2022 年 14 巻 1 号 p. 1_2-1_10
目 的
日本に永住帰国した中国残留日本人孤児(以下,残留孤児)のストレス対処力(sense of coherence: SOC)及び関係する特性を明らかにすることである。
方 法
128名の残留孤児を対象に無記名自記式質問紙による横断調査を行った。SOC-13(7件法)中国語版,および特性調査紙を中国語に翻訳して用いた。
結 果
回収は75部(回収率58.6%),うち69部(有効回答率92.0%)を分析対象とした。残留孤児の平均年齢は76.6歳(SD 2.6),平均永住帰国後年数は29.2年(SD 6.9)だった。日本語で意思疎通できる人は42.0%,中国での被差別経験は55.0%,日本での被差別経験は65.1%があると答えた。健康に対する主観的不安感は,63.7%があると答え,主観的幸福感については,88.4%が幸福と答えた。
残留孤児のSOC得点は,平均59.7点(SD 10.7)で,同世代の日本人,中国人と比べて低かった。SOC得点に有意な差がみられた特性は,【日本語での意思疎通の可否】,【中国での被差別経験の有無】,【日本での被差別経験の有無】,【日本での被差別経験の頻度】,【健康診断へ毎年必ず行くか否か】の5因子であった。
考 察
残留孤児の半数以上は日本語での意思疎通が難しく,中国および日本での被差別経験があり,それがSOC得点に関係していた。一方で,健康診断へ行くこととSOC得点にも有意差がみられたことから,良質な健康行動,健康習慣を持つことで強いストレス対処力を保持することが示唆された。