抄録
群馬県北部のみなかみ町地内にチャツボミゴケSolenostomavulcanicolaの小群落がある.県南部の下仁田町(標高400 m)では晩秋までに蒴が伸びてしまうが,みなかみ町の生育地(標高1000 m)では積雪が多く,晩秋までに花被が充実し,翌年の早春に蒴柄が伸びるのが観察される.2021 年11 月10 日,花被を調べるために岩壁面から採取した標本を観察すると,花被の先端部がどれも傷んでいることに気付いた.また,コケをほぐすと多数の幼虫が現れ,幼虫がチャツボミゴケを食している可能性があり飼育観察を計画した.
幼虫はコケの間や基物の下に潜み,姿をほとんど見ることがないが,飼育容器内のチャツボミゴケの葉が食されていることが観察され,容器壁面に付着した幼虫の糞内容物にはチャツボミゴケの細胞が確認できた.幼虫は周りの音や動きに敏感で,姿が見られたときは擬死状態であった.幼虫の飼育を開始してから77 日後の5 月16 日に最初の成虫1 匹が羽化し,続いて翌日の17 日,6 月10 日,21 日に羽化し4 個体の成虫が得られた.成虫を確認できたことから,チャツボミゴケを食す幼虫は,ユウレイガガンボ属のDolichopeza(Nesopeza)tarsalis(Alexander, 1919)と同定できた.