地質調査研究報告
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西南日本内帯の白亜紀−古第三紀花崗岩類の成因に対する酸素同位体組成からの束縛条件
石原 舜三松久 幸敬
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2002 年 53 巻 4 号 p. 421-438

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抄録

西南日本内帯の白亜紀-古第三紀花崗岩類の成因を明らかにするために全岩130試料,石英7試料の酸素同位体組成(SMOWに対するδ18O値)を測定した.その値は磁鉄鉱系花崗岩類では6 ‰以上,チタン鉄鉱系では9 ‰以上の場合,二次的変化を受けていない,初生的な値と判断される.δ18O値は磁鉄鉱系で低く,チタン鉄鉱系で高い.磁鉄鉱系の山陰-白川帯では,白川地域で5.9~8.1 ‰, 奥丹後-鳥取東部で6.9~10.6 ‰,三朝-上斉原地域で6.0~8.2 ‰である.一方,チタン鉄鉱系花崗岩類では,山陽-苗木帯の土岐花崗岩体(無鉱化)で9.2~9.8 ‰,タングステン鉱化を伴う苗木花崗岩体で7.4~8.1 ‰であるが,京都の大谷鉱山岩株では逆に11.7~12.8と高い.近畿-中国地方のチタン鉄鉱系花崗岩類は一般に7.3~10.8 ‰の値を持つが,山口県東部のみが11.6~12.0 ‰と例外的に高い.この花崗岩類はその北方のタングステンスカルン鉱床と関係している可能性がある.領家帯の花崗岩類は一般に高いδ18O値を持つ.中部地方のI帯のIタイプ花崗岩類は9.0~10.9 ‰,IIとIII帯のIタイプ花崗岩類が9.1~12.1 ‰,Sタイプ花崗岩類が10.5~12.5 ‰である. 測定値を八丈島の第四紀火山岩類のトレンドに合わせてSiO2 70 %に規格化したδ18O値を求めて広域的分布を見ると,磁鉄鉱系が主として分布する日本海側で低い値(< 8 ‰ δ18O)が多く,全般に高い(> 8 ‰ δ18O)山陽-苗木帯と領家帯で幾つかの極大が認められる(第7図).δ18O値 -87Sr/86Sr初生比図上で磁鉄鉱系花崗岩類はδ18O値が低く,87Sr/86Sr初生比が中間的な領域を占める.この事実はこれら花崗岩類が大陸地殻中-下部の火成岩類に主たる起源を有することを示している.他方,チタン鉄鉱系は両同位体比とも一般に高い領域に分布し,大部分は領家変成岩類の平均値と第四紀玄武岩を結んだ領域を占める.この事実は,岩体中に苦鉄質アンクラーヴが多いことと合わせ て,Iタイプ花崗岩類はマントルからの苦鉄質マグマと地殻深部まで折り畳まれたであろう付加体を起源物質としたことを示している.堆積岩源物質の比率は一般には20~30 %と考えられる.一方,Sタイプ花崗岩類は苦鉄質包有物を含まず,堆積岩源物質50 %程度で酸素同位体的に均質化した大陸地殻物質の部分溶融で生じたものと考えられる.白川・土岐・奥丹後などの87Sr/86Sr初生比が高い地域の深部には古期基盤の存在が予想される.

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© 2002 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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