蘚苔類研究
Online ISSN : 2424-2624
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13 巻, 2 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
  • 鵜沢 美穂子, 木口 博史
    2024 年13 巻2 号 p. 19-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    茨城県内のコケ植物については,1997 年から茨城県自然博物館が中心となって行った総合調査などにより,継続的な調査が行われている(杉村2001, 2004,2007, 2012, 2020a, b,高橋・古木2016; 高橋2019など). 2011 年には杉村らによりそれまでに発表された茨城県産のコケ植物についてまとめたチェックリストが刊行され,それによると茨城県からは,蘚類298 種,苔類144 種,ツノゴケ類5 種の合計447 種が確認されている(杉村ほか2011).一方,著者らは2010 年から茨城県内のコケ植物の調査を継続して行う中で,これらのリストに掲載されていない7 種(スギバミズゴケ,サンカクキヌシッポゴケ,エゾキヌシッポゴケ,ヒメシワゴケ,コツノゴケ,ヤマトツノゴケモドキ,コニワツノゴケ)を発見したため,茨城県新産種としてここに報告する.引用した標本は全て茨城県自然博物館(INM)に保管されている.
  • 坂井 奈緒子, 古木 達郎, 木口 博史
    2024 年13 巻2 号 p. 25-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    日本の貴重なコケの森No. 30 に選定(2020 年9 月5日)された「立山室堂ならびに弥陀ヶ原一帯」の自然環境や蘚苔類を紹介する.本地域の蘚苔類については,標高約2,000 m からヤマトヤハズゴケ(Inoue 1985:原記載),雷鳥沢からオリンピックゴケ(Akiyama 1997, Iwatsuki et al.2004),雷鳥沢や室堂平からキヌシッポゴケモドキ(Iwatsuki 1956, 坂井2006,2011)などの希少種の報告がされている.また,室堂平周辺の蘚苔類相(坂井2008,2011),ミズゴケ相(坂井2017)の報告がされており,高山性のコケ植物が豊富である.  室堂平の遊歩道沿いの転石にはギボウシゴケ科の種やキシッポゴケなどが生育し,土上にはミヤマスギゴケやヤノウエノアカゴケ,チャボナガダイゴケなどが見られ,ハイマツの樹幹にはキノウエノコハイゴケやミヤマチリメンゴケ,カリフォルニアテガタゴケが着生している.湿原や流水には,ササバゴケやウカミカマゴケ,ウキヤバネゴケなど,地獄谷の硫黄成分の多い流水中にはチャツボミゴケが見られる.玉殿岩屋の中ではヒカリゴケ,板状節理の隙間にはケヘチマゴケ,イシヅチゴケなどが生育する.残雪が7 月下旬頃まで残る大谷では,ガッサンクロゴケが大きな石上に多く見られる.天狗平から弥陀ヶ原の雨天時に水が流れる凹みの土手上部にはヤマトヤハズゴケが生育し,池塘の岸部にはイボミズゴケやサンカクミズゴケ,コバノミズゴケなど,湿った土上にはミヤマミズゴケやホソバミズゴケが群落をつくっている.美松坂の針葉樹林の林床にはコセイタカスギゴケやイワダレゴケ,タチハイゴケ,フジノマンネングサといった大型の種が目立っている.
  • Zheng Tian-Xiong
    2024 年13 巻2 号 p. 29-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    Marchantiaceae is one of the most familiar groupsof all bryophytes due to the inclusion of Marchantia polymorpha L. which has been widely used as a modelplant for nearly two centuries. Compared with itsextensive using in arious fields of biology, taxonomic study of this model family is relatively stagnant and outdated. Here, I conduct an ntegrative study on this family in East Asia.
  • 池松 泰一, 嶋村 正樹
    2024 年13 巻2 号 p. 29-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    タカネツノゴケ(Anthoceros fusiformis Austin)は,日本に6 種分布するツノゴケ属の1 種である.1)葉状体はロゼット状でなく,縁が羽状に切れ込んだ帯状であり,2)無性芽を持たず,3)胞子体が1 cm 以上に成長し,4)胞子求心面のY 字マークの両側に沿って表面の模様を欠く帯状の平滑な部分があることで日本産の同属他種と区別される.本種は北米西海岸と日本に隔離分布し,特に日本ではツノゴケ類としては例外的に山地にのみ産するとされてきた.その一方で,近 年になって栃木県や北海道の人家周辺にも生育することが報告されている.生育地域や生育環境が大きく異なるこれらの植物を同一の種として扱うべきか,疑問が生じた.本発表では,タカネツノゴケについて新たな形態学的・分類学的・分子系統学知見を報告する.
  • 井上 侑哉
    2024 年13 巻2 号 p. 31-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    今回,国内で新たに得られた植物資料およびタイプ標本を含む標本資料の検討を行い,本種の分類学的所属を再検討した.葉緑体rps4 遺伝子とミトコンドリアnad5 遺伝子の塩基配列にもとづく系統解析の結果,キンチャクゴケはAstomiopsis やPleuridiumのクレードには含まれず,Ditrichopsisの種と姉妹群を形成した.形態的にも,葉が卵形の基部から急に短い錐状に尖る点や,中肋を構成するガイドセルが向軸表面にせり出しで外側の細胞壁が著しく薄くなるといった点でitrichopsis と共通の特徴を持つことから,本属へ所属するのが適切と考えられる.
  • 野村 俊尚
    2024 年13 巻2 号 p. 31-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    我々は,江戸城跡の石垣に自生するヒカリゴケの保全活動として,ヒカリゴケの無菌化株を作出し,屋内培養条件で安定的に維持している.一方,基礎科学的な興味およびアウトリーチ活動としての観点から,ヒカリゴケ原糸体においてレンズ状細胞が形成される過程を捉えてみたいと考えており,タイムラプス撮影などの観察を試みている.本発表では,上記の試みからこれまでに見出されているヒカリゴケのレンズ状細胞の形成過程について報告および議論したい.
  • 白崎 仁
    2024 年13 巻2 号 p. 32-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    ホウオウゴケ属(Fissidens)の蘚類,キャラボクゴケ(F. taxifolius)とコホウオウゴケ(F. teysmannianus)は,多雪地域に広く分布する普通種である.植物体の大きさは約5ミリで,両種の特徴は,主に腹翼の細胞表面の突起の形状の違いによるので,顕微鏡下では区別できるが,野外で両種を区別して観察することはできない.そのため,両種の生態的な住み分けや分布の違いの要因を解明することは極めて難しい.本研究の目的は,多雪地域における両種の分布の実態を把握して,それぞれの環境要因を統計解析して,環境要因に対する適応の差異を解明することである.  キャラボクゴケは,コホウオウゴケよりも,夏季の乾燥耐性が比較的強く,多湿に比較的弱いことが,分布のわずかな差異に反映していると考える.少雪地域では,両種の夏季の乾燥耐性の差異が,分布に大きく影響するかもしれない.
  • 中島 啓光
    2024 年13 巻2 号 p. 32-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    私は2023 年度に採択された科研費基盤C(課題番号23K02809)「コケ植物を対象とした分野横断的科学研究プログラムの開発」と題する研究を行っている.これまでに,フィールドとしているコケ庭を調査したところ,研究テーマとなりそうな事象が見つかっている(図1).スギゴケの群落の中で,普段ヨシズが覆っていて日陰の部分は緑色なのに対し,日向の部分は黄緑色をしていて,色の境界がはっきりしていた(図1).そこで本研究の目的は,「なぜ日向と日陰 でスギゴケの色が違うのか?」という問いへの答えを求め,上記の科学教育プログラムの研究テーマとして適切かどうかを評価することである. 日向のスギゴケは日陰に比べて11~21 倍の照度の光が当たるため,日陰のスギゴケよりも強光下での光合成効率が高い.この高効率化のために,日向のスギゴケは構造や色素の組成が日陰のものとは異なり,色が違うものと考えられる.
  • 佐藤 守
    2024 年13 巻2 号 p. 33-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    東京電力福島原発事故4 年後から8 年間,伊達市2か所のコケ類中セシウム137 濃度と空間線量率を定点調査した.更に他のエリアの調査結果と併せて主要コケ種濃度と空間線量率との相関を検討した結果,一定の知見が得られたので報告する.
  • 大塩 愛子, 石原 のり子, 仁木 夏実, 林田 定男
    2024 年13 巻2 号 p. 34-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    『歌ことば歌枕大辞典』1において,「苔」は「湿地・岩・古木などに生える蘚類・苔類・地衣類およびシダ植物の総称」と解説されている.また,歌語「苔の衣」については,「僧侶や隠遁者が着る衣服.俗世を離れた修行者の衣が苔のように古びることに由来するとされる」とある.「苔のように古びる」とは如何なる状態を意味するのだろうか.意味が掴みにくい表現である.日本文学の研究においては,「苔の衣」は歌語としてあまりに有名でなじみがあり過ぎ,その成立の過程については顧みられることがなかったと言えよう.そこで,歌語としての「苔の衣」の成立の過程を考えてみたい.
  • 弘松 瑶希, 井上 侑哉, 坪田 博美
    2024 年13 巻2 号 p. 35-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    ヒジキゴケはヒジキゴケ科に属す蘚類で,日当たりの良い岩上に生えている.植物体は,葉が乾くと茎に密着して紐状に見える.葉先は透明であること,葉身細胞上部のパピラに枝分かれがあること,苞葉が繊毛状になっていることなどが特徴である.本種が含まれるヒジキゴケ属は,北半球を中心に寒帯と温帯地域に広く分布している. 日本産の標本を用いた分類学的な再検討は行われていない.現在我々は,日本国内の標本を用いて,日本産ヒジキゴケ属植物の実態を明らかにすべく研究を進めている.本発表では,これまで日本産の標本について分子系統学的な解析を行った結果を発表した.
  • 西畑 和輝, 中西 花奈, 山口 富美夫
    2024 年13 巻2 号 p. 35-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    2023 年1 月に大阪市の咲くやこの花館でこけ展が開催された.こけ展では,大温室内のコケ植物に着目して展示が行われた他,普段来館者の目に触れることのないバックヤードで育ったコケ植物が多く展示された.今回,来館者として訪れた筆者らは,展示物の中に国内に分布が見られていないカタシロゴケ科の一種Calymperes pallidum Mitt. が植物園の管理下でひっそりと生育していることに気がついたため,本種の紹介を行いたい. 今回の発見は,海外から意図せず持ち込まれたコケ植物が国内で定着するか否かという実態把握の一例となるとともに,植物園や関連施設周辺での調査・研究の必要性を感じさせる事例である.
  • 河原 希実佳, 坪田 博美
    2024 年13 巻2 号 p. 36-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    Sphaerocarpos ダンゴゴケ属は,ダンゴゴケ目ダンゴゴケ科に属するタイ類で,世界で9 種が知られている.本属は湿った土地に生育し,ヨーロッパやヒマラヤ,北米,南米,アフリカ,オーストラリアの温帯域に広く分布しており,植物で最初に性染色体の存在が確認された植物としても有名である.日本では西村ほか(2012)によって岡山県での生育が報告され,形態学的特徴からS. donnelliiと同定された.国内では岡山県南部の田や用水路で生育が確認されており,稲刈りが終わる秋に配偶体が成長し,春先に胞子を形成する冬季一年生の植物である.本研究では,Sphaerocarpos属植物の手軽な培養条件を確立することを目的に,野外で採集したS. donnellii の胞子をシャーレ内で培養した.胞子発芽,植物体の成長,生殖器の形成,受精,胞子形成,胞子採取,累代培養の一連の生活環を完了させることに成功したことを報告する.
  • 鮎川 恵理, 村上 英樹, 佐々木 栄洋
    2024 年13 巻2 号 p. 36-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    2023 年4 月24 日に岩手県遠野市(株)栄組社用地の日当たりのよいコンクリート基盤(180 cm×100 cm)上に,珪藻土焼成品(シリカ# 300S,中央シリカ(株)製)を約6 cm の高さで敷き詰め,約5 cm 四方のエゾスナゴケ(Niphotrichum japonicum)群落の仮根分を乾燥状態の珪藻土に押し付けて植え付けたのち,じょうろで水やりすることにより,珪藻土の基質と群落を固定した.その後は,水やりをせず野外で自然状況下で栽培中である. これまでに珪藻土上で群落の拡大が観察されており,長径および短径の計測を約20 日に1 回実施している.今回は実験開始からの群落の成長について発表する.なお,本研究はJST 研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラムA-STEP トライアウトJPMJTM22A5の支援を受け実施中である.
  • 長崎 涼平, 井上 侑哉, 坪田 博美
    2024 年13 巻2 号 p. 37-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    本種は形態の可塑性が大きく,Kamimura(1961)は腹片の形態や腹葉の大きさなどの違いに基づいて,本種の中にForm A‒E の5 型を認めている.これらの違いが環境によるものか遺伝的な背景によるものか明らかにするため,現在分子系統学的研究を進めている.本研究では,解像度の高い遺伝的マーカーを得ることを目的にF. muscicola の葉緑体ゲ ノムを決定した.
  • 井藤賀 操
    2024 年13 巻2 号 p. 37-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,量産をともなわない試作品としてのペーパータイプの吸着材を対象に吸着試験を実施し,1 時間ごとに回収した排水サンプルから取得した排水速度や排水のpH 値の経時変化パターン,排水中の金イオン濃度の定量分析データを用いて金イオンの回収率を確認することを目的とした. 吸着試験では,吸着材の毛管現象により排水しながら金イオンを吸着するしくみを採用し,金イオン濃度6.5 mg/L,pH 値1.11 の原水を送液速度6.6 L/ 日で吸着試験装置に投入し,1 時間ごとに回収した排水の水量,pH 値,金濃度のデータを収集した.金イオン濃度の定量分析は,JIS K 0102 52.5 準拠ICP 質量分析法で実施し,定量下限値は,0.01 mg/L で,定量下限値以下の場合は0 とみなし取り扱った.まず,排水は,吸着材の毛管現象のみで実施されていること,その排水速度は,試験を開始してから徐々に上昇し,その後,投入する原水の投入速度と一致することを確認した. 次に,1.11 であった原水のpH 値は,ペーパータイプの吸着材と接触することで,5.2 程度にまで急上昇することがわかった.その後,排水速度がほぼ一定になる頃には,2.5 程度まで低下し,その後,横ばい傾向となることを確認した.最後に,排水中に金イオンが検出されなかったことから,金イオンが,期待通りペーパータイプの吸着材に回収されている,すなわち,金イオンの回収率が100%であることを確認することができた.製品化にむけて,吸着材の厚みや長さ(落差)を変えることで排水速度を変化させたり,原糸体の配合割合や配合の仕方を変えたりした場合,金 イオンの回収率がどのように変化するか詳細な調査を進め,製品としての吸着材が,良好な回収率を確保できる製品仕様の範囲に係る基礎データを収集したい.
  • 中澤 和則
    2024 年13 巻2 号 p. 38-
    発行日: 2024/08/20
    公開日: 2024/12/24
    ジャーナル フリー
    群馬県北部のみなかみ町地内にチャツボミゴケSolenostomavulcanicolaの小群落がある.県南部の下仁田町(標高400 m)では晩秋までに蒴が伸びてしまうが,みなかみ町の生育地(標高1000 m)では積雪が多く,晩秋までに花被が充実し,翌年の早春に蒴柄が伸びるのが観察される.2021 年11 月10 日,花被を調べるために岩壁面から採取した標本を観察すると,花被の先端部がどれも傷んでいることに気付いた.また,コケをほぐすと多数の幼虫が現れ,幼虫がチャツボミゴケを食している可能性があり飼育観察を計画した. 幼虫はコケの間や基物の下に潜み,姿をほとんど見ることがないが,飼育容器内のチャツボミゴケの葉が食されていることが観察され,容器壁面に付着した幼虫の糞内容物にはチャツボミゴケの細胞が確認できた.幼虫は周りの音や動きに敏感で,姿が見られたときは擬死状態であった.幼虫の飼育を開始してから77 日後の5 月16 日に最初の成虫1 匹が羽化し,続いて翌日の17 日,6 月10 日,21 日に羽化し4 個体の成虫が得られた.成虫を確認できたことから,チャツボミゴケを食す幼虫は,ユウレイガガンボ属のDolichopeza(Nesopeza)tarsalis(Alexander, 1919)と同定できた.
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