抄録
本研究では,量産をともなわない試作品としてのペーパータイプの吸着材を対象に吸着試験を実施し,1 時間ごとに回収した排水サンプルから取得した排水速度や排水のpH 値の経時変化パターン,排水中の金イオン濃度の定量分析データを用いて金イオンの回収率を確認することを目的とした.
吸着試験では,吸着材の毛管現象により排水しながら金イオンを吸着するしくみを採用し,金イオン濃度6.5 mg/L,pH 値1.11 の原水を送液速度6.6 L/ 日で吸着試験装置に投入し,1 時間ごとに回収した排水の水量,pH 値,金濃度のデータを収集した.金イオン濃度の定量分析は,JIS K 0102 52.5 準拠ICP 質量分析法で実施し,定量下限値は,0.01 mg/L で,定量下限値以下の場合は0 とみなし取り扱った.まず,排水は,吸着材の毛管現象のみで実施されていること,その排水速度は,試験を開始してから徐々に上昇し,その後,投入する原水の投入速度と一致することを確認した.
次に,1.11 であった原水のpH 値は,ペーパータイプの吸着材と接触することで,5.2 程度にまで急上昇することがわかった.その後,排水速度がほぼ一定になる頃には,2.5 程度まで低下し,その後,横ばい傾向となることを確認した.最後に,排水中に金イオンが検出されなかったことから,金イオンが,期待通りペーパータイプの吸着材に回収されている,すなわち,金イオンの回収率が100%であることを確認することができた.製品化にむけて,吸着材の厚みや長さ(落差)を変えることで排水速度を変化させたり,原糸体の配合割合や配合の仕方を変えたりした場合,金
イオンの回収率がどのように変化するか詳細な調査を進め,製品としての吸着材が,良好な回収率を確保できる製品仕様の範囲に係る基礎データを収集したい.