地質調査研究報告
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論文
石灰岩が河川堆積物中の元素濃度に与える影響の低さについて
―秋吉地域の例―
太田 充恒南 雅代
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2013 年 64 巻 5-6 号 p. 121-138

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抄録

要 旨 地質調査総合センターは日本において,細粒砂(< 180 μm)を用いた全国規模の53元素濃度の地球化学図を作成してきた.河川堆積物中の元素濃度の空間分布は地質や鉱山の分布を忠実に反映している.しかし,石灰岩岩体は例外であり,河川堆積物中の元素濃度にほとんど影響を与えていない.そこで我々は,この理由を明らかにすべく,日本最大規模の石灰岩岩体である秋吉台から採取した河川堆積物中の元素濃度並びに鉱物組成を調べた.流域に石灰岩を含む地域で採取された細粒砂(< 180 μm)は,CaO濃度が高く,そのX線回折データには強い方解石のピークが存在した.堆積物中の元素濃度の粒径依存性を調べたところ,粒径が細かくなるほど方解石の存在度が高くなりかつCaO濃度も増加した.しかし,石灰岩が流域に70%を超える面積を占める試料が示すCaO濃度は,予想される値(~50 wt. %)に比べて,10–20 wt. %と非常に低い.この矛盾した結果は,石灰岩岩体は化学風化によって水に溶けやすいが,物理風化・削剥を受けにくい事によって説明できる.すなわち,石灰岩岩体から供給される砕屑粒子の供給量が他の岩体の供給量に比べ圧倒的に低い事を意味する.また,SrはCaとよく似た化学的挙動を示す事が期待されるにもかかわらず,一部の試料中のSr濃度はCaO濃度や方解石のピーク強度とは良い相関関係を示さなかった.これは,炭酸カルシウムに対して過飽和な水から、秋吉石灰岩とは異なるSr濃度を持つ方解石が形成され、河川系に供給されたことを意味する.

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© 2013 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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