学的研究が求められるとともに、ストランディング・目視発見情報を集積することで本種の分布を把握していくことが必要である。