文化看護学会誌
Online ISSN : 2433-4308
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原著論文
  • 石井 恵美子, 野崎 真奈美, 永野 光子
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1_2-1_10
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/06/06
    ジャーナル フリー

    目  的
    日本に永住帰国した中国残留日本人孤児(以下,残留孤児)のストレス対処力(sense of coherence: SOC)及び関係する特性を明らかにすることである。
    方  法
    128名の残留孤児を対象に無記名自記式質問紙による横断調査を行った。SOC-13(7件法)中国語版,および特性調査紙を中国語に翻訳して用いた。
    結  果
    回収は75部(回収率58.6%),うち69部(有効回答率92.0%)を分析対象とした。残留孤児の平均年齢は76.6歳(SD 2.6),平均永住帰国後年数は29.2年(SD 6.9)だった。日本語で意思疎通できる人は42.0%,中国での被差別経験は55.0%,日本での被差別経験は65.1%があると答えた。健康に対する主観的不安感は,63.7%があると答え,主観的幸福感については,88.4%が幸福と答えた。
    残留孤児のSOC得点は,平均59.7点(SD 10.7)で,同世代の日本人,中国人と比べて低かった。SOC得点に有意な差がみられた特性は,【日本語での意思疎通の可否】,【中国での被差別経験の有無】,【日本での被差別経験の有無】,【日本での被差別経験の頻度】,【健康診断へ毎年必ず行くか否か】の5因子であった。
    考  察
    残留孤児の半数以上は日本語での意思疎通が難しく,中国および日本での被差別経験があり,それがSOC得点に関係していた。一方で,健康診断へ行くこととSOC得点にも有意差がみられたことから,良質な健康行動,健康習慣を持つことで強いストレス対処力を保持することが示唆された。

  • ― 文化の視点からの一考察 ―
    中村 伸枝, 水野 芳子, 奥 朋子, 瀬尾 智美, 眞嶋 朋子, 仲井 あや
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1_11-1_20
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/06/06
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,専門看護師として10年以上活動している専門看護師の認定後5年目までの活動の広がりおよび自己教育を明らかにし,文化の視点から考察することである。専門看護師として認定され10年以上活動している7専門看護分野の専門看護師15名に,半構造化面接を実施し,質的帰納的分析を行った。
    その結果,専門看護師の認定後5年目までの活動として,「所属部署における直接ケアを中心とした活動」,「施設内での横断的活動の確保と定着」,「施設内での専門看護師としての活動」,「施設外に向けた専門看護師としての活動と発信」が得られた。また,専門看護師の自己教育として,「高度実践に向けた事例分析とエビデンスの更新」,「事例検討会や学会活動等を通した高度実践の内省と研鑽」,「サブスペシャリティ強化に向けたスキルの獲得」,「国内外の研修を通した多職種との交流」が得られた。認定後5年目までの専門看護師の活動は,自己教育に支えられた対象者への質の高い看護実践が基盤となり,看護職の文化,組織文化のなかで受入れられていた。
    専門看護師の活動は,専門看護師の理論やエビデンスに基づいた意図的な働きかけ,質の高い看護の看護スタッフへの浸透,看護管理者のサポートによる職位や立場の変化,多職種への専門看護師の認知などが合わさり,拡大していた。

  • ― 中国人が集まる地域活動に参加する対象者に焦点を当てて ―
    姚 利, 石井 優香, 山崎 由利亜, 石橋 みゆき, 正木 治恵
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1_21-1_30
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/06/06
    ジャーナル フリー

    目  的
    中国人が集まる地域活動に参加する在留中国人高齢者を対象に異国在住での主観的健康感と健康に関わる経験の調査を通して,彼らの健康に関する思いを明らかにすることである。
    方  法
    日本の首都圏に在住する中国人高齢者13名を対象に個別に半構造化面接を実施し,質的帰納的に分析した。
    結  果
    全体分析により,【身体機能や精神状態から主観的に健康の良し悪しを評価している】【安全で便利な社会に住むことを安心だと感じている】【他者の支援を受けることで安心して生活できている】【老いを受け止めて前向きに生きている】【言葉の壁で生活は制限されたが中国人との関わりや趣味を通して気楽に生活している】【家族で互いに支える生活を継続したい】【良い医療サービスをうまく利用できるので安心している】【健康を維持するため中医学に基づき自主的に健康管理をしている】という8つの健康に関する思いが明らかとなった。
    結  論
    在留中国人高齢者においては,高齢期の発達課題や,中国文化,言葉の壁が彼らの健康に関する思いに影響を与えていることが明らかとなった。言葉による制限や母国文化の継続は彼らの安心感や,健康促進,老後生活の希望に強く影響を及ぼすため,言葉の壁を取り除く環境整備や彼らに馴染んだ文化や健康促進方法に基づいたケアの提供の重要性が示唆された。

  • ―地域文化に根ざした地域看護活動の示唆を得るために―
    座嘉比 照子, 大湾 明美, 田場 由紀
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1_31-1_38
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/06/06
    ジャーナル フリー

    目  的
    統合失調症の子をもつ高齢母親 (以下,母親)の子の病の経過の中で,民間信仰の体験を明らかにし,地域文化に根ざした地域看護活動への示唆を得ることである。
    方  法
    沖縄で暮らす統合失調症の子を持つ70歳以上母親10名を対象に半構造化した面接調査を行った。調査内容は,母親の民間信仰に対する体験であり,分析は,母親の民間信仰の捉え方,民間信仰への希望,民間信仰の体験にまつわる自己評価はどのようなものか,の視点で質的帰納的に行った。
    結  果
    母親のユタ利用のきっかけは,「子の病」8名,「夫の病」1名で利用なしが1名であり,ユタ利用の経緯は,「他者の勧め」7名,「自己の意思」2名であった。
    母親の民間信仰に対する捉え方は,【暮らしに染み込む民間信仰】,【祖先とのつながりをつくる民間信仰】,【肯定されるだけではない民間信仰】であった。子の病気に対する民間信仰への希望は,【霊の力への期待】,【親の子を想う愛情の現れ】であった。民間信仰を活用したこと (活用しなかったこと)についての自己評価は,【医療では補うことができない心の支え】,【「医者半分ユタ半分 (医者とユタの併用)」の支持】,【支えを受けつつ育つ拝む力】,【多様な価値の受け止め】であった。
    考  察
    地域看護活動のあり方は,地域文化からみた病気の認識への理解,相談における家族への対応の具体化であることが示唆された。

総説
  • 楊 惠晴, 正木 治恵
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1_39-1_47
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/06/06
    ジャーナル フリー

    背景と目的
    ICUに入室した終末期患者は意思決定能力に不確かさが生じやすく,家族が代理で意思決定を行うことも少なくない。医療従事者がアドバンス・ケア・プランニングに患者を関与させることはほとんどなく,ICUにおける終末期患者の意思決定支援のニーズは十分に検討されていない。本研究は,患者の自己決定権が法整備されている台湾のICUにおける,終末期患者の意思決定の現状を文献にて把握し,意思決定を支える看護実践の特徴を明らかにすることを目的とした。
    方  法
    台湾の“中文電子期刊服務”および“期刊文獻資訊網”のデータベースを用い,2021年5月に検索を行った。キーワードを「加護病房」AND「決策」AND「末期」として検索し,文献の選別は,選定基準と除外基準に沿って行った。意思決定を支える看護実践に関する内容を抽出し,内容の類似性によりカテゴリーに統合した。
    結  果
    最終的に13件の文献が選ばれた。1)患者の最善を中心とした考え,2)意思決定能力を有する終末期患者の自己決定の擁護,3)家族との面会調整による感情の共有と安定,4)代理意思決定者となった家族にかかわる態度,5)家族の状況に応じた情報提供の仕組みづくり,6)家族会議における多職種との連携,7)医療職間における安寧緩和ケアの概念の共有という7つのカテゴリーが導かれた。
    結  論
    意思決定の際に患者の最善の利益を重視した治療に関する選択肢を提案し,安寧緩和ケアの概念を共有できるような仕組みを構築することが重要であると示唆された。

  • 拝田 一真, 正木 治恵
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1_48-1_56
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/06/06
    ジャーナル フリー

    地域包括ケアが推進されるなか,高齢者の多くは身体機能が悪化しても様々な理由から自宅での療養を望んでおり,在宅高齢者のその人らしい生活を支えるために自宅での療養を希望する意味への包括的な理解が看護には求められる。そして,複合的な概念である“HOME”は高齢者が自宅での療養を望む理由を包括的に説明し得ると考えられたため,本研究は在宅高齢者のHOMEの意味に関する質的知見を収集,統合することを目的としている。
    選出された計14文献をデータ源としてテーマ分析を行った。その結果,71個のコードが抽出され,16個のサブテーマを経て【HOMEが支える自分らしさ】,【HOMEが支える健康】,【HOMEが創る社会的繋がり】,【HOMEが持つ機能性】,【HOMEで実感する役割】,【HOMEで維持する自立・自律】,【HOMEにある自分にとって特別な雰囲気】,【HOMEにおける往古来今に伴う変化】,【在宅ケアによるHOMEへの影響】の9つのテーマに統合された。
    本研究結果の特徴は自身にとって好ましくない様々な変化を経験してもその変化を受容し,一貫して自分らしく生活できるように尽力しているという在宅高齢者の強さを示した点にある。そして,様々な健康問題を抱える高齢者のその人らしい生活を支えるためには,自宅での療養を希望する意味を“HOMEの意味”から包括的に捉えた上で高齢者と協働するケアが重要であると考えられる。

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