投能力の発達は,幼少期の早い段階から多様な運動経験とともに,投を含む運動の多寡が基盤となる。とくに児童期では,動作習得に対するレディネス(readiness)も整いはじめるため,漸次複雑な動きを取り入れた指導やその効果を確認できる最高の時期となる。
これまで体育授業における投動作学習において,投のプログラムを試みた学習効果の検証が数多く行われ(Wild, 1938; Wickstrom, 1975;奥野ほか,1989; 尾縣ほか,2001; 高本ほか,2004; 小林ほか,2012; 大矢ほか,2015),投距離および動作変容の量的分析が進められてきた。たとえば投運動学習の適時期として,「投距離からみた練習効果は,男子では7・8歳,女子では8歳から10歳で大きく」(奥野ほか,1989, p.33),児童期の学習には,「身に付ける動きのパターンや習熟度を発達段階に応じて示す必要がある」(小林,2012, p.614)ことから,投能力の発達には,対象者の実態に即した段階的・系統的な知識および技能習得の必要性が示唆された。投動作の発達の遅れが球技系運動嫌いや運動・スポーツからの離反につながることを考慮すると,投動作学習の成果が量的に検証されてきたことは極めて重要な試みといえよう。
他方,質的分析では,指導者などへの半構造化面接による検証が多く行われ(田中,2010;四方田ほか,2013;村越,2014;福井ほか,2015),量的にはあらわれにくい心理的側面に着目した検討がなされてきた。たとえば四方田ほか(2013, p.54)は,指導の助言と児童の肯定反応に関し,「体育授業のコミットメントが促される上で共通の重要な契機である」とし,また,福井ほか(2015)は,ゴールキーパーの失点経験は,その後葛藤に適応しながら失点を受容し,自己調整学習を用いて失点を乗り越えて行くといった変容プロセスを解明した。大矢ほか(2017b,p.213)は,中学生における投動作学習後の心理的変容について,「自己有能感をもつことは他の運動に汎化するという心理的循環を経ていた」ことを明らかにした。このように質的分析は,量的にはあらわせない性質や意味の検討に中心を置いており,そのため体育科・保健体育科の教科開発を考えるうえで,一定の指針を与える可能性をもつと考えられる。しかしながら,体育授業における投動作学習の質的分析では,児童・生徒のつまずきについて十分な検討がなされていない。それ
ゆえ,投動作学習における児童・生徒の発達段階を踏まえ,学習過程におけるつまずきについて検討することとした。これらの成果の検証は,他の運動領域の指導の在り方を探るうえでの端緒になると考えられる。
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