抄録
戦後の教員養成は,「大学における教員養成」という理念の下に,「開放性」と「免許状主義」という二つの原理によって展開されてきた。「開放性」とは,師範学校における教員養成の反省にたって,教員養成を目的としない一般大学・学部に対しても教員養成を開放することを意味している。「免許状主義」とは,教員となる基礎資格を,課程認定を受けた大学における一定の単位の修得によって付与する仕組みである。この両者が基軸となって戦後の教員養成システムが形成されてきたのである。戦後の教員養成のシステムは,戦前の「師範教育」の克服という点では一定の成果を上げているものの,教育の質そのものについては,実践性を欠いているなど,世論の厳しい批判に晒されてきた。
こうした教員養成制度が抱えている課題に対して,現在,進展している改革は,開放制の原則を変更する抜本的な改革は避けながらも,教員の資質向上について,教員養成の高度化,地域レベルにおける教師教育のネットワー
ク化,教職の専門性基準の具体化を図ろうとしているように見える。つまり,教員養成の在り方の議論の一つの核は,教員養成の高度化と,その柱とされる教職大学院の質的・量的拡充にある。高度専門職業人を養成する教職大学
院は,設置以来10年を経て2017年度にはほぼ全国の都道府県に教職大学院が開設されるに至り,今まさに第二ステージを迎えようとしている。そして,第二の核が,地域における教員育成協議会の制度化である。2016(平成28)
年に教育公務員特例法が改正され,教員の資質の向上に関する指標等が任命権者,校長,大学等をもって組織される教員育成協議会によって策定されるなど,養成と採用,研修が一体化される道筋が開かれることとなったことである。また,第三の核として,教師教育の資質基準を具体化させようとする動きが教職課程コアカリキュラム,教員育成指標など,国・地方において同時に進んでおり,教職の専門性基準の在り方が議論の争点となっているということである。
本論では,我が国の教師教育の置かれた現状と課題を俯瞰しながら,上記の三つの論点を中心として未来に向けた教師教育改革の在り方についての視点を整理してみたい。