文化看護学会誌
Online ISSN : 2433-4308
Print ISSN : 1883-8774
原著
表現する生存者の戦術的実践
― 経験の深化と「正常」と「異常」の再構成 ―
杉本 洋
著者情報
キーワード: 生存者, 戦術, 表現活動, 経験
ジャーナル フリー

2011 年 3 巻 1 号 p. 1_10-1_19

詳細
抄録

 病気は医学的観点からのみならず,広く社会的,文化的に経験されるものである。病気を持つ人々を単に患者,被害者という枠組みではなく,病気を生き抜いてきた生存者としてとらえる動きがある。病気を有する生存者の経験や苦悩に対する実践についての知見は積み重ねられているが,それらの知見は,病気の影響を減ずるという基本的な方略に基づくものが主流である。そこで,日々病気のある生活を生きる上で,病気の影響を減ずる以外にいかなる戦術が想定されるのか,といった問題意識が生じてくる。本研究は,病気をイベントにて詩やトークで「表現する」という,病気を巧みに用いた実践をみつめ,そこから,いかなる戦術を用いて生存者が日々生き抜いているか,の一端を明らかにする。具体的には精神疾患を主とする病気やひきこもりなどの経験を持つ人々によるパフォーマンス活動における民族誌学的調査から,パフォーマンス活動の運営,表現される内容,ステージ上で語られるトークの例を示す。病気を表現する生存者達は,表現活動・創作を通して,病気を有する経験を深化させ,「正常」と「異常」を再構成する,といった戦術的実践を繰り広げている。こうした生存者の実践から,広く慢性的な疾患や社会的な苦悩を抱える人々に対する看護への示唆を述べるとするならば,生存者の実践にみられる経験しつくすような立場の尊重や「正常」と「異常」といった概念の流動性を支援者自身が認識し,支援を再考していく必要性が強調されるところであると考えられる。

著者関連情報
© 2011 文化看護学会
前の記事 次の記事
feedback
Top